Reima ela Frakrakracut(ライマ・エラ・フラクラクラカット)
「うっ……」
まだ痛む尻を摩りながら、ゆっくりと高度を下げ始めた竜を見上げていると、右側のドアの無い入口から長い濃緑の髪をした背の高い女性が現れた。彼女もまたエマーヘルとかいう胡散臭い大男と同族なのだろうか。無意識のうちに腰に挿した拳銃に手を掛けていた。それに気づいた女性は眉をひそめて制する。
「黒竜の少女エリア、貴方を襲うつもりは毛頭ありません。落ち着きなさい」
どうしてわかったのか、いや、それよりも彼女が口にした言葉もまた彼が口にしたのと同じ言語であった。少し違うのは、微妙に訛っているということくらいだった。
彼女は髪長の女性に従い銃に掛けた手を下ろす。女性は彼女の二メートル程前方まで近づくと、お辞儀をして名乗った。
「私はライマ・エラ・フラクラクラカット。木飛竜族知識竜の祈祷師、主にナフターティのクラットリア村で祈祷師を営んでおります」
変な名前の彼女は短い自己紹介を終えると、もう一度頭を下げた。一見丁寧な物腰で、その柔らかな笑顔からは歓迎していると見えるだろう。しかし彼女は気付いていた、その微妙な距離はこちらを警戒しての間合いで、顔は笑っていても目に疑いが隠せていないことを。いろんな人間を見て来たからこそ、人の表情を読める。それを分かっていないように振る舞い、彼女も見様見真似で頭を下げ簡単な自己紹介をした。
「私はエリア・ディリーゾ。北西イタリアのムゥロから来ました」
「まあ、イターリの北西部というとハルマの村があるところではありませんか」
ライマは嬉しそうに手を合わせて喜ぶが、それもどこか作られたような、そんな違和感を覚える。ハルマと言ったか、そんな村を聞いたことも無い彼女は、曖昧に返事をするほかなかった。恐らく竜の村なのだろう。そういえば、彼女の顔と服にも模様が入っている。彼女の場合は顔全体、側面にまで濃緑色の模様が走っていた。化粧がし辛そうだな、としか感想は無かったが。
「それでは中へお入りください。これから貴方には我々竜と、その簡単な歴史。それから、我々が何故貴方を捜し、何を成そうとしているのかをお話ししたいと思います」
「それを、俺とライマで教える」
いつの間にか人間に戻っていたエマーヘルが、背後から歩み寄った。彼は大きな手で彼女の肩に手を回すと、強引に建物の中へと引っ張り入れた。
「ちょ、痛い痛い……」
若干恐怖を抱いたが、逆らっても無駄だろうと腹を括り、エリアは前へと進んだ。朽ちかけた入口をくぐると、そこに広がっていたのは、外観相応な非常に不安になるようなくたびれた空間であった。半分崩れ上の階が露わとなっている天井、爆発によって穿たれた床の穴、床や天井にこびりついた黒い染み、そして転がる骸骨。
「まあ、その、インテリアとしては面白いと思う」
フォローになっていないようなフォローを飛ばすと、促されるまま、窓際の壊れた椅子に、注意しながら腰かけた。壊れないことを確認すると、二人も残りの木箱やら椅子やらに座り、三人は向かい合った。それを確認すると、エマーヘルが口を開いた。
「これからする話はお前が竜人であるということを前提として進める。だから自分は人間だとかいうごたくは言うな、分かったな」
「分かってるよ、もう何でもいいから」
面倒そうに話を切り上げさせると、今度はライマが話し始めた。
「それでは、さっそく簡単な歴史から始めますね。時はそう、数千年前に上ります。それはいつごろかは分かりません」
どういうことだ、エリアが口を挿む。
「いつか分からないって?」
「それはですね、これから話す話の流れで分かります」




