Prediction(予知の詳細)
ライマ、そしてエマーヘルの二祈祷師はキニエイテンテス村村長の屋敷の客間に腰を下ろしていた。古いオークの椅子は、人間が扱うには少し重く非常に年季が入っておりいたるところか長年の使用による摩擦ですり減り丸くなっていた。それを少なくともこの村では貧乏くさいなどとは思わない。古くから大切に使っていることの証明となるのだ。それはドラクラットの歴史に対するコンプレックスによるものかもしれない。ドラクラットは無意識の内に歴史を欲している。
「あなたがクラットリアの祈祷師か。よろしく」
そうライマに挨拶する長いあごひげを蓄え深く椅子に腰を下ろしている老人が、この村の村長ビオネンデ・トウマトルスその人である。齢七十七年にして三十年以上の間この村を率いている男である。炎竜族の業火竜である彼の特徴は顔全体を覆う紋章と右目に覆いかぶさる二本の大きな傷である。この傷の由来を知るものは誰もいないが、人間と戦ったのだとか十人の闇竜族とたった一人で戦ったのだとかそういう噂がもっぱらであるが定かではない。
そんな彼を前にしてエマーヘルはまったく動じずに話をしていた。
「こちらがキニエイテンテス村の村長ビオネンデ・トウマルスだ」
「ハイ、ライマ・エラ・フラクラクラカット。トイミュルスの娘にして知識竜です」
ライマの方は多少彼の威厳に腰が引けているようだがそれでも目を見てしっかりと会話に臨んでいる。
ビオネンデは頷くとお茶を一杯飲み、二人を一瞥。そして口を開いてこう言った。
「予知のことは理解した。俄かには信じがたい話だが予知がそう言ったのならそうなのだろう」
数々の経験を経た彼でも、あの闇竜族の力によって竜人の一族が数千年の時を経て再び人類から空を取り戻すことになるという予知はあまりにも荒唐無稽に思える話であった。
「予知はそれだけを伝えたのかね?」
彼は気になった点を二人に尋ねた。すると二人は顔を見合わせて少し目で会話すると、エマーヘルが口を開いた。それはエリアにはまだ話していないことである。
「詳しくは、
更に空より光の竜来たり
最後に人来たり
闇と光と大地によって竜の平穏はもたらされん
この三人を一体とし集え
という言葉がありました」
それを聞いたビオネンデは眉間に皺を寄せて首を傾げた。
「空より?どういうことだ」
普通に考えれば空から光竜族が一人空から舞い降りるという風に考えるだろう。しかしドラクラットは違う、ドラクラットにとっては空は、人間にとっての生活空間である陸地のようなもので、決して常に空にいるわけではないが空というものはわざわざ特筆すべき条件ではないのだ。では何故予知はわざわざ「空より」などと付けたのだろうか。それが理解できなかったのである。それはライマ達も同じだったようで、二人も解読できていないということを彼に告げた。
「二つ目の最後に人来たり、というのはわかる。再興には少なくともリガーラ(人間)が一人必要ということだな。誰かは知らんが」
ドラクラットとしてのプライドがあるビオネンデにとってはリガーラの力を借りねばならないということが不満であったが、一族全体のためなら自分の好み位は喜んで押し殺そうと決めていた。だからそれは構わなかった。しかしそれでもやはり納得いかないのが闇竜族が必要ということであった。ドラクラットにとって闇竜族はタブーであり裏切者であり、また存在してはならないもの。いままで存在すら否定し続けたというのに、何故今更彼らが必要になるということなのか。
「それで、エリアのことですが……」
ライマが恐る恐る尋ねる。
「もう少しまともな部屋に……移してはいただけませんか?いくら闇竜族といえど、再興の救世主にあの扱いはあんまりでは、その、ないでしょうか……」
時折相手の顔を窺いつつ尋ねたライマだったが、言い終える前にビオネンデの表情が変わったのを見て既に諦めていた。そして怒鳴り散らされる覚悟をしていた。しかし、その予想とは裏腹に大爆発を起こすことはなかった。が、望んだ返答を得ることはできなかった。彼は実に冷淡な声で言う。
「何故闇竜族に人並みの扱いが必要なのかね。倉庫を貸してやっているだけありがたいと思え……」
「そ、そうですか……」
下唇を軽くかんでいる彼女の隣で、エマーヘルは冷静に頭を下げて礼を述べた。
「はい、突然の訪問にもかかわらずこうしてお泊めいただけるだけでも幸いです。これより数日の間お世話になります……」
ライマも静かに頭を下げ、二人は部屋を後にした。一旦荷物を部屋に置いてエリアを尋ねた後、まず村に繰り出して計画を立てる。これから何日になるかは決めていないが、ここでエリアにいち早くドラクラットに同化してもらうことになるだろう。そのためには、食事や衣類、それに出来れば話し相手がいた方がいい。しかし、闇竜族と話してくれる一般人など……




