La ragazza di granaio(物置小屋の少女)
「ではここで隠れていろ」
そう言い残して、エマーヘルは村の裏から中へと進んでいった。あとに残されたエリアとライマは大きな岩の影にダンゴムシ含めて身を潜めている。これからエマーヘルがこの村の長と話をつけに行き、結果次第ではこの村に一時潜伏することとなる。
「大丈夫かな」
不安げな表情を浮かべエリアはつぶやいた。するとライマが少し困ったように微笑んで彼女を励ます。
「大丈夫です、祈祷師はとても重要な存在ですから如何に村長と言えども祈祷師の頼みと、何より予知を蔑ろにすることはできないはずです」
と伝えたが、エリアはそれもあるけど、と付け加える。
「私が入ってひどい目にあわせられないかなってこと」
彼女の不安の大元は脳裏をよぎる自分が血相を変えたドラクラットたちにリンチの末殺されはしないだろうかということであった。もし一室に隠れていたとしても何かの拍子でばれてしまえばどうなるか分かったものではない。変身できれば逃げられる可能性もあるかと考えたが、仮に土壇場で出来たとしても飛ぶのに慣れている彼らから逃げられるとは到底思えなかったのである。そんな彼女の懸念をどう和らげられるかとライマは頭を抱えた。そうこうしているうちに小屋の影から見覚えのある頭がひょっこりと飛び出して手招きしていた。
「行けるみたいだね」
「早く行きましょう」
小声で言葉を交わすと、二人は素早く小屋の裏に飛び込みそのまま村長の屋敷に滑り込んだ。二人と合流するやエマーヘルは、
「ここから入って二人は突き当りを左に曲がった先にある部屋に入れ。そこがエリア用の部屋のようだ」
いわれた通りに廊下をそそくさと進む。
(思ってたより文明的だなあ)
エリアは最初、木の壁に茅葺屋根の粗末な小屋を想像していたが、予想とは異なりレンガ造りの壁に床も土ではなくきちんと板が敷き詰めてあり屋根も木の板が張ってあるようだ。照明代わりに大きな蝋燭の刺さった燭台が一定の間隔で立てかけてあった。流石に電気を使うとはいかないようだが、もっともムゥロだって電気などほぼ通っていない状態であった。水車でかろうじて発電された電気は脱穀機に使用されていたくらいである。
「ここか」
ほんの十メートルそこらだったが誰とも遭遇することなく指定されたドアの前にたどり着いたエリアは息を飲んでドアノブを捻った。
「うわっ」
そこにあったのは物置というのが相応しい空間であった。それも長いこと使われていないような。槍だとか毛布だとか木箱だとか、そういうものが四メートル四方に詰め込まれており、人がようやく一人二人寝ころべるスペースがあるかどうかというところであった。唯一の窓は、二メートル半くらいの高さにある腕位しか通らないような大きさの通気口らしき穴のみであった。
それをみたライマは咳をして思わず声を荒げた。
「かっ、一族の救世主をこんな場所にまさか閉じ込めておく気ですかここの長は!」
いくらなんでもその扱いは客人に対してあんまりだろうと怒り心頭になるライマであったが、エリアは全てわかっていたかのように首を横に振るとか細い声で囁いた。
「いいから、私大丈夫……」
「エリア……」
なんとなく予想はしていた。数千年ものあいだ憎まれ続けた部族の女がまともな部屋を与えられないことくらい。こんな扱いをされるのは生まれて初めてだが、それでも……
「ライマはエマーヘルと一緒にお話しあるんでしょ。行ってきなよ。私はちょっとここ掃除するから!大丈夫、マンマから掃除はしっかりするように躾けられてるからさ」
そう無理矢理作った笑顔で気丈にふるまう彼女を見て、自分が彼女を未だ避けている節があることを悔やんだ。ただ闇竜族であるだけで、他はドラクラットの少女たちと何ら変わらない彼女が一体何故蔑まれねばならないのか、と。
「……わかりました、では行ってきます」
うつむいたままライマは部屋を後にすると、ゆっくりと扉を閉めた。
「あ、そうだ。何か飲み物か何か頂いてきましょうか」
閉じてしまう寸前にそう尋ねてきた彼女にエリアはやはり首を横に振った。
「大丈夫、今はそんな気分じゃないから」
「そう、ですか……」
今度こそ後にすると、ライマの足音が遠くへと消えていく。その音を見送るように佇んでいた彼女だったが、やがて眼を一度擦ると、邪魔なものを端っこに詰め始めた。例え物置でも、こんな扱いでも寝るところくらいは確保しておきたい。それに、屋根と壁がある分、野宿とは天と地ほどの差がある。ありがたいことだ、そう彼女は胸に言い聞かせるように黙って整理していた。




