第三十八話 ルイーズとブリアン
「ヴァレリーは何をしている……」
モニターに映る無音の映像を睨みつけながら、私は知らず拳を握り締めていた。
あの高さから落ちた人間が助かるはずがない。
常識で考えれば即死だ。
だが、それでも急がねばならない。
胸の奥がざらつく。苛立ちと焦燥が入り混じり、呼吸が浅くなる。
「……まさか」
映像の中の少女を見つめたまま、掠れた声が漏れた。
「生きていたのか……ルイーズ」
その名を口にした瞬間、自分でも驚くほど声が震えた。
あり得ない。
あの夜、彼女は死んだはずだった。
私はそう信じ、その現実を受け入れて生きてきた。
だが――。
見間違えるはずがない。
少女の面影は、あまりにも彼女によく似ていた。
氷晶のように澄みながらも鋭い瞳。
美しく整った顔立ち。
透き通るような白い肌。
若き日のルイーズそのものだった。
違うのは髪の色だけ。
あの淡い緑色だけが、私の記憶と食い違っている。
「息子の存在は知っていた……だが、娘だと?」
低く呟きながら、私は唇を噛んだ。
あの傷を負いながら生き延びていたことも、子を産み、育てていたことも気に食わない。
それも、あのゴミ溜めのような場所で。
「どうしてだ……」
全てが私の知らぬところで進んでいた。
その事実が、不快な虫のように皮膚の下を這い回る。
思考が熱を帯びる。
「私は……」
喉が詰まる。
私は確かに彼女に魅せられた。
あれほど美しい人間を、他に知らない。
気高さも。
意志の強さも。
決して屈しないあの瞳も。
全てが完璧だった。
そして私は、彼女を手に入れ損ねた。
その敗北だけが、今なお胸の奥に棘のように残り続けている。
「もし、本当に生きているのなら……」
胸の奥で何かが脈打った。
「今度こそ――」
言葉は最後まで続かなかった。
熱を帯びた欲望が理性を押しのけようとする。
だが同時に、冷たい疑念も頭をもたげた。
なぜ今になって姿を現した。
何が目的だ。
私を探しているのか。
それとも――。
「復讐か」
その言葉に、自分でも気づかぬうちに息が荒くなる。
私は勢いよく立ち上がった。
「ヴァレリーは何を手間取っている」
吐き捨てるように言いながら扉に手をかける。
重厚な扉が静かに開いた。
要塞特有の冷気が頬を撫でる。
無人の廊下に足音が響くたび、思考はさらに歪んでいった。
もし彼女が生きているのなら。
この目で確かめなければならない。
「ヴァレリーの研究室へ行く」
そう決めた時には、理性はほとんど残っていなかった。
胸にあるのは、ただ一つ。
かつて手の届かなかった夢を、今度こそ現実へ引きずり下ろしたいという執念。
それだけだった。




