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惑星⭐︎すらぐ!!  作者: 藍川 卯木子


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第二十八話 変装

 ゴートンの話によれば、ブリアンの要塞には北側から繋がる地下通路があるらしい。

 しかも、それは人目につかないよう、廃材の山の奥に隠されているという。


「……だが、あそこには誰も近づきたがらねぇ」

「なんで?」 


 エチカが首を傾げる。

 ゴートンは答えに詰まったように口を閉ざす。


「それは――」


 話の続きを引き取ったのは、エリオットだった。


「そこで捕まった人は、二度と戻ってこないからだよ」


 部屋の空気がひやりと冷えた気がした。

 自然と喉が固くなる。 


「……例外もおったがな」


 静寂を破ったのは、ガン爺の低い声だった。


「ルイーズも、北側で姿を消した」


 俺の肩がぴくりと揺れる。


「じゃが、あの子は戻ってきた。奇跡みたいにな」


 ガン爺はそこで言葉を切った。


「……戻ってきた時には、もう手遅れじゃったが」


 ガン爺の声に滲む苦さが、そのまま俺の中へ流れ込んでくる。 


「そういうことだ」


 ゴートンも静かに頷く。

 覚悟と不安が、胸の底で濁った水みたいに混ざり合っている。

 ――でも、行くしかない。


「ジーノ!」


 そんな空気をぶち壊すみたいに、エチカが目を輝かせた。


「これって、まさに“謎”だね!」

「お前ほんと怖いもんねぇのな……」 


 こいつの辞書には、“恐怖”って言葉が載ってないらしい。

 だが、エチカはともかく、俺は違う。

 今の俺は、街中に顔写真付きで指名手配されている身だ。

 普通に歩けば即終了である。


「遠回りをして、フード深く被るしかねぇか……」


 ぼそっと呟いた、その時だった。


「もっといい方法、思いついたよ!」


 エチカがぱんっと手を鳴らした。

 その笑顔を見た瞬間、背筋に嫌な予感が走る。


 ◇


「よしっ! できたー!」


 数十分後。

 別室にこもっていたエチカに呼ばれ、俺は恐る恐る扉を開けた。


「……お前、その髪」 


 最初に目へ飛び込んできたのは、エチカの髪だった。

 腰まであった淡い緑色の髪が、ばっさり短くなっている。

 エチカは得意げに振り返り、右手を掲げた。


「じゃーん!」


 エチカが右手に持っていたものは――髪の毛の束だ。

 

「それ、お前の髪か?」

「そう! エチカの髪でカツラを作ったの」


 エチカは満面の笑みで頷く。


「ジーノがこれ被れば、変装できるでしょ!」

「いや待て」

「エチカも髪短くなったから、二人ともバレにくい!」


 ぐいぐい押しつけられるカツラ。

 俺は受け取りながら、深いため息を飲み込んだ。


「お前、ほんとに切ってよかったのかよ」

「うん!」


 エチカはくるっと回る。


「なんかお姉さんっぽくない?」

「いや、むしろ子どもっぽくなった気がする」

「えぇー!?」


 不満そうな声を上げるエチカ。


「まあ、お前が大人っぽいかは置いとくとして」


 俺はカツラをまじまじと眺めた。


「俺がこれ被るの、絶対なんか違うだろ」

「まぁまぁ!」


 エチカが背中を押す。


「試すだけ試そ!」


 気づけば椅子へ押し込まれていた。

 背後には櫛を持ったエチカ。

 もう逃げられない。


「……好きにしろ」

「はーい!」


 エチカが鼻歌交じりに俺の髪をいじり始める。


「エチカお姉さんが可愛くしてあげるね~」

「その言い方やめろ」

「えへへ~」


 嫌な予感しかしない。

 数分後。


「うん! 完璧!」


 エチカが満足げに胸を張った。

 だが鏡がない。

 自分がどうなってるのか確認できない。

 ただ――いつもより頭が重い。


「さぁジーノ!」 


 エチカがぐいっと腕を掴む。


「ガン爺とエッちゃんに見せに行こー!」

「は!? 待っ――」


 抵抗する間もなく引きずられていく。

 そして、そのまま広間へ放り込まれた。

 椅子に座っていたガン爺とエリオットが、同時にこちらを見る。

 最初に声を発したのはのはエリオットだった。


「……ジーノ?」


 数秒沈黙。

 そして真顔のまま呟く。


「妹ができたみたいだ」

「は?」


 妹?

 どんだけ盛られてんだ俺。


「似合ってるよ」

「嬉しくねぇ……!」


 思わず頭を抱える。

 だが、自分の姿が見えないせいで、どこをどう突っ込めばいいのか分からない。

 その時だった。

 じっと視線を感じる。

 見ると、柱時計の前に立つガン爺が、こちらを見つめていた。


「……?」


 ただ驚いてる顔じゃない。

 目を見開いている。

 まるで、過去の亡霊でも見たみたいに。


「どうしたんだよ、ガン爺」


 声をかけると、ガン爺ははっと我に返ったように小さく首を振る。


「……いや」


 目頭を指で押さえる。


「なんでもない。なんでも、ないんじゃ」


 その声は、わずかに震えていた。

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