第十二話 宝探しという名のゴミ漁り
「そういえばさ、宇宙船を直すのって、結局なにが要るんだ?」
俺が聞くと、エチカは白衣のポケットをがさごそ漁り、小さな落書き帳を取り出した。端の折れたページをぺらぺらめくりながら、何やら複雑な図面を指でなぞっていく。
「えっとね、まずアルミニウム合金。それからステンレス鋼とチタン合金。あとベリリウムも欲しいかな」
「待て待て待て。そんなの言われても、俺にはただの鉄くずにしか見えねぇぞ」
「そこは大丈夫!」
エチカは胸を張る。
「エチカがちゃんと見分けるから!」
その自信満々な顔に押し切られて、俺は住処から少し離れた場所にある巨大なスクラップ置き場まで案内した。
「なら、まずはここだな」
目の前には、金属とプラスチックと壊れた機械をごちゃ混ぜに積み上げた、巨大なゴミの山が広がっている。
錆びた鉄板、砕けたタービン、焼け焦げた端末。何層にも重なった残骸が、日差しを鈍く反射していた。
俺にとっては見慣れた景色だ。
だが――
「わぁ……!」
エチカは目を輝かせた。
「ジーノ! ここすごい! 宝箱みたい!」
「宝箱って……」
思わず苦笑する。
俺にはただの廃棄物にしか見えない。けど、こいつには違うらしい。
まるで何百年も前の文明が埋まった遺跡でも見つけたみたいな顔をしていた。
「気をつけろよ。変なとこ触ると崩れるからな」
「はーい!」
返事だけは元気だ。
白衣をひらひらさせながら、エチカはさっそくスクラップの山へ飛び込んでいく。小動物みたいにあちこち駆け回ったかと思うと、すぐに何かを抱えて戻ってきた。
「見て見て! これ、アルミニウム合金!」
油まみれの金属塊を、得意げに掲げる。
「……これが?」
「そう!」
エチカは嬉しそうに頷いた。
「アルミニウムって軽くて柔らかいけど、他の金属と混ぜるとすっごく丈夫になるんだよ」
そう言いながら、真っ黒に汚れた金属を光に透かして眺める。
錆も油も見えてないみたいな目だった。
「しかもこれ、特殊コーティングされてる。中はたぶんまだキレイだよ。戦前の技術ってほんとすごいよね〜」
「戦前、か……」
小さな研究者が口にすると、その言葉だけ妙に重く聞こえる。
「人体への影響もほとんど出ない処理だし。当時の人たち、ちゃんとしてたんだなぁ」
「ちゃんとしてた、ねぇ」
俺は鼻で笑った。
「そんな丁寧な仕事できる連中がいたってのに、今の俺たちはゴミ山漁って生きてるんだぜ。先祖は何考えてこんな星に来たんだか」
半分愚痴みたいにこぼした言葉に、エチカは少しだけきょとんとしたあと、ふわっと笑った。
「いつかわかるかもよ?」
「なにが?」
「その理由」
エチカはスクラップの山を見上げる。
「物事って、ちゃんと理由があって起きるから。丁寧な仕事をした理由も、ジーノのご先祖さまがこの星に来た理由も」
胸の奥が、妙にざわついた。
別に大したことを言われたわけじゃない。
なのに、なぜか言葉が引っかかる。
「まぁ、どうせ金のためだろ」
「もー、ジーノってロマンない!」
「じゃあ、お前はなんだと思ってんだよ」
「例えば……正義のため、とか!」
「ぶっ――ははっ!」
思わず吹き出した。
「ちょっ、なんで笑うの!?」
「いや、悪い悪い。けど……まぁ、そういうのだったら少しは格好いいかもな」
俺は積み上がったスクラップを見上げた。
今までただのゴミにしか見えてなかった。
けど、エチカと話していると、それが誰かの残した痕跡みたいに思えてくる。
この惑星スラグは、本当にただの廃棄惑星なんだろうか。
そんな考えが、初めて頭をよぎった。
「ジーノ?」
エチカが不思議そうに首を傾げる。
「……いや、なんでもねぇ」
俺は誤魔化すように肩をすくめた。
「ほら、探すぞ。ミラクル☆スペースシップの部品。あと、お前、悪い奴倒すのも手伝うんだろ?」
「うんっ!」
ぱっと咲くみたいな笑顔だった。
金属と錆に埋もれたこの星で、その笑顔だけが小さな灯りみたいに見えた。




