第二十四話 ジーノとエリオット
「……話は大体わかった」
ガン爺が深く息を吐いた。
皺だらけの顔がゆっくりこちらへ向く。その目には、いつもの穏やかさだけじゃない、胸の奥まで見透かしてくるような鋭さがあった。
「まだ何か、隠しとることはないか?」
この人の前じゃ、取り繕った言葉なんて意味を持たない。
俺は唇を噛み、膝の上で拳を握り締めた。ずっと胸の底に押し込めていた言葉が、勝手に喉までせり上がってくる。
「……俺、地球に行きたいんだ」
口にした瞬間、心臓が大きく脈打った。
言い訳もしない。誤魔化しもしない。
ただ、この気持ちだけは、自分の口でちゃんと伝えたかった。
「ジーノ……」
隣でエリオットが小さく息を呑む。
そっと肩に置かれた手は、驚いているくせに不思議と優しかった。責めるというより、「本気なんだな」と確かめるみたいな温度だった。
ガン爺はすぐには答えなかった。
代わりに、静かに視線をエチカへ向ける。
「お、おじいちゃん……」
エチカが慌てて身を乗り出した。
「ジーノはね、ずっと地球に行きたかったの! だから、その……怒らないであげて?」
大きな瞳を潤ませながら、必死に俺を庇おうとしている。
ガン爺はそんなエチカを見て、小さく首を横に振った。
「怒っとらんよ」
低く落ち着いた声だった。
その静けさが、逆に胸に刺さる。
ガン爺は椅子に深く腰を下ろし、ゆっくり背もたれへ体を預けた。
そして、どこか遠くを見るように天井へ視線を向ける。
「……ただ」
ぽつりと零れた声は、妙に疲れて聞こえた。
「ついに、この日が来てしまったかと思っただけじゃ」
「……どういう意味だよ」
思わずエリオットと顔を見合わせる。
胸の奥がざわつく。
嫌な予感が、形を持ってゆっくり這い上がってくる。
長い沈黙のあと、ガン爺はようやく俺たちを見た。
「お前たちに、話しておかねばならんことがある」
「なんだよ、急に……」
自分でも驚くくらい、声が荒くなっていた。
ガン爺はそんな俺を咎めることもなく、静かに続ける。
「……お前たちの両親のことじゃ」
息が止まった。
部屋の空気が、一瞬で変わる。
ガン爺の目は、もう俺たちを見ていなかった。
もっと遠く――二度と戻れない昔を、静かに見つめているようだった。




