第二十七話 ゴートン 二
「あっ! この前のおじちゃんだ!」
エチカがぱっと指を差した。
その声に顔を上げたゴートンは、俺たちを見るなり露骨に顔をしかめた。
「……なんでお前らがいる」
心底嫌そうな顔だった。
だがそれ以上は何も言わず、足早にガン爺のところへ向かう。
「ガン爺さん」
どこか切羽詰まった声だった。
「新しい寝床、見つけてくれたんだろ?」
周囲を気にするように視線を巡らせる。
「最近、治安維持隊の連中がうろついててな。まともに眠れねぇんだよ」
「そうか」
ガン爺は静かに頷いた。
「寝床は用意してある」
ゴートンの顔が少し緩む。
「ただし、一つ条件がある」
「……条件?」
「ジーノたちに地下通路の場所を教えてやってくれ」
数秒、沈黙が落ちる。
「は?」
ゴートンが目を瞬かせた。
「いや待て」
次の瞬間、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「正気か爺さん!」
部屋が震えた。
「俺は何度も言っただろ! ブリアンには関わりたくねぇって!」
「ゴートン――」
「ましてこんなガキどもに教えるだと!?」
怒鳴りながらも、その肩は小刻みに震えていた。
怒りでなく、恐怖で震えているようだ。
ガン爺は静かにゴートン見つめる。
「頼む」
短い一言だった。
「この老いぼれの頼みじゃ」
ゴートンは舌打ちをし、顔を逸らした。
そして何かを振り払うように頭を掻きむしり、俺の方へ歩み寄ってきた。
「おい、小僧」
目の前まで迫る。
「俺は断ったよな?」
「……あぁ」
「なんで諦めねぇんだ!」
吐き捨てるような声だった。
「ブリアンなんかに関わるな!」
拳を握り締める。
「お前はまだ若ぇんだぞ!」
その声に、俺は少しだけ目を見開いた。
ゴートンが本気で俺たちを心配しているのが伝わってきた。
「ゴートン」
俺は静かに口を開く。
「俺は行かなきゃならねぇ」
「だからなんでだ!」
「最初は地球に行きたかっただけだ」
エチカを見る。
「エチカについて行けば地球に行けると思った……でも今は違う」
ゴートンが黙る。
「親父とお袋のこと」
「……」
「エチカの親友のこと」
俺は不意にエチカの頭を撫でた。
「ミルのこともだ」
エリオットが小さく目を伏せた。
俺は構わず言う。
「全部ブリアンに繋がってる」
胸の奥が熱い。
「だから知りたいんだ」
「……」
「何も知らないまま生きるなんて、もう嫌なんだよ」
ゴートンが一歩後ずさる。
それでも震える声を絞り出した。
「ダメなんだ……」
その声は、悲鳴に近かった。
「あそこは駄目なんだよ……」
拳が震えている。
「人間が壊れる場所なんだ……!」
目尻に涙が滲んでいる。
俺はそんなゴートンを見つめ、そして静かに言った。
「心配してくれてありがとう」
ゴートンの肩が揺れた。
「でも俺は行く」
一歩前へ出る。
「あんたが背負ってきたもんも」
拳を握る。
「あんたが今も怯えてる理由も」
真っ直ぐ見据える。
「俺が終わらせる」
その瞬間だった。
「エチカも仇取るよ!」
エチカが俺の隣へ飛び出した。
小さな身体で胸を張る。
「絶対!」
その言葉を聞いた瞬間――
ゴートンの膝が崩れ落ちた。
「っ……」
ゴートンは両手で顔を覆い、肩を振るわせた。
張り詰めていた何かが切れてしまったようだった。
しばらくして、ゴートンは乱暴に涙を拭った。
そして大きく息を吐く。
「……わかった」
掠れた声だった。
「教えてやる。ただし道だけだ。それ以上は……もう話したくねぇ」
「十分だ」
俺が頷くと、ゴートンは諦めたように苦笑した。
そして覚悟を決めるように息を吸う。
「……ブリアンの屋敷へ繋がる地下通路の話だ」
その瞳の奥には、まだ消えない恐怖が残っていた。




