Il cielo di Napoli(ナポリの大空)
二日後、その日のナポリは女神が微笑んでいるのかと思うほど晴れていた。ここまでの快晴、本国じゃあ滅多にお目にかかれないのだ。おまけに風も少なく実に飛行機日和で、この日のシュバステン空軍のパイロットたちは皆浮足立ち、すぐにでも空に戻りたいと焦っていた。
そんななかでまず一番に飛行が許可されたのはユルヨ・アルヴィネン大尉率いるオーバーハリケーンを擁する第一高速戦闘中隊であった。その第三小隊の指揮を任されたのがヒュー・メラーラ准尉であった。一個小隊に四機のオーバーハリケーン、まだこの機体は数が全くそろっておらず、そのためまだ一個中隊かつ三個小隊しか編成されていないのだ。つまりヒューはオーバーハリケーンの指揮官のわずか三人の内の一人となるのだ。これほどの栄誉はない。当然彼は本国の家族にそういった手紙を内容をぼかして送っている。最新鋭機の小隊長など書いて検閲に引っかかったのでは笑えない。まだ返事はないが、一週間もすれば届くだろう。
一個小隊八名、計二十四名が、綺麗に並んで勇ましくピカピカの乗機へと向かう。周囲の眼は最新鋭機かつシュバステン初の双発大型戦闘機に注がれており、その視線を彼らは実に快感に思っていた。
「とうじょーーーう!」
アルヴィネン大尉の若干裏返った号令の元、二十四名は隣の機体に乗り込んだ。まずパイロットが乗り込み、続いて後部機銃手が乗り込む。皺も破れも全く見当たらないツヤのある革のシートにうっとりしながら、その感触を飛行服越しに味わう。新品の塗料のにおいも、今は心地よい。
「准尉、よろしくお願いします!」
まだ若い声が背後からコックピット内に反響する。
「ああよろしくマッケンジー伍長」
ヒューは笑顔でそう言った。ヒューの相棒でありオーバーハリケーン009番機の後部機銃手はまだ幼さの残る十五歳の新兵ジャン・マッケンジー伍長であった。彼は家が貧しいため十三で軍の学校に十八倍もの難関を突破し見事合格、重火器を専門に学んでいたのだ。彼の機関銃を扱う技術が果たして空戦でどれだけ役に立つのか、ヒューは期待していたと同時に、その幼さに不安を覚えていた。
(俺もまだ若いが、いくら何でも若すぎる。本国はそんなに人手不足なのか?)
シュバステンの人口は、人類が反映していたころと比べると物足りないかもしれないが、多くの人類が滅びた今、この国は世界でも恐らく一番人口を有する国であろう。それが出来たのは、北欧という僻地であったことと、極寒の地であるため病原菌が入りにくかったというのもあった。尚且つ大国からの亡命者や周囲に優れた国があったために技術が入ってきやすかったというのも、あるのかもしれないが、そんな昔のどさくさの時代のことなど、誰も覚えてはいなかった。
「よし」
第一小隊の機が次々と滑走路を滑走し始める。続いて第二小隊。第一小隊が空へと上がっていく、大きな金属の翼が、空へと舞い上がった。
そして第三小隊の番である。
「第三小隊つづけ!」
無線機で後ろの僚機に告げると、彼はブレーキを解除し機体を進める。エンジンの轟音がやかましいほどに響く。ゆっくりとした速度で滑走路を進んでいくと、やがてまっすぐ伸びた一本道に到着した。
「俺の機体だ、オーバーハリケーン……!」
徐々に速度を上げていくオーバーハリケーン複座型重戦闘機。制動は単座の小型機と比べるとやはり重たいが、より大型のマアリファトゥンと比べると軽いものである。ぐんぐん速度を上げていく機体、離陸速度まで加速した機体は、重たい体を持ち上げて空へと放たれた。
「ふ、ウハッハ!こいつはいい!」
ヒューはその操縦性能に興奮していた。操縦桿の動きは実に滑らかで、程よい重さが軽すぎず重すぎずを丁度良く演出しており、それでいて細かな動きにもしっかり舵が効いて機体をコントロールしてくれている。
「どうですか、准尉!」
「ああ、いいよこいつは!閣下!ありがとうございます!これがあれば俺は最強だ!!悪魔でもドラゴンでも殺せる!!」
速度を更に上げ高速飛行に入ったヒューは、操縦桿を大きく捻り機体を宙返りさせた。
「わああ!」
後部座席で予期せぬアクロバットをされたジャンが叫び声を上げた。
「おいおい、飛行機は自由なんだぜ、ましてや戦闘機ならな」
「も、申し訳ありません、何分飛行機にはまだあまり経験がないもので」
「そうだったのか」
そういえばそうだった、彼は火器を学びはしていたが飛行科の出身ではない。飛行機に乗った経験が少なくても当然である。少し悪いことをしたかなと思ったが、これからはそんな注意や前置きなしにすることになるのだ。そのことを彼に伝えいつでも備えておくように、と言うと周囲を確認、後ろの部下たちに一緒に先に飛んだ小隊と編隊を組むことを伝える。
「いいな。続け!」
既に高度一万五千フィートにまで達していた第一中隊は、ゆっくりと慎重に編隊を汲み始めた。まだ皆が慣れない機体での飛行である。隊長である大尉も無理をさせないように距離を余計に取るように編隊を組ませた。




