ルンビニへ
「……テスカトリポカ、、そこまでやるのか」
世界魔法新聞の速報を見て全員が閉口する。
裏の世界、、すなわち、モンスターが住んでいる「サード」と呼ばれるアナザーの裏側の世界。
「混沌化の名前、、会議に現れて名前を付けたのはテスカトリポカだったそうです」
一部には知られている、守護者たちの属性。
テスカトリポカは混沌属性である事、本人が混沌化と言ったことからついた、「混沌化」だったが……。
「アイツだけは、どうやって気が付いたかは知らないが…、アーサー。お前が聖属性だと恐らく一番最初に気が付いた」
「他の守護者は不思議には思わなかった?」
「そうだな。特段、気にはしなかったな」
25柱目に意味がある、なんて事すら考えた事もなかった、と。
「そうなんだ。でも、もう、悠長な事は言ってられなさそうだ」
全員の視線が地図の一番上、最北の【ルンビニ】の文字を見つめた。
「ここからだと、色々と経由したら2ヶ月はかかるかと」
そう言ったネメアの言葉に、「そんな悠長なことはさせられません」と呟いたアマテラス。
「……マツカゼをこれへ」
そう言って用意された5頭引きの馬車。
全身真っ青に燃え盛る馬よりも大きな見た目。
「私は国から出る訳にはまいりません。せめてもの手土産です」
6人程が宿泊出来るくらいの、寝床やキッチン、洗面所等がついた大型の宿泊馬車【マツカゼ】に揺られる事、早2週間と少し。
「そろそろ、ルンビニか」
動力は魔法で、引くのも馬のような見た目をした魔法なので、燃料として魔力を1日1回ほど供給すれば昼夜、しかも地上海上問わず走り抜ける。
「通常の馬車の3倍くらいの速さだな。流石、守護者の乗り物だ」
「船が一番時間を取られるので、助かりましたね」
「大幅な時間短縮になった」
そして、視界の先に見えてくる、ルンビニへの国境。
ルンビニ。そこは……。
人であるならば誰もが、あえて行きたいとは思わない最北の不毛と呼ばれる大地。
過去の大戦で敗北した亜人達が追いやられた国が、ルンビニだ。
そして、別の呼び方をされる国でもある。
「…亜人奴隷、、最大排出国家か」
傭兵亜人は国の為に働き、傭兵として出かけてはお金を国に巻き上げられるらしい。
「行くのは不安しかない」
ヘラクレスの言葉に、トゥルムが小さく頷く。
「……私は、あの国をよくは知りませんが…、イズモで私の出自を調べたら、私は失踪したことになっていました」
「……なるほど、亜人の密猟か」
ヘラクレスの低い声。
「ええ。それも“レア”と呼ばれる亜人の」
トゥルムの声は、わずかに震えていた。
イズモにトゥルムの両親は既にいなかったが、記録はしっかりと残っていた。
“失踪”
そう記されていた。
だが――
バトラズは“購入した”と言っていた。
つまり、そういう事だ。
そしてその密猟を国家ぐるみで行っている唯一の国がルンビニ…、、そんな噂もある。
「……」
少しの沈黙が場を支配していた。
「……桃源郷のように、、みんなが手を取れる国もある。どうしてそんな事をするんだ」
アーサーの声が、少しだけいつもより強い、それでいて大きい声に、、しかし、ヘラクレスは堪らずスッと視線を外した。
「アーサー。救えない国もある。行けばわかるさ」
そう言ったヘラクレスの視線の先には、、金色の獅子がうつっていた。
ルンビニの国境、検問所に到着する。
「通行許可書はお持ちですか?」
検問所に居たのは、、全員が亜人だった。そして、若かった。
「えっと、、いえ、実はティベリアに行きたくて…」
トゥルムのS級の証を確認しながら、あとの3名はパーティー?といつもの軽い雑談。
「ティベリアへですが、ルンビニから渡航したいなら、王であるクーフーリン様にお聞きになった方が速いかと思います!」
ニコッと笑う小柄な亜人。
よく見ると、そこにいる亜人は皆小さい。
「……」
皆、やはり若すぎる。
「あ、皆様、待って下さい!」
検問所の門がゆっくりと開く。
検問所の向こう側に、一歩足を踏み入れた瞬間――
「……えっ?」
「ルンビニへ来られる方ってどうしてみんな“こう”なんでしょ?」
「こら、お喋りはそれくらいにおし。商売チャンスよ」
あたり一面
見渡す限りの銀世界が広がっていた。
検問所の後ろは、、ようやく春が終わり暖かな日差しが照っているというのに…。
肺に取り込む空気は真冬のような冷たさだ。
「ルンビニ産の防寒着、いかがですか?」
それはまるで、この地の外は暖かい場所であり、、この中はそれが当たり前の場所であるかのように。
「郷に入れば、、だな。4着購入しよう」
ヘラクレスの足元には厚手のコートが落ちていたが、ネメアはそれを足で蹴飛ばして奥へと引っ込める。
「貴方のサイズがあればよろしいのですが…」
「わぁ、すっごくおっきい人だね!ニンゲンでこんな大きな人、はじめてみた!おねーちゃん、一番大きいコート出して!」
その言葉に、一瞬だけネメアが反応した。“ニンゲンか”と。
「はいはい。これとか、、ギリギリかな……」
「ギル様と同じサイズだなんて凄いね!」
ヘラクレス達がそんな会話をしている中、アーサーは地面をそっと撫でていた。
「………火山灰?」
「よく、気が付かれましたね」
はっとなにかに気が付き、そして周りを見た。
そうだ、入った瞬間から不自然だった。
「木が、、ない」
━見渡す限りの銀世界━
遥か先の王城門が目に入る程の、平面。
「……ええ、この国に植物はほとんどありません。育たないというか…。一部、あるにはありますけど…」
「ありがとう、俺たちはもう行くよ」
ヘラクレスが雑談を切り上げる。
防寒着一式を着こんだアーサー一向は更に馬車を走らせるが、アーサーの顔はどんどん険しくなっていく。
「アーサー。まだ時間はある。少しだけ、、昔話をしよう」




