マクスウェルの悪魔
煌が目を覚ました。
煌の疲れ切ったうつろな目を見ながら、問いかける。
「良かった。目が覚めて。」
「・・・・・・。」
煌は無言だった。ただ上半身を起こし、ボーっと前を向いていた。
「煌、大丈夫・・・・・・?」
「・・・・・・。」
煌が保健室のベットから降りる。
「あ、ああ・・・・・・。大丈夫だから。小野はもう先に帰ってくれ。」
「大丈夫そうに見えないわ。」
「いいから、早く帰るんだ!」
煌が声を荒げる。
「どうしたの?!」
「・・・・・・何度すりゃあいいんだ。」
ぽつりとつぶやいた。
小野をどうにか帰らした後。俺は南校舎の屋上に来ていた。
もう日が沈んでしまっている。
はじめ、二回目、・・・・・・、一〇回目、・・・・・・、何度、何度繰り返しただろう。
何度も繰り返したのに。
どうやっても守れない。
どうやってもあの三人を殺すことは出来なかった。
もうすぐ生徒会室でみんなが殺される。
しかし、俺はもう動こうという意思がなかった。
打ちひしがれ、屋上の壁にもたれかかる。
どうせ・・・・・・。どうせな・・・・・・。何度やっても変わらない。
もうどうでもいい。どうでも。
いっそ、自分で――――――。
「煌? こんなところになんでいるの?」
屋上のドアから現れたのは豊崎優希。
きょとんとした表情。
しかし、彼女は俺たちを殺す三人の一人だ。
「なんだ、今回は生徒会室に行くんじゃないのか?」
しばらくきょとんとしていた豊崎優希が、
「あははっはははっははははは。」
唐突に笑いだした。
目じりに涙を浮かべながら大笑いだ。
「そっか、そっか。やはり、私の理論は正しかったってことか!」
「・・・・・・理論?」
「そうだよ。いやあね、やってみたいじゃん。過去に戻すってこと。タイムマシンって奴?」
「お前が・・・・・・優希がやってたのか。」
「いやあ、嬉しいなあ。成功していたなんて。」
「なんで・・・・・・。まさか俺を助けるため・・・・・・?」
いや違うはずだ。俺たちは優希に何度も殺された。
「え、いやあ、たぶん違うと思うよ。ただ単に試したかっただけ?・・・・・・というか! あはははははっははははは。」
顔を高揚させながら、また大きく笑う。
「ああごめんね。私自身はタイムリープできないんだよ。ごめんねぇ。そいつは誤算だったなあ。まさか君が記憶を引き継いじゃうなんてさあ。それにしても滑稽だよねぇ。君は何度も何度もタイムリープして、それでも変えられなかったわけだ! で、果てには自殺するほどに! 弱い、弱すぎるよ君! 記憶を引き継いでるのになんで負、け、る、の?」
「そう笑うもんじゃないよ、マクスウェルの悪魔。」
次に屋上のドアから現れたのは、三年生の椎名千代子と冨上閑子。
「なに、この子が私の教室に来て話してくれたんだけど……悪魔っているのかもねぇ。」
「先輩! もう起きて大丈夫なんですか!」
めんどくさそうに言い放つ椎名千代子と心配そうにする冨上。
「あなたは一体何者だ・・・・・・?」
優希が眉間にしわを寄せて椎名千代子をにらむ。
「んー。その質問には答えかねる。私は『何も知らない』ことしか知らないからな。」
椎名千代子がニヤッとして答える。
「最弱の君よ。私の考えを話そう。藤原朧は自分の都合のいい未来に行くことが出来る能力だ。そいつとつるんでる悪魔は二人。一人はお前――――――マクスウェルの悪魔。能力は熱を操る。そしてもう一人は――――――。」
「『ラプラスの悪魔』と自称しているよ。」
優希が肩をすくめながら答える。
「本当にあなたは何者だ? 全く、これからが良いところだってのにさあ。」
「その辺でお遊びは終わるんだな、悪魔さん。」
「はあ……。ったく。」
落胆した優希に冨上が近づく。
「まあ待ちな、嬢ちゃん。」
近づいてくる冨上から離れ、俺の首を腕でがっと掴む。
「まいったまいった。この状況じゃ、私の詰みだ。椎名千代子のさっきの居場所を言われた瞬間、タイムリープしても意味がない。情報を提供してやるよ。」
やれやれといった感じで体を揺らす。む、胸が・・・・・・。
「あいつらが来るまで時間がないから手短に話すよ? その後に、煮るなり焼くなり、祓ったりして。椎名千代子の言った通り、藤原朧は未来を自分の都合のいいように決定できる。それだけでも厄介。組んでるやつが『ラプラスの悪魔』だ。奴の能力は未来予知。」
「未来予知・・・・・・。」
「藤原朧の能力発動中はラプラスの悪魔はもはや無敵。未来を知ってるんだから。だが、藤原朧の能力を解除した瞬間、未来予知は占いになる。」
「・・・・・・ってことは、まず二人を離して、最弱の君は藤原朧と、『マクスウェルの悪魔』は『ラプラスの悪魔』と戦うってことでいいかい?」
「・・・・・・もって一〇分ね。いい?煌。こうなった以上、もうタイムリープは使わないわよ。それまでになんとか藤原朧の能力を解除することね。」
優希の忠告のすぐ後に、屋上のドアの向こうから声が聞こえてきた。
「朧―――勝手に――――――考えられない。」
「決定――――――死ぬ未来を!」
強く拳を握りしめる。
これが最後だ。




