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惑星⭐︎すらぐ!!  作者: 藍川 卯木子


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第八話 若返りの薬

「そんな都合のいい薬、あるわけねぇだろ」


 軽く笑いながら返したのに、エチカはなぜか得意げに胸を張った。


「あるもん! エチカが作ったの!」

「お前ほんと、なんでも作るな……」

「でもね、ちょっと適当に作っちゃったから、もう配合忘れちゃった。えへへ」


 冗談みたいな話だ。


 なのに、不思議と嘘をついてる顔には見えなかった。


 焚き火がぱちりと弾ける。

 揺れる炎の向こうで、エチカの瞳だけが妙にまっすぐだった。


「エチカね、昔、全然眠れなかったの」

「眠れない?」

「うん」


 エチカは膝を抱えながら、小さく頷く。


「夜になるのが怖くて。目閉じるの、嫌で……だから、眠れたら楽かなって思って、お薬作ったの」


 さらっと言われたその一言が、妙に胸に引っかかった。


「それ飲んだら、今のエチカになっちゃったんだけどね!」


 笑っている。


 けれど、その笑顔はどこか薄かった。

 無理やり明るくしてるみたいに見えて、俺は少しだけ言葉に詰まる。


「……でもさ」


 エチカは焚き火へ手をかざしながら続けた。


「小さくなって、よかったって思ってるんだ」

「そうなのか?」


 自然と聞き返していた。


 エチカはぱっと顔を上げる。


「うんっ! 前より、ずーっと自由になった気がするの!」


 無邪気な笑顔だった。


 なのに、また胸の奥が妙にざわつく。


 こいつの言葉は時々、勝手に人の中をかき回してくる。


 その時だった。


 ――――ウゥゥゥゥゥゥン!!


 甲高いサイレンが夜を切り裂いた。


 錆びた建物の隙間で反響しながら、不快な音が耳を殴ってくる。


「ひゃっ!?」


 エチカがびくっと肩を震わせた。


「ジーノ、この音なに!? うるさい〜!」


 耳を塞ぎながら、落ち着きなく周囲を見回している。


 俺は片耳をほじりながら肩をすくめた。


「ああ、あれか。ブリアンの特別部隊が動いてる合図だ」

「とくべつぶたい?」

「“近寄ったら殺すぞ”っていう警告みてぇなもんだ」


 エチカはきょとんとする。


「なんで?」

「お前の宇宙船探してんだろ」


 焚き火をつつきながら答えた。


「この星じゃ、お前みたいなのは侵入者扱いだからな」

「そっかぁ」

「ま、宇宙船は消えちまってるし、見つけようがねぇけど」

「ミラクル☆スペースシップだからね!」


 エチカがえっへんと胸を張る。


「はいはい、すごいすごい」


 俺は苦笑しながらポケットを探り、小さな綿を二つ取り出した。


「ほら、耳栓代わりに使え」

「わーい」


 だがエチカは受け取った綿を、そのまま横に置いてあった蒸留水へ浸した。


「おい、なにしてんだ?」

「んー?」

「耳栓濡らしてどうすんだよ」


 エチカはにひっと笑う。


「こうしたほうが音が小さくなるの!」


 そう言うなり、濡らした綿をぎゅっと絞り、細く尖らせると――


「はい、じっとして」

「え?」


 ぐいっ。


「うおっ!?」


 いきなり耳に突っ込まれた。


 だが次の瞬間、耳を突いていたサイレンが急に遠くなる。


「……あれ?」


 完全には消えない。

 けれど、確かにいつもよりかなりマシだった。


 俺が呆然としていると、エチカは得意げに親指を立てる。


「どう?」


 そう言って、自分の耳にも綿を詰め込む。


「ったく、お前ってやつは……」


 呆れているはずなのに、気づけば笑っていた。


 しばらくして、ようやくサイレンが止む。


 静けさが戻ると、エチカはほっとしたように耳栓を外した。


「ふぅ〜……」


 そのまま眠そうに目をこする姿は、本当にただの子供みたいだった。


「そろそろ寝るか」

「うん……」


 エチカが小さくあくびをする。


 俺は寝床からブランケットを引っ張り出し、簡易ベッドを指差した。


「お前、今日はそこ使え」

「え、いいの?」

「床よりマシだろ」

「ジーノは?」

「俺は床で慣れてる」


 エチカは毛布にもぐり込みながら、じーっと俺を見つめてきた。


「……なんだよ」

「ジーノさ」


 エチカが少し首を傾げる。


「ほっぺ紫になってる」

「……ああ」


 治安維持隊に殴られた痣だ。


「ちょっと殴られただけだ。気にすんな」

「ちょっと?」

「この星じゃ普通だよ」


 自分で言って、少し嫌になる。


 エチカは黙ったまま、まっすぐ俺を見ていた。


「ねぇ、ジーノ」

「ん?」

「ブリアンって、悪いやつなの?」


 その問いに、俺は少し視線を落とした。


 焚き火の火が小さく揺れる。


「……俺たちにとっちゃ最悪の支配者だ」


 ゆっくり息を吐く。


「あいつがこの星を握ってから、街も環境もどんどん壊れた。元々ろくでもねぇ星だったけど、それでも今よりはまだマシだったらしい」

「らしい?」

「俺が物心ついた頃には、もう終わってたからな」


 ガン爺が昔よく話していた。


 まだ人が支え合って生きていた頃のこと。

 援助船が来ていたこと。

 笑う奴が、今よりずっと多かったこと。


 でも、そんな話をこの小さな少女に聞かせる気にはなれなかった。


「そっかぁ……」


 エチカは顎に指を当て、しばらく真剣に唸っていた。


「うーん……」


 そして突然、ぱっと顔を上げる。


「よし、決めた!」

「は?」


 エチカは満開の笑顔で言い放った。


「ブリアン、一緒にやっつけようね!」

「……は?」

「おやすみ、ジーノ!」


 一気に言い切ると、そのまま毛布に潜り込む。


 数秒後には、もう小さな寝息が聞こえてきた。


「おい、ちょっと待て……」


 返事はない。


 完全に寝ていた。


 無防備な寝顔。

 子供みたいなくせに、とんでもないことばかり言う。


 俺は床へ横になりながら、小さく息を吐いた。


「グライト・ブリアンを倒す、か……」


 焚き火の残り火が、赤く揺れる。


「夢物語にもほどがあるぜ」

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