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クー・フーリン





「……」


「……」


「……」


「あれ、皆まだそこにいるんだ」


暖炉に集合し毛布を頭からかぶって震えているトゥルム・ヘラクレス・ネメアを横目に、ダブルコートの黒毛はケロリとしている。


「みんな寒がりなんだな!」


バタバタと体を振るわせれば、水分などほぼ飛んで行く犬属と人を同じにしてしまうあたり、だいぶ亜人化している。


「アーサーのせいなんですけどっ」


買った防寒着は雪合戦により乾かし中だ。

しまった、予備を買うべきだったとネメアが呟いている。


「そもそも、ヘラクレス様がムキになるから…」


私は猫科だからそんな機能はありませんと恨み節だ。


「何っ、ネメアだってムキになってただろ」


「私はムキになっておりません」


そんなやり取りを横目に、アーサーは全員分の暖かいお茶を机に並べて行く。

茶菓子なんかあったかな、と、アイテムボックスを開いていくつか取り出し机に並べる。


「アマテラスから貰ったお茶か」


「このお茶美味しい」


イズモ産のお茶を飲みながら…馬車は寂れた街道を通過し…、そしてルンビニの王都の城門へ。



見上げる高い壁。横は終わりが見えない。



「この壁は、ルンビニ全土を囲っている」


乾いた防寒着を着ながら降りてきたヘラクレスが指差す先には、見張りの穴が均一に空いていた。


「上空も見えないが熱性の素材でドームになっている」


ヘラクレスが城門で話をすると、すぐに門が開く。


「…あ、暖かい」


外に比べれば、だが。


そして、あるのは民家のみ。

やはり草木の一つ、見当たらない…。


少し先でルンビニ兵が配給を行っている。


「今日は多い日だよ!」


小さな亜人がそう言って走って通りすぎていく。


「お肉、あるかな!?」


「えー、果物が良いなー」


「ぼくは当たりなら何でも良いや!」


皆、小さな亜人たちだ。無邪気に小走りして配給先へ…。

そしてなんの揉め事もなく、みな綺麗に順番待ちをしている。


それが、彼等には当たり前の事のように


「……どうして、この国は大人の姿を見ないの?」



「大人がいないのが不思議か…?」



背後から聞こえた声に全員が振り返る。

アーサーと目が合う。吸い込まれそうな真っ青の瞳。


「働きに出ているからさ」


濃い赤茶色の長い髪に、色白の整った顔をした男性。

背もそこまで高くはなく、175あるかくらいだろうか。


「クー・フーリン」


「久しぶりだな、ヘラクレス」


線も細く見え、今まで出会った守護者とはやや雰囲気が異なる。


「また、老けたな」


「お前は変わらんな、最後に会ったのは100年くらい前か」


まぁ、この国も変わってないがな、と呟く。


「……つもる話もあるだろう、が…。先に王城へ行って待ってろ。門番には話をつけてある」


行くぞ、と言ったヘラクレスについて行く。

後ろを振り返ると、子供達に配給を配る姿がみえた。


みな、彼から貰うのを喜んでいて、クー・フーリンも一人一人の頭を撫でていた。


「アーサー?」


「ああ、ごめん。行こう」


その姿が、妙に脳裏に焼き付いた。







王城で待つこと小一時間。


王の間へと案内される。


「客が来たので冬以来、久しぶりに暖炉に薪を入れてみたが…」


部屋の室温計は15度。

広い王の間は底冷えする寒さに感じた。


「外からだと、この国は寒かろう」


「気にしなくて良いぞ。みな、寒さには強い方だ」


そうか?そう言ってチラッとネメアへ視線を流す。


「猫亜人が寒さに強いとは知らなかったな」


そう笑いながら薪をいくつか足すと、王座には座らずアーサー達の目の前にドカッと座った。


「どうも、あの席は好かんでな。俺の席ではないからか……」


そう言って全員に座るよう促す。


「みな、楽にしてくれ。俺もそうする」


床は動物の毛皮の絨毯が敷かれており、座った方が暖かく感じた。


「……前王もそう言っていたな」


「ギルガメッシュか。どこをほっつき歩いてるやら」


ヘラクレスから手渡されたオリンポスの印のある紙、恐らくはヘラからの手紙だろう。


「また無駄な事を…」


中に何か入っていたのか、それを取り出してポケットへ。


「芽も出ない土地に…」


「??」


少し読み、はぁ、と一つ溜め息を。


「ティベリアの渡航許可は出せない」


「俺がいてもか?」


「ダメだ。実力も定かではない未熟者のせいで、ルンビニに危険を持ち込ます訳にはいかない」



その視線の先は、明らかにアーサーとトゥルムへ向いていた。


「それでも、行かない選択肢はないんです」


もしも失敗したら、その事を考えるのは一国の王としては当たり前の事だ。

それもただの国ではない、テスカトリポカの国。


「この話はここまでだ、ヘラクレス」


それでも、どこかヘラクレスが居れば断られないのではと、そんな考えは甘かった。


「オリンポスの軍隊ならいざ知らず、こんな子供を戦場へ出すな。オリンポスは認めているのか知らんが、俺の国で認める訳にはいかない」


ヘラクレスは反論の言葉を、、しかし、それを飲み込んだ。


それが、正論だったから。


ティベリアの隣国、オーディン率いるシャンバラは長年戦争状態なのをみれば、アーサーになど荷が重すぎる話なのはヘラクレスもわかりきっていた。



「もう……、子供は捨てました」



立ち上がり、立ち去ろうとしたクー・フーリンの動きが止まった。


「認めて貰う方法は?」



クー・フーリンの背に問いかけるも、返事はない。


が、止まった足もまだ先へは動かない。


静かな間が続き…、そして…、、「子供にそんな事を言わせるな」と、聞き取りも難しい言葉が漏れた。



「すまない」



ヘラクレスとクー・フーリンの二人のそのやり取りは、アーサーにはわからないものだった。


「石盤などさっさと割ってしまえ」


今、不敬極まりない言葉を聞いたけれど、聞かなかった事にしよう。

ふと周りを見ると皆明後日の方向へ目線が泳いだ。


「……ヘラからの手紙は、、苦手だ」


再び、握り潰したオリンポスからの手紙に目を通すクー・フーリン。


「どうしても行くと言うんだな、アーサー・ペンドラゴン」


「……はい」


「ならば、一つ。この国のトラブルを解決してみせろ。西の強盗団の壊滅。以上だ」



そうしたら、とりつく島くらいはくれてやる。


そう言って再び歩き出し、クー・フーリンは王の間から姿を消した。



「まだ、配給に並ぶ歳だろう…。石盤は何を考えているんだ」



━その言葉は冷たい夜風吹く廊下にかき消された━




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