赤ちゃんきゅうしゅつげきです。①
~視点:ニコ~
「ここ、ですか…。」
早朝。僕は或る御店の前に辿り着きます。ここにあの子がいるのですね…。
『そうッス。ここに入って行ったのを見たッス!』
そう言ったのは僕の隣、この街に棲むジャイアントアントのアルアルンさん(♀)です。
あの後、僕は蛾さんに≪テレパス≫を使い、問いかけてみました。
『僕の言葉、分かりますか?』
と。答えは是。やはり虫同士であったためか、簡単に意思の疏通ができました。そこから蛾さんを通し、この街に居る全ての虫さんに聞き込みを始めました。これから寒くなる季節になるということもあり、外で暮らす虫さんは少なかったですけど、蛾や蟻さん、それに(僕みたいなモンスターじゃない)蜘蛛さんやペットの思われる犬っぽい生き物や猫っぽい生き物に寄生している蚤や虱さん等々……季節を選ばない虫さんや夜行性の虫さん、それに家の中で暮らす虫さんが多く居たのが幸いでした。そして、聞き込みを始めて数十匹目、漸く彼等の居場所を知っていると言う虫さんに出会えました。
『いや~、あんな顔の奴、忘れる方が無理ッスよ…。』
何処か遠くを見つめながらアルアルンさんが呟きます。なんでかって言うと、それは場所の特定に役立ったある情報。『顔をボコボコにされているにも関わらず煌々とした満面の笑みを浮かべながらぶつぶつと何かを呟く犬の少年。』です…。ええ、アルアルンさんもバッチリ目撃してます…。気持ち悪さからその光景が忘れられ無いそうです…。彼女の他に何匹かの虫さんがその子を目撃していたのですが、皆さん引いてました…。お陰で見つけられましたけど…。変な事教えられる前に、あの子救出しないと。
まだ早朝。空が明け始めたばかりだと言うのに、この店はもう開店準備を始めています。荷馬車と人が目まぐるしく何かが入っているらしい重そうな樽を運んでいます。中身は何でしょうか?まぁいいです。今が忙しい時間だということは判りました。これに乗じて侵入しちゃいましょ。
僕は≪隠密≫を発動。人と荷馬車と馬っぽい生き物の足をすいすい抜けてお店の中に入っていきます。…さて、赤ちゃんはどこでしょうか?
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~視点:C級冒険者 レラ~
「それじゃあ私達は行きますね。昼頃には情報を集めた者が来ますので。」
「それじゃあ行ってくるのです!」
「オウ。あんがとな旦那。んじゃ、行ってくるぜ!」
「ありがとうございますナトゥリムさん。行ってらっしゃいワンズバー。」
そう言ってナトゥリムさんとパパロは店を後にしていった。何でも、今日は朝から重要な会合が在るとか…。で、昨日から集めてもらっている情報は今日の昼頃に報告に来るんだって。なんであたしと赤ちゃんはお留守番。ワンズバーは情報のお礼に、ってナトゥリムさん達の護衛。
ガラガラと音を鳴らし、遠くなっていくナトゥリムさん達の馬車を見えなくなるまで見送る。
「さて、ソフィちゃん。あたし達もお手伝いしよっか?」
「だーう♪」
手持ちぶさた。ただ待っているのもあれなんで、あたしも店を手伝う事になってる。(と言うより、そうしてもらえるようにお願いした。)さぁて、働くとしますか~!!
「おーい、塩10キロくれ!」
「ツザガー!踊る子猫亭に配達終わったかー?」
「やっべ!?忘れてた!!今行ってきまーす!!」
「なら、ブールトん所についでに塩持ってけー!」
「りょーかいー!!」
ガヤガヤガヤガヤ―――
朝。それもまだ日が昇ったばかりだというのに、ナトゥリムさんの店は大にぎわいだ。
なんでかって言うと、それはあたし達が住む街、アイノンの街はこの“ツベーテ皇国”のかなり北にある街だからだ。ツベーテ皇国はこのナバン大陸の北の北。年中雪が降る、雪と氷で覆われた国。なもんで、グレートクリスの森のお陰で林業はそれなりに発展してるんだけど、農業が壊滅してる。海があればいいんだけど、このアイノンの街は森の入り口、内陸にある国だ。実りの少ないグレートクリスの森には雑食で悪食で大食らいな“オーク”が居る。そいつ等が森の恵をぜーんぶ食べちゃうから、あたし達人は森に入っても食物が獲られない。となると、残された食物は“肉”。お肉しか無い。森に棲む獣や魔獣を狩り、そいつ等を食べてあたし達は生きてきた。
これからこの国は短い夏を終え、本格的な冬になる。そうすれば獣達は冬眠のため、姿を隠してしまう。そうすると、あたし達の食物がなくなってしまう。だから今の内にベーコンやソーセージといった保存食を作んないといけない。保存食って、かなり塩を使うから塩売りの店が忙しくなってるって訳。つまり、冬になりきれてない今の時期が稼ぎ時っていうこと。
「はい!塩20キロです!!」
「だーうだー!!」
「おう!!そこに置いといてくれ!!」
で、あたしは塩の荷運びの手伝い。本当は店の中で手伝いが出来ればいいんだけと、中の仕事って商品を会計やら荷の品物数えとか…あたしが苦手な頭を使う仕事ばっか。なんで外の荷運びを手伝わせてもらってる。力仕事は得意!!背中に背負ったソフィちゃんも楽しそうだし、大丈夫だよね?
「だーうだー♪………んま。んまま。んま~ま~。」
「ん?もうお腹空いたの?」
「んま」ってのは“ご飯”って意味。ソフィちゃんがあたしの髪を少し引っ張りながら空腹を訴える。……そろそろ仕事も一段落するし、少し抜けさせてもらいますか…。
「すみませ~ん!ソフィちゃん、お腹空いたみたいなんで、少し抜けま~す!」
「「「おう!!」」」
一声かけ、あたし達は店の裏にある控え室に向かう。千切った黒パン鍋に入れ、そこに擦ったニニンとポーテ、お水を入れて火にかける。トロトロになるまで煮込めば“アローロ孤児院特製離乳食”の完成よ。
「ふ~、ふ~、ソフィちゃん、あ~ん。」
「あ~だ!んむ、んむ…。」
火傷しないようふ~ふ~し、この子の口に入れてあげる。ちっちゃなお口をいっぱいに開き、匙を丸ごとほおばり、んむんむと口を動かす。今日も食欲が絶好調みたい♪
……それにしても、ほんとこの子が離乳期になってて良かった。昨日、突然の出来事であたし達に赤ちゃん世話した経験の無い人ばかりだったからほんと焦ったわ…。この子がまだ授乳期だったらヤバかったわね…。あたし、母乳出ないし…。
「んむ、んむ……。けぷ。」
食べ終わり、軽くゲップ。少しうとうとしてる。満腹になったから眠くなったみたいね。ソフィちゃんを机の上に横にし、毛布を掛ける。少し胸をポンポンと優しく、
リズミカルに叩いてあげれば即夢の中だ。すよすよと愛くるしい顔で眠る。ほんと、赤ちゃんってば可愛いわね~。あたしも、アイツの子供欲しくなっちゃう。まぁ、暫くは無理だけどね。あたし達、今家を買うために働いてるし。やっぱ家は欲しいわよね~。何時までも宿屋生活なんて出来ないし、赤ちゃん作るなら安定した居場所欲しいし。…だからって、昨日みたいなのは駄目ね。≪変異種≫があんなに強いとは思わなかったわ…。
ガチャ
「ナトゥ~、頼まれたヤツの報告に~……てあれ?レラ?レラじゃない?」
「えっ!?リリおねぇちゃん!?」
控え室に備え付けられた裏口を開け、出てきた人物に驚いた。出てきたのはあたしのあね、孤児院でよく世話をしてもらってたあたしの義理の姉のリリーフィアおねぇちゃんだ。なんでお義姉ちゃんがここに?
「久しぶりじゃないレラ。あんたこそどうして此所に?アタイは旦那に依頼された情報を届けにきた……ってあ!?もしかして、あんたが旦那が言ってた受取人?」
予想もしなかった再会で驚いちゃったけど、そうか、お義姉ちゃんが依頼された情報屋だったんだ…。
あたしの義姉、リリーフィアはこの国に5人しかいないA級冒険者だ。お義姉ちゃんは所謂“使役者系”と呼ばれる魔獣や魔物を召喚やら使役することが出来る職よ。お義姉ちゃんはその中でも使役出来る魔物は(種類にもよるけど)一万を軽く越すと云われる凄い人なの。そうか、お義姉ちゃんに頼んでたんだ…。だからこんな早くに情報が集まったのね…。けど、お義姉ちゃんの依頼料ってかなり高額だったはず…、ナトゥリムさん、身内割引してもらってもあたし達そんな大金出せませんよ?
「えっ、えーとお義姉ちゃん?あたし達、そんなお金持ってないけどいいの?」
「はあっ?何言ってんの?元々これはあんた達から承けた依頼じゃない…つか、そもそも旦那からのモノだしお金なんて取んないっての。……それ以前に、ナトゥリムからのお願いだしね。妻が夫の頼みを断れる訳無いでしょうが。」
ペチンと頭を叩かれる。良かった、お金出さなくてもいいのか。……て、
「えええええええええええええ!?お、おおおおお夫!?え?ええ!?お、お義姉ちゃん夫!?結婚してたの!?」
「あれ?言ってなかったっけ?来年の春に挙式の予定だけど?アタイ、招待状贈ったと思ってたけど…あれ?」
嘘でしょ!!いつのまに!?ナトゥリムさん、何時の間にお義姉ちゃんと婚約してたの!?招待状なんてもらってなかっt…あ、そう言えば最近手紙見てなかったような…。
「最近、手紙見てなかった…。」
「あんたねぇ、手紙くらい確り確認しなさいよ。出した意味無いでしょうが…。あ、そうだ。ねぇ、あんたの所にウチの“アル”行ってない?朝から居ないのよねぇ…。」
お義姉ちゃんが溜め息を漏らす。“アル”は今年の春頃に産まれたばかりのお義姉ちゃんの使役する魔獣の1体だ。かなり行動力がある子で、あたしによく懐いている。けど、あたしも最近見てない…てか、それ以前にまだ“起きてるの”?
「ああ、まだまだ元気に“起きてる”よあの子は。今日もまだ暖かい方だから大丈夫だと思う。けど、何時冬眠するか分かんないからね。何処に居るのか知っときたいのさ。」
お義姉ちゃんの使役する魔獣は冬眠するモノが多い。冬眠中に死んでしまう生き物は非常に多い。だから使役者系の職は魔物管理に気を付けないといけない大変な職なんだよね…。あ、そうだ。
「ごめん、見てないや。所でお義姉ちゃん?最近ここいらで≪変異種≫出たの知ってる?」
「≪変異種≫!?≪変異種≫ですって!!」
顔色を変え驚くお義姉ちゃん。う~ん…この街一番の情報通のお義姉ちゃんが驚くってことは、まだ知らないみたいね。
「落ち着いてお義姉ちゃん。あたし達も昨日見たばかりだから!それもかなり小さなヤツだったから!!」
「落ち着いてられる訳無いでしょうが!!≪変異種≫なのよ!!大きかろうが小さかろうが関係無い、1匹いれば小さな街1つ簡単に滅ぼせるような奴等なのよ!!」
ガクガクとあたしを揺さぶる。あ~確かに、大きさ関係無いわね。アイツ、あたし達が出逢って来た中で一番小さかったのに郡を抜いて強かったし…。≪変異種≫が街1つ滅ぼしたってのも今まで只の眉唾だと思ってたけど、アイツの強さとお義姉ちゃんの焦り具合をみたら納得。…あたし達、よく生きてるわね。
「お、落ち着いて、話。話すから!えっと、種族は“ホーンスパイダー”。あたしが見た限りでは≪地魔法 マッドプール≫と≪雷魔法 ショック≫、それにあとワンズバーが≪地魔法 グロウ≫にどっちかは分かんないけど≪火魔法≫か≪炎魔法≫を使っているのを見たって言っていたわ!!」
「なんですって!?“3属性持ち”ですって!?」
お義姉ちゃんが目を丸くさせる。そう、普通魔物や魔獣、そしてあたし達人間も含め≪属性≫は一人につき一種類か二種類だ。勿論それ以上属性を持っているのもいるけど、そんなの早々お目にかかれない。
「けほっ…。うん、間違いないわ。ワンズバーがそれで火傷してたわ。外見は普通のスパイダーより少し小さめ、額に赤い角が有ったそうよ。色は頭が黄色、そこからお尻に向かって段々茶色になっていたわ。」
アイツの特徴を説明する。お義姉ちゃんはあたしの話を聞き終えると何やら「ホーンスパイダーは既に冬眠に入っているはず…」やら「何故虫系のモンスターが≪火≫を…」だのブツブツ考え始めた。
A級冒険者のお義姉ちゃんが考え込む事態。本当はすぐにでも“ギルド”に報告しに行った方がいいのはあたしでも分かってる。けど、アイツが引き合わせたこの赤ちゃん。もしかしたら何か在るんじゃないか?って事でナトゥリムさんに頼んで秘かに情報を集めてもらったの。まさか、お義姉ちゃんが来るとは思わなかったけど…。
「……黄色…赤い角……。ねぇレラ、ソイツって、あんなヤツ?」
ブツブツ考え込んでいたお義姉ちゃんが不意に指を指した。そこに居たのはソフィちゃんと話題になっていた小さなホーンスパイダー。
「そうそう。アイツアイツ。」
そうそうあんなヤツ。にしても、ほんと小さなヤツね~。後ろ姿なんて、スパイダーと変わらないわね。なんであんなに小さいのかしら?
「って、エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェエーーーーーー!!」
「キュビ!?」
バッともう一度ソフィちゃんの方を見る!!そこには固まったあのホーンスパイダーが寝ている赤ちゃんを襲おうとしていた!!
誤字・ 脱字を見つけましたらご報告ください。
※追記
本日2話更新の予定でしたが思うように文章が纏まらず、更新は明日にすることにしました。大変身勝手で申し訳ありません。本当にごめんなさい。




