不毛の大地
250年程昔
人と亜人は大陸を2分していた
地図を真っ二つに、右側が人・左側が亜人
そんなざっくりとした領土の主張
お互いに手を取り合うことはあるにはあったが、基本的に不可侵条約のもと過ごしていた
「幼かったが…、今でも覚えている」
それは、些細な出来事だった
亜人の子供と人間の子供の、、取るに足らない…、ほんの些細な喧嘩だった
そう、よくある子供同士の些細な喧嘩だ、そう言われているが真実は闇の中
「父上が出陣なさった日の事を」
しかし、人間の子供は大怪我をしてしまい、それに腹を立てた人間が報復で亜人の子供を殺してしまった
それが、かの大戦の最初の引き金だった
「いや、それが引き金と言われているだけで、もっと前からお互い火種はあったんだろう」
そうでなければ、子供の喧嘩で死者など出るはずはない
「……今のように、守護者が国を持ってなどいず、“ある国”にて大半が固まって過ごしていた」
最初、24の守護者は静観していた
顔ぶれも、今とは全く違ってはいたが…、それでも人と亜人の戦争に介入するのは違う、そう判断した
「思いの外、かの大戦は長引いてな」
『このままこの戦争が続けば、“混沌の力が暴走してしまう”』
テスカトリポカの先代の混沌・サタンの一言がきっかけだった
「のんきに10年も静観して、俺から言わせれば今さらなのだが…、兎に角、ついに、父上が大戦をおさめるべく出陣なさった。俺が5つの歳だった」
その当時のゼウスは守護者の中では新参者であり、序列は真ん中程
ギルガメッシュから戦争を終結させるべく賜った雷霆を片手に、人と亜人の戦場のど真ん中へと降り立った
「父上の放った一言は、生ある限り忘れない」
『どっちがどうかなど興味はないが、これ以上戦争されては迷惑だ』
そう言ってから、ゼウスは少しだけ考えた
『どうしても勝者が必要ならば、最後まで立っていた方が勝者でよかろう』
その一言は、とても軽く感じた
ゼウスの力は歴代の守護者達を震撼させた
雷霆は三日三晩空を焼き……
一日目で両軍の3割が消え、二日目には火山が噴火し、三日目には死の灰が空を多い尽くした
━そして、戦場を沈黙が支配した━
━━両軍の7割の命が消えた━━
10年続いた大戦は、四日は持たなかった
「亜人の軍が、先に戦場を後にした。これ以上犠牲者を出すのは本意ではないと」
ゼウスは最初の言葉通り、人類を勝者とした。
「その、戦場となったのが、ここルンビニだ」
アーサーの目は大きく見開かれる。
「………義母上の書記によると」
ルンビニ
多種多様の亜人の住む美しい楽園
その花畑は私の心を癒し、木々は囀ずる
願うならば、あの役目が終わったあと、ここに住みたい
「………ここが?」
そうアーサーの絞り出した言葉に、少しだけ「見てみたかったな」と呟いたヘラクレス。
「勝利した人間側は、、死の灰に埋もれたルンビニを亜人の国とし、他全てを人類の地とした。各地にいた亜人はその国の胸三寸となった」
そして……、しばらく言葉を失った。
「国で、亜人の対応が違うのは、そういう事だ」
「…………大戦の、引き金となった地は、エリシオン?」
ヘラクレスは小さく頷く。
ああ、だからエリシオンは、亜人に石を平気で投げる国だったのか……。
「この大戦の立役者である父上の力・轟と、武器である雷霆は、、この大戦後に封印されたと聞く」
本来、神位属性は24あったそうだが、危険すぎると判断された物は主神アナザーによりいつの間にか封印され、違う能力へと姿を変えて来たらしい。
「まぁ、それでも今後、父上の序列が変わることはないだろう」
あの大戦を目にしたうら若き今の守護者たちが、ゼウスを恐れる限り。
「……人の教科書には、こんな事は載っていないからな、知らないのも仕方ない」
“救えない国もある”と言って、視線を反らしたヘラクレスの言葉の意味が、今ようやくわかった。
「……載せるべきだとは、言ったがな」
その話をしているヘラクレスの視線の先には、ずっとネメアがいて。
「真実を知って下さっている人が、、一人いれば私の先祖も満足するでしょう」
喧嘩をした亜人の子孫としては、それだけで十分です。
そう言って、金色の獅子は少しはにかみ、すっと視線を落とした。
不眠不休で走っていた馬車は、、王都を目前にして少しだけ止まった。
「まだ、速かったのでは」
空気を吸いに近くを散策しているアーサーの背を見つめるヘラクレスに、そう問いかけるネメア。
トゥルムへ雪玉をぶつけて笑うアーサー。
途端に雪合戦がはじまり、、やはり……あの姿が年相応なのだ。
「トゥルムもそう。無理にアーサーに付き合って大人になろうとしている」
「……アーサーはもう、先を見始めている。なら、俺がしてやれる事は、選択肢を増やす事だ。そして、従者もそれに倣うのは仕方がない」
アーサーの母・父の愛情は十分ではなかっただろう。
まだ、親に甘えがあっても良い歳だろう。
「まだ、二人とも甘えたい頃だというのに…」
それでも
「石盤とは時に残酷だ。“王”と名を刻まれたその瞬間から、アーサーからその選択肢は消えた」
“王”と記される者と“それ以外”の呼び方で記される者がいる。
「まだ皇太子で良かっただろうに…。不憫に思うよ」
「それは……」
“ご自身の事を”その一言は、ネメアの喉から先を通過する事はなかった。
「いてっっ!!」
ヘラクレスの顔面に見事に雪玉がヒットし、一瞬真っ白に。
遠くでアーサーは爆笑し、トゥルムはあわあわしている。
「そんなしかめっ面ずーっとしてたら、眉間のシワが歳超えちゃうぞー!」
ふぅ、と、にこやか笑う。
アーサーの言う通りだな、なんて言って。
「どうやら、オリンポスの英雄の実力を知りたいようだ」
近くの雪をぎゅっぎゅっと音を立てて丸めるヘラクレスの姿に、失笑するネメア。
「……全く、どちらが子供なのやら」
そう言って、ネメアも何となく馬車から降りた。
「………」
視線をアーサー達に向けようとした、その瞬間。ネメアの顔にも雪玉がバシッと当たり…。
視線の先のアーサーとヘラクレスは指を指して笑っている。
もはやトゥルムは小さくなって震えている。
「………」
まぁ、ムキになる事もない。
そう言いながら足元の雪を掬う。
「英雄王は私の実力をお忘れのようだ」
少しだけ子供にかえることにした。




