表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
惑星⭐︎すらぐ!!  作者: 藍川 卯木子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/51

第四十五話 追憶

 あの日の空は、今でも信じられないほど澄んでいた。

 まるで星々が泣きながら笑っているような、透明で、どこか胸を刺す光を放っていた。 

 惑星スラグで一番背の高い給水塔。その頂上に、ひとりの少女が立っていた。  

 ルイーズ。 

 心の中でその名をそっと呼ぶだけで、幼いころの私の胸は不思議と締め付けられた。

 理由なんて、考えるまでもなかった。ただ、抗えないほど惹かれていた。  

 地上から彼女を見上げた瞬間、私は息を呑んだ。 

 高所に吹く風が彼女の髪をさらい、星の光を拾って銀の輪郭を描き出す。 

 その姿は、惑星スラグの女神のようだった。スラグの夜空を統べ、星の軌道にさえ干渉できるのではないかと思えるほど、圧倒的で、完璧だった。 

 生まれながらに特別な何かを宿した者。

 私にはないものを、当たり前のように持っている存在。  

 ルイーズはふいに気づいたようにこちらを振り返り、夜の光よりも眩しい笑顔を向けてきた。


「この星を見に来たの? 君も、ここまで」


 風に溶けたその声は、星の欠片が耳元で弾けるみたいに軽やかで、胸の奥に染み込んだ。 

 言葉が喉につかえて出てこない私に、彼女は続けて言った。


「スラグで星を見るなら、ここがベストスポット。平らで、登れて、誰にも邪魔されない。ねえ、よかったらこっちに来ない?」  


そう言って、私に真っ直ぐに手を差し伸べてくる。


「一緒に星を見よう」  


 その瞬間の光景を、私は今でもありありと思い出せる。 

 あれは、私の人生で最も美しい記憶だ。 

 星と少女が溶け合い、私がずっと求めていた何かの形が、初めて輪郭を持った夜。   


 だが── 


 人間というものは、手に入れたと思った瞬間に、最も大切なものを指の間からこぼしてしまう生き物だ。 

 

 ◯●◯

   

 目を開けた瞬間、四方八方を星が埋め尽くしていた。 

 音一つない深淵のただ中で、私は重さを失った身体を宙に漂わせていた。


「あぁ……これは……あの時の光景か」  


 思わず声が漏れた。胸の奥に、忘れたはずの痛みが鈍く揺れる。

 瞼を閉じると、あの夜のルイーズの姿が鮮やかによみがえる。 

 星の海に立ち、迷いなく私へ手を差し伸べてきた少女。

 夢だったのか、現実だったのか。境目がわからなくなるほど、あれは強烈な記憶だ。   

 そのとき、突然、身体に重力がまとわりついた。体が反転する。

 惑星スラグの引力だと、すぐに理解した。 

 見えない糸を掴まれたように、私は星の世界から引きずり落とされていく。

 視界が反転し、落下の感覚が一気に強まる。

 闇の底から浮かび上がるように、ひとつの輪郭が見えてきた。 

 私の屋敷だ。

 何度も見慣れたはずの屋根が、星明かりの下でゆっくりと迫ってくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ