運命操作
豊崎優希が屋上への扉を閉めた。外の光が閉ざされ、校舎側の屋上入り口は暗くなっていた。
いつか裏切る手駒だ。やはり煌との接触で思考が変わったか。・・・・・・まあいい。
しかし、長期戦はこちらに有利だ。もっとも、近くで観察しながらの長期戦は、だが。
どうやら、私たちを倒す相談をしているらしい。この距離なら、解析が出来る。
ここは慎重に様子を見よう。
神山煌を遠くに逃がすことだけはさけなくてはいけない。
今は情報が欲しい。
神山煌。
何者かは知らないが、私の理論が追いついていない。
予想外の行動をとる者は、始末しなければならない。
私は『神』だ。
私の能力は『粒子の位置と運動を観測できる』能力。観測範囲は手で触れたものだ。しかし、経験則により大体は解析できるので、人間の五感からも予想が可能だ。
全ての粒子の位置と運動が分かれば、あとは演算によって未来を知ることが出来る。
完全に、だ。ただ、神山煌。彼の行動は予測を外してしまう。そういう不確定な要素など、この世界には必要ない。神はサイコロなどふらない。
排除しなければ。
私がこの能力――――――『未来予知』を使うとき、もうすでに勝負というものは終わっている。負ける未来が見えたのなら、未来を変えればいいのだからな。
藤原朧。
彼の能力は『運命操作』。
自分の思う未来を決めると、その未来になるように世界が動き出す。彼は世界に愛されている。そして、彼の敵は世界の敵だ。世界が彼の敵を排除する。
彼の能力によって、演算がしやすくなるため、私の未来予知は完全となる。絶対となる。
私のような存在はもはや人ではない。
『神』である。
「藤原朧と私に勝てるものだといない。」
隣の不安そうな藤原朧に話しかける。こいつが勝手に世界を変えてしまうと、演算を少し修正しなくてはならない。
ドアが開く。
瞬間、藤原朧が屋上へと勢いよく吸い込まれた。
「藤原朧を狙ったのか? こいつの防衛反応での運命操作の誤作動を? 残念だが、運命は『お前らが死に藤原朧が生きる』未来! すでに組み込んでいる!」
「ああ、そう予知されるのは予想済みだ。」
豊崎優希がドアの近くで佇んでいる。その横には冨上閑子。
「私が出来るのは、不確定要素にかけることだけだよ、『ラプラスの悪魔』。」
自身に満ちた声でそう言った。これは、予知にはない。
「『ラプラスの悪魔』君は知っているはずだ。『運命操作』にも弱点がある。」
この台詞も私は知らない。
そして演算をして気づく。
マクスウェルの悪魔、こいつは死ぬ。『神』に殺されて死ぬ。
そして神山煌。こいつも死ぬ。そういう未来だ。
だが、なぜだ?
そいつは今じゃない・・・・・・だと?
「えっと、君は神山煌君だね。悪いけど、ここで死んでもらうよ。」
淡々と言葉を並べる。
「確認だ、藤原朧。俺を殺して本当にいいんだな?」
「どういう命乞いだい?」
笑いだしそうになりながら問いかける。
「命乞いなんかじゃないさ。・・・・・・ただの確認だ。お前は『ラプラスの悪魔』の予知できない不確定要素を殺すことにためらいはないんだな?」
「なおさら。不確定要素は排除することに越したことはないよ。」
「『排除』とは『殺す』ことか?」
「なに・・・・・・?」
思わず顔をしかめる。
「『殺す』ことで、俺を『排除』したって言えるのか? 今の状況を考えても?」
「・・・・・・。」
「俺という不確定要素によって、俺にかかわったものは全て予知できなくなる。それは俺が死んだとしても変わらないものだとは思わないか?」
「だからなんだ? どっちにしろ、動かない方がましだ!」
藤原朧が手を前に突き出し、突っ込む。
煌にあと2歩というところで、目の前に急に拳が現れ、顔面を殴られた。
「お前は俺を殺せない。――――――そういう未来だ。」
神山煌がそう言い放った。
なぜ?
もう一度立ち上がり、神山煌に拳を突きつける。
しかし、またしても返り討ちにあう。
なぜ?
三度繰り返す。
しかし、結果は変わらない。
「何度やっても結果が変わらなくちゃ、焦るよなあ。」
まるで自分が経験してきたことのように呟いた。
「くっ、なぜ? まさか矛盾が起きているのか!?」
『運命操作』で未来の矛盾することを設定してしまうと、その未来にはならない。故に、二つ以上の未来は注意しなければならない。
今回は『神山煌とマクスウェルの悪魔が死に、藤原朧とラプラスの悪魔が生きる』未来。
一見、矛盾しているように思えない未来だが・・・・・・。
変更をした方がいいのか?!
「未来を変更する・・・・・・!! 『神山煌が死ぬ未来』だ。・・・・・・ははは、あはっははっはは! これでお前は死ぬ! そういう未来に行けばいいだけの話だ。あぁ神様お願いしますだなんて、僕には必要ない!!」
しかし、振りかざした拳は神山煌には届かない。
「なぜ・・・・・・! なぜなんだ!!」
「どうやら、俺は・・・・・・運命に勝つ――――――運命を変えることが出来たらしいな。」
「運命を変える・・・・・・だと? 運命なんて自分で決めるものだ!! たとえ、他人を犠牲にしたとしてもなあ!!!!!」
ふたたび、煌に立ち向かう。
「未来は、僕のためにある!!」
最後の猛進も煌に届くことはなかった。




