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ゲーテ予科編01

挿絵(By みてみん)


昨晩の大雪で、一帯はどこが田んぼか、道か分からないほど雪に埋もれてしまった。

紺色の羽織を着た母は、外を気にする様子もなく、深いため息をついた。

「どうしました、お母さん。深いため息をつかれて」

セーターにズボンと重ね着をした兄が、白い息で言った。

「あの子の下宿先のお話、横浜の伯爵様のお耳にも入って、今そのお手紙を読んでいたのよ」

「横浜の伯爵家って……まさか、“白薔薇様”の?」

「お兄さんどうしたの?」

カーディガンにロングスカート姿の姉が割って入る。

「あら?お手紙?」

「あいつの日吉の下宿先を探していただろう?そのことが、横浜の伯爵様のお耳にも入ったんだ」

「え!?あの伯爵様の!?」

「ああ、しかも、ご令嬢付きだ」

兄と姉はぷっ、と息を吐き、大笑いした。

母は頬に手を当てた。

「笑い事ではありませんよ……。困りましたね、伯爵様にお断り申し上げることはできませんし…」

兄は涙を拭いた。

「これはさすがにお断りできませんよ。心配いりません。どうせ、何も起きませんから」

兄と姉は笑いを必死にこらえる。

「お父様にお話しましょう」

母はため息をつきながら、立ち上がった。

「あの子をこちらへ呼んでおいてね」


兄は二階へ上がった。

ゲーテの部屋の前。

まるで不在の様に何の音もしない。

兄はノックをした。

「はい」

兄と同じくセーターにズボンと重ね着をしたゲーテが、手を摩りながら出て来た。

「お母さんが話があるそうだ」

「下宿の話ですか?」

「おっ、察しがいいな。日吉の伯爵家の静養地だそうだ。“白薔薇様”付きでな」

「…分かりました」

兄はわざとらしいため息をついた。

「お前知らないのか?白薔薇様は横浜でも評判の美人。その方が静養されている日吉の一室を貸してくださると、伯爵様からお手紙が来たんだぞ。……本当に分かっていないのか?」

母から託された“言外の役目”を果たすため、兄は弟の目を見つめた。

「無礼な振る舞いがないよう、気をつけなければなりませんね。ご令嬢が静養であるなら」

ゲーテは兄の横を通って、階段を降りた。

階段下からひょっこり顔を出した姉に、兄はうなだれて見せてた。

姉は困ったように笑う。


母は眉間にシワを寄せた。

「ご令嬢が静養されています。この意味、分かりますわね」

ゲーテは姿勢を崩さず「はい」とだけ返事をした。

母はゲーテの後ろから、こっそり様子を見ていた兄に視線を送る。兄は苦笑いをして首を横に振った。

母は声出さずにため息をついた。

「お父様の承諾も得ましたので、伯爵様へのお返事を書きます。あなたも準備を始めてくださいね」

「…分かりました」表情を変えずに白い息が漏れた。

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