けっせん
おかしい
風によって伝わってきた遠くの人の声が聞こえた。
「美穂ちゃん、止まって。」
一緒にパンを買いに行く途中の稲木美穂を静止させる。生徒会室のある北校舎四階から一階に降りようとした階段の途中。遠くからの人の声。下駄箱のある中校舎一階からだ。おそらく念のため、『風』の能力で周りの状況を確認しておいてよかった。
「・・・・・・三人。まだ学校に残っていて、こっちに向かってくる。・・・・・・その中に藤原朧がいる。」
藤原朧の呼吸を思い出し、他の二人も特定しようとしたところ、
この風。永瀬浩成か。
全身が震えた。ハッとするとはこういうことだろうか。目が覚めた感覚に似た衝撃が脳を襲う。この声は藤原朧ではない。他の二人のどちらか。また、おれが創造者だと知っている。
だとしたら、そいつも創造者だ。
朧。君が勝手に行動したとしか考えられない。
そんなことは・・・・・・。
なら運命を決定しろ。あいつらが死ぬ未来を。
「美穂ちゃん、生徒会室に戻るぞ・・・・・・。一応目隠ししておこう。」
美穂ちゃんはこっちを向き、静かにこくんと頷いた。
俺の『風』で無風、美穂ちゃんの水で霧を作り出した。
生徒会室のドアがゆっくりと開かれた。
それはちょうど俺が夢の話を話し終えたところだった。
帰ってきた稲木美穂と永瀬浩成に同じ話を繰り返し話しだそうかと二人の顔を見ると、二人は真剣な顔で寺島先輩を見据えていた。
静かにそれでいて早口にしゃべりだす。
「藤原朧、他二名がこっちに向かってる。」
「不意打ちで各個破壊された煌の夢とは違う。」
即座に放たれたその寺島先輩の声によって生徒会室に一瞬の静寂が訪れた。
寺島先輩が入ってきた永瀬浩成、稲木美穂、三ケ田先輩、俺、小野真緒の顔を見渡した。
「迎え撃つ。永瀬、敵は今?」
「三人固まっているかは分んねーが、先頭は三階と四階の階段だ。無風が崩れたことしか分からない。風は逆探知される。」
「情報の要約。小野。」
バリンと三ケ田先輩が生徒会室の窓ガラスを割った。
「三ケ田一正と藤原朧に、稲木美穂と寺島進は豊崎優希にやられた。藤原朧は『人を操る』、豊崎優希は『熱』と推測。」
「熱さは稲木。寒さは私だ。」
「あと十秒。」
永瀬の声に全員が生徒会室の閉まったドアをにらむ。
「永瀬、後ろの窓での換気を怠るな。」
ドアの近くに三ケ田一正。その後ろに永瀬浩成を中心に横に並んで寺島進、稲木美穂。その後ろに俺と小野真緒がいた。
「窓、ねぇじゃん。」
永瀬が笑う。
「来る。」
永瀬の声と同時にガラッと勢いよく扉が開いた。
その後すぐに横でビリッという音がした。
しかし、それ以降は生徒会室に静寂が訪れた。まるで時が止まったかのように、みんなが動かなくなっている。その中を、豊崎優希がゆっくりと入ってくる。
豊崎優希の顔を見た瞬間、体が一気に熱くなってくる。
体を動かそうとしてようやく気がついた。
体が金縛りにあったように動かない。
「さびしい世界。」
いつ聞いたのだろうか。その言葉が耳に残ったまま、俺はまた目を覚ました。
見慣れない天井。白くて、所々にシミがある。普段目の覚ます場所ではない。だが、最近はここで目を覚ます。
上半身を起こさないまま、右足の方向に頭を向ける。
「あら、やっと目を覚ましたの。」
俺と優希の幼馴染の小野真緒。
そんな口調のわりに、俺を心配してくれていたのだろう。
どうやら俺はタイムリープをしている。
どこかの誰かが笑っている気がした。




