Machine Gun Kile(お喋りカイル)
基地を発ったヒューは、双発の輸送機に乗り五時間ほど後目的の基地に到着した。飛行機から降り立った彼が目にしたのは、滑走路や格納庫に待機している二百を超す戦闘機たちの大軍であった。どれもみな塗装は真新しく生産されたばかりの新品であることは明白で、よくもまあこれだけの数の、それも多種多様な戦闘機を集められたものだと感心すると同時に呆れていた。
まさかこれらがドラゴンという存在を追うために集められたと知っている人間はどれほどいるのだろうか。ヒューは、ゲイツの言ったことを思い出していた。
「名目上はムゥロで爆撃機隊を壊滅した謎の敵についての調査及び制空権保持のためだからね。嘘ではないだろう?」
嘘ではない、というよりは偶然にも軍とゲイツ、両者の目的が一致したというほうが正しいような気がしていた。荷物を背負いなおした彼は、カウルを開けて調整を施されているストームヴァイパーの横を通り過ぎると、一緒に運ばれてきた仲間たちと共に同じ場所に向かった。彼らは皆パイロットというわけではない、管制官、機銃手、爆撃手、整備士などなど様々な業種の兵士も多くいた。寧ろパイロットのほうがそうでないものと比べると少ないだろう。戦争に必要なのはパイロットだけではない、彼らがいなければ成り立つものも成り立たないのだ。
「しかし、凄いな……」
殆ど戦闘機だけでこれだけ集めてよく却下されなかったものだ。いや、それを彼が権力で押し返したのかもしれない。
「よう、お前パイロットか。俺はカイル、主計科だ」
横にいた黒人がいきなり握手を求めてきたのでつい反射的に手を握り返してしまったが、こいつはなんなんだとヒューは訝しんだ。そんな彼の表情に笑って雰囲気を和やかにしようとカイルと名乗った男は笑いながら話をつづけた。
「ハハハ、怖い顔するなよここはイタリアだ、笑顔に行こうぜ!」
そう言って背中を叩いてくる彼の階級章は上等兵でよくもまあ准尉の自分にこんな態度を取れるものだと不快感を露わにした。
そう、ヒューは本日付けで伍長から准尉へと特別昇進したのだ。当然これはゲイツの手引きによるもので、一個小隊を率いらせるにふさわしい階級とするためであった。彼の襟元には真新しい准尉の階級章が南イタリアの夏の日差しを受けて誇らしげに輝いていた。
「俺は准尉だぞ、伍長」
できるだけ威厳を出してみようと声を低くして注意してみたものの、効果はなかったようで相変わらずな態度のカイルは、兵舎につくまで機銃のように絶えずおしゃべり攻撃を飛ばし続けたのであった。
「諸君らは誉れ高き第一〇一特殊戦闘機大隊の第一陣に選ばれた選ばれし兵士である―――このナポリ基地において―――シュバステン空軍のパイロットとしてこれ以上ない―――である、以上!」
実に長く堅苦しい挨拶を基地司令イワン・ヴァレイエフ准将が読み終えるころには、十分も黙っていなければならなかったカイル上等兵は百マイルも歩いた時より疲弊した表情をしていたのを、ヒューは目の端でとらえていたが、少しの同情も抱かなかったのは初対面の印象のせいだろう。
全員が立ち上がり、敬礼をすると解散となった。ヒューは動き出す群衆の中でゲイツがこの式典に参加していないことが気になっていた。基地全員が集まったものではないとはいえ、わざわざ自分に声をかけてきたくせに、こんな基地を作り出したくせに何故当の本人がいないのかと心にひっかかっていたのだった。
「よう、司令の話は長くて仕方ねえぜ。こんど司令の分の飯に鼻くそでも混ぜといてやらあ!」
いつの間にか隣で話し出した人物に、彼は見向きをすることも無くそのまま歩き出した。
「俺ガキの頃から煩いって祖母ちゃんに呆れられたもんさ!でも仕方ねえだろ?そう生まれちまったんだからよ、喘息もちの人間が好きでむせてるわけじゃない、だろ?俺だって黙れるんならそうしたいけど口が勝手に開くんだよ、開けてくれー、酸欠になっちまうってさ、それで話は変わるけどさ……」
聞いてもいないことをぺらぺらぺらぺらとよくしゃべるものだ。こいつは絶対に機密を扱う課には置けないだろうな、とヒューは思った。こいつなら捕虜にしても拷問一つ無しに全部喋るだろう。だから主計科なのか、いや、主計科でそんなにくっちゃべられると飯に唾が入るじゃないか?
「くそったれ何て着任だ……」
早速ナポリ基地での思い出が悪い方に刻まれたヒューが呟いた言葉は、カイルにとってはあの司令の話の長さに怒っているのだと取られてしまい、火に油を注ぐ形となった彼は頭を抱えていた。




