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そう。好きとは違う。
もっと、何か。
凪は先生が板書している間に、片眼で悠真を見た。
悠馬と青年。
顔も声も同じなのに、二人は重ならない。
生死の問題ではない、何か。
悠馬が凪の視線に気がついた。
ニヤニヤした顔をするが、すぐ黒板に視線を戻す。
⸻彼は、あんな顔をしない⸻
凪はうつむいた。
授業終了のチャイムが鳴った。
「凪」
凪は顔を上げた。
悠真だった。
「どうしたんだ? 元気ない顔して」
「え? 私、元気ない顔してたの?」
「授業中、俺の事見てただろう」
「うん。見てた」
悠真は眉を寄せて頭を掻く。
「悠真君、あのさ」
クラスの女の子が話しかけてきた。
「わりい、ちょっとまた後でな」
女の子は肩を落として席に戻った。
「らしくないじゃん」
「…私らしい、ってなんだっけ?」
「彼女だって勘違いされるのが嫌で、俺のことカバンで引っ叩いてただろう?」
「…やっぱり、私、嫌なやつだったのかもね」
悠真が覗き込んできた。
「咲良と何かあったのか? 俺が言い返して」
「違う! 咲良ちゃんは関係ない」
「そうか。じゃあ、夏休みどこか行こうぜ!」
凪はうつむいた。
「どうしちまったんだよ、凪」
優奈が小走りで駆け寄って来た。
「どうしたの? また痴話喧嘩?」
凪はぎこちなく微笑んだ。
「なんでもない。⸻なんでもないの」
悠真と優奈は目を合わせて、眉を寄せる。
優奈は凪に目を合わせた。
「なんでもないわけないじゃない。そんな顔して」
「どんな顔?」
「悩みごとを抱えている乙女の、か、お」
乙女。
死の世界すらも照らす、純白の乙女の光。
チャイムが鳴った。
先生が戸を開ける。
「ほーら、みんな席に着けて」
優奈も悠真も席に戻っていった。
凪はネックレスを握って、カバンにしまった。




