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赤ちゃんだっかんげき!!です。

 夜、街の防壁近くにて、1匹の馴鹿(トナカイ)と蜘蛛がいた。


~視点:ニコ~


『ニコさん、ここでいいのかしら?』

『ありがとうウルンさん!!ここからは一人で行きますです!!』


 あれから、僕はここ1週間で仲良くなった1匹のクリスタルレインディア(透明で綺麗な立派な角と真っ白な毛並みを持つ馴鹿)のウルンさん(♀ 美鹿さんです)に頼み荷馬車の跡を追跡。数km程後ろを隠れながら、奴等の本拠地が有るであろう或る街に辿り着きました。

 街は高い高い灰色の石で出来た壁がそびえ立ち、入り口らしき門には甲冑を来た2人の人間が剣を腰に挿して立っています。彼等が、門番みたいですね…。

 荷馬車はすでに門を通過。僕達は門からかなり離れた壁に行きます。この辺りは木がたくさん植えてあるので見つかる心配はありません。ここから侵入します。


『ニコさん…。気をつけてくださいね…。あの子は人ですから大丈夫だとは思いますが、ニコさんはモンスターなのですから。殺されてしまうかもしれませんわ…。諦めるのも一つの選択肢なのですよ…?』


 深い藍色の瞳を伏せ、ウルンさんが僕に囁きます。確かに、これから僕がやろうとしている事は危険な事。人の住む街に侵入する事です。モンスターである僕は殺されてしまうかもしれません。けれど、


『だからって、あの子を見棄てる理由にはならないでしょ?ね?母親馴鹿(ウルン)さん?』

『ニコさん…。』


 僕と彼女の出逢い、それは彼女の子供のコポン君が人間が仕掛けた罠に引っ掛かってしまった所から始まります。

 まだ生後数ヶ月な彼は好奇心から罠に触れ、脚を罠に喰われて動けなくなっていました。母親であるウルンさんは懸命に罠を外そうとするも、所謂虎ばさみのような金属で出来た罠はコポン君の脚にガッチリと喰い込み、全く外れる気配は在りませんでした。

 途方に呉れるウルンさん達。その時、偶々ゴブリンさん達の報酬(ごはん)を獲りに来た僕と遭遇。僕を敵だと思ったウルンさん。そのご立派な角で突撃されたり蹄で蹴られそうになったり…ブルンッ。今思い出しても、寒気がしてきます…。

 まぁそんななんやかんやの後、≪テレパス≫でなんとか意志疎通。誤解を説き、コポン君の脚の罠を≪クローシェン≫で腐蝕させ、脆くなったそれにウルンさんの蹄で一撃。自由の身になるも出血の酷いコポン君の脚は僕の糸で止血し、治療。こっちも子供を抱えているという事もあってか、それ以来ウルンさん母子とは仲良くさせてもらっています。


(だからこそ、解ってくれますよね?)


 たった一週間。されど一週間。

 笑い・怒り・泣き・喜ぶ。万華鏡のように一瞬たりとも同じ表情(かお)を見せない赤子。喜怒哀楽のもっと奥、くるくる変わる感情と無垢故に畏れを知らない大胆な行動。1度も目を離せない可愛い可愛い、そして何よりも愛おしい、僕の赤ちゃん。

 手放す筈だった。けれど、それはもうできない。自覚してしまった。

 あの子は僕の子だ。血どころか種族が違う。前世は人間とはいえ、モンスターと人間。相容れない種族。それでも、僕はあの子を愛してしてしまった。

 フェリ君でも華凛ちゃんでも抱かなかった、あの子達に抱いたモノとは少し違う温かい想い。これが“父性”なのだと、気づいた時にはあの子はいなかった。

 “幸せになってくれればいい。”僕がいられなくても、あの子が幸せになってくれるのなら、それで良かった。寂しくて寂しくて胸が砕け散ってしまいそうだったけど、あの子が幸せになれるのなら、堪えられると思った。

 けれど僕は見てしまった。あの子を預けた人間が人で無い、首輪を着けた犬の少年を虐めていたのを。殴り、蹴り、迫害していたのを。そんな人達に、あの子を預けたままでいられますか?僕は出来ない。だから向かうのです。またあの子と出逢って、今度こそ僕が育てるのです。僕のこの手で、あの子を幸せにしてみせるのです!!


『……決意は、固いのですね。』


 哀しそうに、彼女は顔を伏せました。馬鹿だと、呆れているのでしょう。けれど、もうどうにも出来ないのです。この胸の中で暴れるあの子への愛情が、僕を動かすのです。誰にすら止められないほど、僕の心はあの子に向かっているのです。


『ならば、もう私から言うことは在りませんわ。向かいなさいニコ。貴方の行く先に光あれ!!』

『ハイ!!』


 顔を上げ、煌めく藍色の瞳で僕を動かす。ウルンさんのその言葉を最後に、僕は壁によじ登って行きます。


“ability 壁歩き”


 土も木も水に濡れる苔むした岩でさえ足場に変える僕のability。こんな只の石壁なんて恐るるに堪えません。


「ウオオオオォォォォォォォォォオ!!」


 シャカシャカと脚を動かし壁を登る。

 登りきり、壁の上から望む街は灯りと建物と人人人…。


(待っててね赤ちゃん。今、お父さん(・・・・・)が行くからね!!)


 壁を伝って街に降りる。赤ちゃんを取り戻す為、人で溢れる街の中を≪隠密≫を使いながら糸を使って空を飛ぶ。今は夜。帳の降りた闇の中、空を見る者なんて、誰もいない。


(何処だ?何処にいるんです?)


 ひゅるんひゅるんと飛び回る。自慢の眼に≪身体能力強化≫もプラスする。より鮮明に、より鮮麗になった視界。今まで使わなかった残り6つの眼も総動員して、僕はあの子が居る荷馬車を探す。


(待ってて赤ちゃん!絶対に見つけだすからね!!)







 とは言ったものの、


(赤ちゃん…何処ですか…?)


 数時間後、僕はある建物の屋根に止まっていました。この街、けっこう大きくて、体力が持ちませんでした…。なので休憩です…。

 それにしても、この街大きすぎます。闇雲に飛び回っても辺りには人人人…。顔を赤くさせた酔っぱらいのおじさんやお姉さん達でごった返してます。お陰で赤ちゃんの手掛かりが全く掴めません。こうゆう時言葉が解ればいいのですけど、残念な事に、僕の≪テレパス≫はまだ人の言葉を自動解訳できるレベルでは無いようです。女の人に噴射した糸、アレ、≪テレパス≫付与していたのですが、『〇゛◎◆◆△!?』と意味の解らない音で返ってきました…。クソウ…、馴鹿までならOKなのに…。こんなところで修行不足がくるなんて…。


 悔し涙を流しながら眼下に広がる通りを見ます。真夜中になってきたせいもあってか人は疎ら。ドンドン時間だけが過ぎていきます…。


(どうしたら…どうしたら…


―――――ん?)


 ふと、僕の目の前を蛾がひらひらと横切ります。こんな寒いのに、よく生きていられますね~。


「……………ハッ!!」


 そうだ、この手が有ったじゃないですか!!解らないなら、解る相手に聞けばいいんですよ!!

 僕はすぐさま蛾は後を追いかけていきました。ちょっとそこの蛾さ~ん、待って~。待ってくださ~い!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


~視点:C級冒険者 レラ~


「よ~しよし~♪“ソフィ”ちゃ~ん♪いい子ですね~♪」

「だぁ~うだぁうだ♪」


 あたしはレラ。C級冒険者で≪槍使い≫をやっているわ。特技は地魔法よ。今は旦那で同じくC級冒険者のワンズバーと一緒に塩商人のナトゥリムさんの商会にお邪魔してる。なんでかというと、それは今あたしの腕の中に居るこの赤ん坊、“ソフィ”ちゃんが原因だ。

 今日の昼頃、あたし達は或るモンスターに襲われた。そいつはこの時期だと珍しいホーンスパイダーだったわ。始めは≪変異種(レア)≫であることと小さかったからスパイダーだと勘違いし、あたし達はソイツと戦ったわ。けれど、さっき言ったようにソイツは本当はホーンスパイダー。Rank Dの≪変異種≫のモンスターだったわ。あたし達は手も足も出ず、ソイツに追い詰められた。

 もう駄目だと思ったわ。

 けれど、ソイツはあたし達に止めを刺さなかった。代わりにソイツはあたし達の冒険者証と夫婦指輪を強奪。頭に血が上ったワンズバーは奴を追いかけ、森に消えてってしまったわ…。

 奴に殺されてしまう。指輪はもういい。ワンズバーさえ居てくれれば、それで良かった。止められなかった事を後悔しながら、あたしは糸を引き千切り(意外と脆く、呆気なく千切れたわ)ワンズバーの無事を祈りながら彼の帰りを待った。

 彼は無事帰ってきたわ。所々に打撲の跡や焼き焦げた跡。聞けばあのホーンスパイダーは≪雷魔法≫と≪地魔法≫の他に、恐らくだけど≪炎魔法≫まで使えたらしいわ。正直、信じられなかったわ。なにせ虫が火を使うってのもそうだけど、≪炎魔法≫は≪火魔法≫の上位魔法。≪火魔法≫より遥かに攻撃力が高い魔法。人でも使える人間が少ないってのに…。いくらアイツが強かったからって…見間違えたんじゃないの?

 まぁそんなこんなで帰ってきたワンズバー。そして、その腕の中にはこの子が居た。途中パパロが変なこと言って混乱しちゃったけど。彼曰くこの子は叢の中に放置されていたとの事。『もしかしたら、あのホーンスパイダーはこの子の元に連れて行くために俺達を襲ったのかもしれない。』そう言ったのはワンズバーだったわ。となると、あのホーンスパイダーは誰かが使役していたのかもしれないわね…。あんなに頭の良い魔獣ですもの、誰かが育て、躾ていたとしても不思議は無い。なんで赤ちゃんを置いたのか?なんであんな所に?とか色々疑問は在るけど、あんな強い魔獣に護らせていたのなら何の不安もない。…それでも、なんであんな強い魔獣に護衛をさせてまでこの子を置いてったのかは解らないけどね…。


 まぁそんなわけで、この子を保護したあたし達は馬車をすっ飛ばし、ナトゥリムさんの店があるこのアイノンの街にやって来たわ。あ、そうそう。“ソフィ”ってのはこの子の名前。産着に名前が縫われてあったわ。ナトゥリムさん曰く、この子の産着はそうでもないんだけど、中に着せられた肌着、それと外套が凄く上等な物みたい。この辺りでも有名な商人であるナトゥリムさんの≪鑑定≫で視てもらった結果、今まで見たことも無いくらい上等な品なんだって。何でも産着には≪冷気遮断≫と≪快適性:特大≫、外套には≪着心地:最良≫≪精神安定:中≫のスキルが出ているとか…。他にも≪火炎抵抗:大≫や≪電気抵抗:大≫とかも出てるみたい…。≪スキル≫が出る程の服なんて、それこそあたし達庶民なんかが一生見ることは出来ても手の届かない代物だ。スキル1個でも在る服はあたし達の仕事3回分の値段がする。もしかしたらこの子、貴族の庶子とかじゃないか?って話も出てる。だから塩商人で幅広い人脈を持つナトゥリムさんに今、この子の事を調べてもらっている。何も無いのが一番なんだけど、厄介事に巻き込まれたく無いのが人情。何も出てこなかった場合は、あたしが育った孤児院も運営してる教会に預けようかと思ってる。


「何もないといいでちゅね~。」

「だ~う!キャッキャ♪」


 何も知らず、ただただ笑う可愛い赤ちゃん。

 ほんと、この子に何も無いといいんだけど…。

 少し遅れました。


 そして、ナトゥリムさんは完璧に無駄骨です。だって作ったのが襲った奴(ニコ)なんですもん…。服で情報が出てくる事はもうありません。


 ニコは本職(いちのせさん)に叩き込まれた結果生半可な服を作りません。プロの技術と精神と真心をこめて愛情(まりょく)をたっぷり注いで作るので馬鹿げた性能になります。


誤字・脱字を見つけましたらご報告ください。

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