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神の賽子  作者: 小工枝 攻臣
佐野鷹之
13/24

佐野鷹之

昔からヒーローに憧れていた。

いつか、自分もなれるだろうか?

寝る前にいつも考える。僕がヒーローの物語。

ああ、きっと、こんな日がくるはずだ。







「煌、今日は一緒に帰ろ!」

六時間目が終わり、掃除のため机を後ろに運ぼうとするとき、優希が声をかけてくる。

「ああ、いいぞ。」

最近、生徒会とのトレーニングのため、優希には構ってやれていなかった。

「やった」

嬉しそうに笑う優希。

その笑顔に、今までの日常を思い出す。

能力が使えるようになって、日常が変わったかというと、そう変わらない。普段の日常だ。

ただ、俺の日常の見方が変わったのだ。

客観的に日常を見る。それは、その日常の価値は、外部からだと退屈ではないように感じた。

「じゃあパン屋によって、パン食べていこうよ!」

優希が提案してくる。

「オッケー、寄って帰ろう。」

「あ、でも借りたい本があるから、ちょっと教室で待ってて。」

申し訳なさそうに優希が言う。




放課後になり、優希が図書室から帰ってくるのを待つ。

クラスには人はもう三人しかいなかった。

「煌。」

呼ぶ方を向くと、中学からの友人である佐野鷹之がいた。

「今日は生徒会には行かないのかい?」

「・・・・・・あ、ああ。」

生徒会に最近行っていることをなぜ鷹が知っている?

「そうか……。じゃあ、今日は能力の練習をするのかな?」

驚きのあまり、とっさに答えられない。佐野をこわごわと見つめる。

「見てみたいなあ。君の超能力。」

周りをさっと見渡す。残りのクラスメイトは俺たちの会話を聞いてはいないようだ。

「ん? あぁ、秘密なんだね。君って、隠すのが、嘘をつくのが好きだったよね。」

ごくりと唾をのむ。どうやって佐野を関わらせないようにすればいいのか思考を巡らせる。

「うらやましいなぁ。」

佐野が小さく呟く。

「うらやましいなぁ。・・・・・・うらやましいなぁ。・・・・・・うらやましいなぁ。うらやましいなぁ、うらやましいなぁ! うらやましいなぁ!!!!!」

段々と声を荒げていき、俺を睨みつける。佐野がここまで怒ったのを俺は初めて見た。友人の姿に少しひるんでしまう。

「鷹・・・・・・。」

「いつもいつもいつも、どうして君が特別で、僕は普通なんだ!」

恨みのこもった声をあげる。

「使ってみろよ。ほら、能力をさぁ。」

「使わねぇよ。落ち着け、鷹。」

必死に訴える。

「使えっつってんだろおおおおおお!」

佐野が机の上の筆箱からハサミをすっと取り出し、残っていたクラスメイトである白山夕衣に投げつける。

とっさにそのはさみに対して能力『重力』を発動させる。

しかし、ハサミは止まらなかった。

「きゃあ!」

白山が悲鳴を上げてしゃがみ、ハサミを回避する。

「・・・・・・なんで能力を使わなかった?」

佐野が静かに問いかける。

「てめえ!」

佐野を殴りにかかる。怒りに身を任せ、人型の水を殴った時の能力の使用の仕方をする。

殴る拳が相手を引き付け、バランス崩させて勢いをつけて殴る。

佐野が体を後ろに反って、それをかわす。


能力が発動しない・・・・・・?

「まさか、そこまでして、自分の身を守りたいっていうのかい!? あはははははは!!」

佐野が笑いだす。

「ねえねえ、能力がばれないようにするのは、女の子の怪我よりも大事なのかいっ!!」

佐野が殴る。

頬を殴られ、体が横にぶれる。


能力が、使えなくなったのはなぜだ? 使える回数があるのか? だからトレーニングが終わったのか? なぜだ、なんでなんだ。

混乱しながら、佐野と対峙する。

「・・・・・・もしかして、使えない?」

佐野の問いかけに答えずにいると、

「ははっ! ざまーみろ!」

と佐野がまた笑う。

「僕の呪いが移ったんだ!」

「呪い・・・・・・?」

佐野がもう一発殴り、仰向けに倒れた俺の上にのしかかる。

「そう。呪いだ。努力しても、どんなに努力しても、勉強も運動も、何の成果も現れない呪いだ。平凡になってしまう呪いだ!!」

沈黙がしばらく続いた。

「・・・・・・バカかお前?」

その沈黙を、あきれたという感じの声で破る。佐野が上からにらむ。

「呪いだなんだって、言い訳してんじゃねーよ。」

佐野がより一層視線を鋭くする。

「ただの能力じゃねーか。『能力を打ち消す』能力。・・・・・・いいじゃねーか。もっちまったもんはしゃーねぇよ。腹くくってやるしかねーだろ。」

佐野の能力がこうだという確信はない。ただの推測だ。

佐野は殴り始める。

「そんなのは不公平だ。・・・・・・人は平等でなければならない。」

「なら、このままでいいじゃねーか。ただの平均男よぉ!」

殴り続けている手が一瞬止まるとともに、声を出す。

「マイナスをプラスに変えられない奴なんて、ずっとゼロでいろ!」

佐野がまた腕をふりあげる。

「その辺で止めておいたら?」

佐野の動きが止まった。

教室の入り口に小野が凛と立っている。だが、なんとなく怒っているのは伝わる。

「それ以上は退学になってしまうわよ。」

冷静に言葉を放つ。

「・・・・・・小野真緒。」

冷静になったのか、口調がさっきよりもたどたどしい。

佐野が俺の上からどいた。

それを見てから、小野はクラスメイトの白山のところに向かう。

緊張が切れたのか、意識がもうろうとしてきた。

・・・・・・。







思わず教室の外にでた。

邪魔されたことに対してか、反論されたことに対してか、怒りがこみあげていた。


しかし、それはすぐになくなった。

教室に戻ると、そこには誰もいなかった。

カバンを取って僕は教室を出た。

人通りのない階段から降りていく。

「―――――で、さあ」

「―――――――だよね」

階段の踊り場で、二人の学生が話している。

今は人に会いたくない。引き返そうかと考えたが、そんな気力もない。


「優希ってちょいちょいうざいとこあるしねー。」

「あー、あとあざといとこもあるねー。見ててこっちがはずい。」


気力もない。はずなのに、いやだからかも。今まで、気を使って生きてきたからだろう。

ただ単純に怒りがわく。あぁ、いらいらする。

僕に気づいてもその二人は知らんぷりをして話を止めない。

あぁ、僕を認識しないのか、こいつら。

いらいらする。本当に。

「陰で悪口言ってる、てめぇらよりも何倍も可愛いわ。」

ただの嫌味だった。八つ当たりだった。


「は?何こいつ」

「悪口じゃねーし。」

そんなことを言いながら睨んでくる。


どうせ神山達に先生に伝えられ、俺は孤立するんだ。

もう投げやりになっていた。


それ以上何も言うことはなく、階段を降りていくと、

そこには、


俯いている豊崎優希がいた。


「えへへ」

顔を少し赤くして、はにかみながら照れていた。

あぁ、聞こえていたのか、自分の悪口を。そしてそれを俺に見られ・・・・・・って、ちょっとまて。


俺は驚きと同時に恥ずかしさでどうにかなりそうだった。

「え、あ、え?え?」

だめだ、頭がいっぱいで・・・・・・いやいや、冷静になっているから焦っているんだ。俺がしたことを振り返ると、どうも思考がまとまらない。ただ、頭は恥ずかしいということをしっかりと認識していた。

「ありがとう」

彼女はそう言い、階段を降りて行った。



「ちょっとあんた」

その後、しばらくそこでぼーっとしていると、後ろからガッと勢いよく肩を掴まれる。

瞬間、世界がゆっくりになった。

あ・・・・・・。

なんとなくわかった。

僕は今、落ちて――――――





「さぁ。カウントがアップされるダウンを始めようか。」

どこかで誰かが微笑んだ。


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