第十三話 グライト・ブリアン 二
惑星スラグの大地は、どこまでも錆びた鉄屑と廃棄物に覆われている。
だが、その荒廃の中で、ただ一角だけが異様なほど静まり返っていた。
私の要塞だ。
かつてこの地は、交易船と運搬車両が絶え間なく行き交う物流拠点だった。貨物船が空を埋め、商人どもが金の匂いを撒き散らしていた時代もある。
もっとも、そんな喧騒はとうの昔に終わった。
今、この施設に必要なのは流通でも商売でもない。
私を守り、この惑星の隅々にまで私の意志を行き渡らせること――それだけだ。
外周は三メートル級の鋼鉄金網で囲まれ、その内側には自動砲塔と高感度センサーを幾重にも配置している。侵入者を感知すれば、警告より先に焼き払う。
さらに奥には灰色の外壁、その背後には黒鉄の最終防壁。
そして中心部に、私の屋敷――要塞の心臓がある。
許可なくそこへ辿り着いた者は、一人もいない。
私は司令室へ向かった。
重い扉が開く。
発電機の低い駆動音と、壁一面の監視モニターが放つ白光が視界を満たした。室内では十数名の兵士たちが端末に張り付き、スクリーンには惑星スラグ一帯の地形データが幾重にも投影されている。
「どうだ。飛来物と、その関係者は見つかったか」
私が問うと、背後に控えていた兵士が即座に振り返った。
「いえ、未だ発見には至っておりません」
「理由は」
「痕跡がほとんど残されていません。加えて、防犯カメラもレジスタンスが発見次第、破壊しています」
私は鼻で笑った。
「ゴミ山に巣食うネズミの分際で、随分と知恵が回るじゃないか」
兵士は無言のまま背筋を伸ばす。
「多少手荒になっても構わん。ネズミどもから情報を吐かせろ」
「はっ」
すると別の兵士が一歩前へ出た。
「抵抗が激しい区域については、砲撃による制圧も可能ですが」
「まだ早い」
私は即座に却下した。
「瓦礫ごと吹き飛ばせば、使える資源まで失う。無駄だ」
「承知しました」
「放っておけ。追い詰められれば、いずれ尻尾を出す」
そう言い残し、私は踵を返した。
「私は地下研究室へ向かう。動きがあれば即座に報告しろ」
「はっ!」
命令と同時に、兵士たちは散るように持ち場へ戻っていく。
司令室を出ると、冷え切った黒鉄の廊下がまっすぐ奥へ伸びていた。
無機質な照明だけが薄く床を照らし、靴音が静寂の中に乾いて響く。
突き当たりまで辿り着くと、私は壁の一角へ右手を押し当てた。
微かな作動音。
直後、何もなかったはずの壁面が左右に割れ、隠し扉が静かに姿を現した。
その先には、地下へ続く階段が口を開けている。
光は届かず、底知れぬ闇だけが沈んでいた。
私は頬に手を添えながら、ゆっくりと階段を下りていく。
一段、また一段と。
闇の奥へ沈み込むように。




