טיול של חוטב עצים(木こりは森を行く)
ギルドールゼルとノエルの二人は森の中を進んでいく。地形としては平たいはずのこの周辺も、遺物たちのおかげで随分と歩きにくいでこぼことした野道へと変貌してしまっていた。このデコボコ道を歩くにしても、宇宙都市育ちのノエルと自然の中で生活してきたギルドールゼルとで差がみられていた。ノエルが足をとられながら木や岩に手をついてゆっくりと段差を越えているのに対し、ギルドールゼルはピョンピョンと軽やかにそれら障害を乗り越えていってしまうものだから、両者に距離が出来時折彼が止まって待ってやらねばならなかった。
「はあ、もう少し早くあるけんのかい」
ずっこけたノエルを眺めながら彼はため息をついたものだから、それを目にしたノエルは腹を立てて彼にかみついた。
「仕方ないでしょ!地球の重力ってば重いんだから!月にだってさ、重力はあったし訓練もしてきたよ適応するため!でもなんかそれどころじゃないくらい重いの!」
重力だの地球だのこいつは何を言っているのだろうか、聞いたことのない言葉ばかり口にする彼女に少しばかり辟易しようかとしていた。
ドラクラットに宇宙や惑星といった概念はなく、この世界はこの世界であり、物理学やらそう言った物も存在しない。もっと言えば学問が無かった。とはいえ何も勉強しないというわけではなく、書物や口伝で事象を教わり、また狩りや採集といった生きる糧については実際に見てやって習う。完全に未開の野蛮人というわけではなかった。
「わかったわかった、わかったよ……だからそんなにキイキイとがなり立てないでくれ。耳がイカれちまう」
頭をうんざりしたように横に振ると、彼は再び前へと進み始めたのでノエルはああだこうだと小言を口走り続けながら彼の後を追っていった。
それからしばらく歩いただろうか、日差しはいつしか真昼の頃近くを射しており、暖かな陽光が薄さむい空気には心地よかった。
「ねえまだあ」
いい加減にうんざりし始めていたノエルの声がギルドールゼルの背後から恨めしそうに耳に入るが、彼は振り返ることなくもうすぐだと伝えるだけで、具体的な距離を示してはくれなかった。
「あーもう、ついて来るんじゃなかった」
「なら帰るか?」
「やだ」
「面倒な女だ……」
ノエルの心情は、折角何時間も歩いてようやくここまで来たのだから今更引くに引けないという、つまるところ意地によるものが大きかった。とっくに疲れ果ててはいたのだが、意外と強靭というかしつこい気力が彼女の中で発揮されている。もし、これが地球に降りてすぐ起きていたら、体力の全然ない彼女では碌についていくこともままならなかったであろうが、本物の重力と肉体労働が彼女に月にいた頃より数倍の体力をつけさせていた。特に、彼女がドラクラットであったことも大きく彼女の体力のつきかたは人間である他の乗組員たちよりも数段早かったため彼女は真っ先に体力をつけられたのだった。ただし、その代わりに力仕事や体力のいる仕事を多く回され彼女としては迷惑この上なかったようだが。
かくしてそれからまた三十分ほど歩いただろうか、完全に陽が頂点に昇ってしまった頃、木々の向こうに開けている空間を垣間見たノエルは、それまでの疲れも忘れて喜びにはしゃぎ出した。
「ねえ!あれってもしかして村!?ねえ!」
ついほんの十秒ほど前まで疲れただのまだかだの子供のようなだだをこねていたのとは同一人物と到底思えないテンションの落差にギルドールゼルは少し引きつつも頷くと、彼女は大きく安堵のため息をついて喜んで見せた。
「はああ~~……よかった……やっとついたし。ほんと……つっかれたあ」
ノエルは痛む足腰を揉みさすりながらギルドールゼルを追い抜くと、我先にと木立を抜けた。その先にあったのはまさに村であった。
「はあ~~」
思わず感慨の溜息をついてしまうノエル。遂に待望の村を見つけたその時の感情は、やっとついたというものよりも一瞬でこれが月人類にとって初めての地球人類とのコンタクトになるのだという感動の方が大きくなっていたのである。降下時に襲われたのを入れると二度目になるが、あれは実際に出会ったのではないためカウントはしたくなかった。
遅れて木立を抜けてきたギルドールゼルは、腕を組むとこう彼女に告げた。
「ここが、アルメルカニル村。このあたりじゃ唯一の生き残った村さ」
彼女の運命は、まさに大きく動き始めたのだった。




