第四話 空から落ちて来た少女
地面を転がったせいだろう。少女の白衣はあちこち土で汚れていた。
けれど、そんなことはどうでもよくなるくらい、俺の目はその姿に引き寄せられていた。
淡い緑色の長い髪が、風にふわりと揺れる。
幼い顔立ちなのに、その瞳だけは妙に澄んでいた。まるで磨かれた水晶みたいに、透き通って鋭い。
真っ白な白衣に、肩から提げたピンク色の小さなポシェット。
この星の人間じゃない。
見た瞬間、そう感じた。
巨大な白い球体と同じだ。そこに存在していること自体が、どこか不自然だった。
気づけば、勝手に口が動いていた。
「……お前、誰だ?」
少女がくるりと振り返る。
「ふぇ?」
ぽかん、とした声だった。
なんだその反応。
一瞬で調子を狂わされる。
「いや、“ふぇ?”じゃなくてだな――」
言いかけたところで、少女がぱっと顔色を変えた。
「あっ!!」
次の瞬間、俺の存在なんか完全に忘れた勢いで駆け出す。
「ちょ、おい!」
少女は一直線に巨大な白い球体へ飛びついた。
「うわぁぁぁ! やっぱり壊れてるぅ! どうしよどうしよどうしよ……!」
球体をぺたぺた触りながら、半泣きで慌てふためく。
「えっと、えっと……あっ! アマタギに連絡しなきゃ!」
少女は肩のポシェットを漁り、小さな通信端末を取り出した。
見た目は旧式のポータブル端末に似ていた。
だが、違う。
画面の表示も操作方法も、この星の機械とはまるで別物だった。
少女は慣れた手つきで端末を操作する。
「お願い、出てぇ……!」
プルルルル――と呼び出し音が鳴る。
「アマタギ!? あのね、今着陸したんだけど――」
ブツッ。
「…………え?」
通話は一瞬で切れたらしい。
少女は端末を見つめたまま固まる。
そして、みるみる顔が曇っていった。
「うぅ……アマタギ出ない……。ミラクル☆スペースシップも壊れちゃったし……」
嫌な予感がした。
次の瞬間――
「うわああああああぁぁん!!」
「うおっ!?」
とんでもない声量だった。
少女は顔をぐしゃぐしゃにして泣き始める。
ぼろぼろ涙をこぼしながら、この世の終わりみたいな勢いで喚いていた。
「お、おいおい! 泣くなって!」
「だっでぇぇぇぇ!!」
「わかった、わかったから! とりあえず落ち着け!」
必死になだめると、少女はぴたりと泣き止んだ。
涙で濡れた大きな目が、じっと俺を見上げてくる。
「……あれ?」
「ん?」
「お兄さん、誰?」
一瞬、頭が真っ白になった。
「いや、それはこっちのセリフなんだが?」
俺が呆れて言うと、少女は袖でごしごし涙を拭った。
そして次の瞬間には、さっきまで泣いていたのが嘘みたいに笑っていた。
「私はね、エチカ!」
その笑顔は、迷子の子供というより、新しいおもちゃを見つけた時の顔に近かった。




