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おたがいのしわく、です。

~視点:ニコ~


『それでは、コレからもリンのことは頼みましたよ。』

「もちろんです。」


 そう言って、カトレアさんは元の場所に帰っていきました。残念ながら(?)リンちゃんの3サイズは教えてもらえませんでした。『貴方、目視だけでもできてますでしょ?』と言って。ついでに言うと、そもそもゴブリンには下着の文化がないので着させるのは難しいから諦めろって言われました。元文明人(にんげん)の僕には(精神的な意味で)分からない理屈ですが、郷に入れば郷に従え。って言う諺が在りますし、今は従いますか。……今は、ですからね。その内下着文化根付かせてやりますです。

 それにしても、カトレアさんは策士の(ヒト)でした。途中から気付いたとはいえ、あそこまで考えてるヒトは久々に会いましたね。気付いた時にはもうどう転んでも相手の良いようにしか転ばないとか……。今度会ったら将棋…は難しいので、囲碁かチェス教えましょ。多分後藤さんレベルのヒトになると思います。リバーシは少しジャンルが違いますしね。


(それに、一番知りたかった事は知れましたしね。)


 僕がした2番目の質問。ソレは『“イタダキマス”と“オニゴッコ”って何か知っていますか?』です。

 答えは否。何ですかソレ?という顔をして、彼女は首を傾げてました。


 実はさっきのガ…、ガ……何でしたっけ?まぁ親玉狼さんとの戦いなんですけど、僕、ズルをしていたんです。

 どんなズルをしていたかというと、僕が≪テレパス≫を使えるのは知ってますよね?実はコレ、裏技が在りまして≪付与≫が出来るんですよ。≪付与≫を糸にかけて対象の生物にソレをつけると、相手の心を気付かれないように盗聴することが出来るんです。リンちゃんの≪フレイムスピア≫の爆炎から彼が出てきた時、見えないくらい細ーくした僕の糸を着けさせて貰いました。コレの効果は僕が糸を切るまで続きます。なので、僕はずっと彼の思ってること全て知る事が出来てたんです。あの時冷静でいられたのはそのせいです。


 その中で気になったのが“イタダキマス”と“オニゴッコ”でした。


 コレって、この異世界(せかい)じゃ異質です。“オニゴッコ”はまだしも、“イタダキマス”はおかしいです。食事前にお祈りをする文化は元の世界でもありましたけど、日本式のようなモノは世界的にとても珍しい文化です。ましてやここは異世界。更に彼は狼です。そのような(たべものにかんしゃする)文化が捕食者(どうぶつ)である狼に在るとは思えません。さっきカトレアさんにコレを聞いたのはそのためです。

 その結果がアレ。この森にも狼さんは居ます。≪テレパス≫が使え、長年この森にいるカトレアさんがそのような言葉を聴いたことが無いとなると、他の狼さん達にもそのような(イタダキマスの)文化が無いって事です。現に僕もあの(しゅうらくにはいった)時に彼以外の狼さんが“イタダキマス”って言ってるの聞いてません。


 けど、確かに彼は“イタダキマス”と言った。


 更には“オニゴッコ”という文化(あそび)も知っていた。どちらも日本の知識です。彼の思考に出てきたあの紫の石。アレを食べてからの彼の思考は別のモノでした。まるで人間(・・)のような思考。一人称もオレからボクに替わっているのも気になります。アレは一体、何だったのでしょうか…?


「オ~イ!!ニコ~!!どこイるんダ~!!」

「あっ、リンちゃん。」


 集落の方からリンちゃんが出てきました。


「どこイッてたんだニコ?心配したダろ。」


 そう言えば僕、宴会を抜け出してたんでしたっけ。心配かけてごめんなさい。


「ったく。わかればイイんダ。ワカれば。……トコロでニコ、その担いでンの、ナンダ?」


 そう言ったリンちゃんの指さす先は僕の背中。……ああ、そう言えばさっき、カトレアさんから親玉狼を倒した記念にって、何かが入った皮袋貰ったんでした。中身は何でしょうか?


「コレは…酒だ!!」


 リンちゃんに確認してもらった所、どうやら御酒のようですね。……アレ?なんかこの黒いの、何処かで見たような…無いような…あれぇ?


「なあなあニコ、コレ、スゲェいい匂いスンだけド、オレも呑んでイイか!?」


 目をキラキラさせてリンちゃんが御酒を凝視します。……そんなにイイ御酒なのでしょうか?前世でも御酒を呑んだ事が無い僕には分かりませんけど、リンちゃんがこんな目で見てるのですからかなりイイ御酒なんでしょうね。なんだか興味が湧いてきました。


「リンちゃん。僕にも一口ください。」

「オウ!オマエのだから当たり前ダろ!」


 近くの綺麗な葉っぱを丸め、簡易なコップを作ります。


「それじゃあリンちゃん。」

「オウ!ニコ!」

「「カンパ~イ!!」」


 生き延びた事。狼を倒せた事。全てに感謝して御酒をぐいっと呑みほします。おお~。するーっと喉にきますね。吐き気も無いですし、案外イケる口みたいです。


笑音(ミオン)さん!!もう絶対にどんな事があっても御酒を呑まないでください!!』


 ふと、前世で(そら)ちゃんが言った言葉が頭を過りました。アレ?ぼく、おさけのんだこと、あっ…たっ…けぇ?


暗転。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

~視点:カトレア~


 ずっとずっと、あの子を見てきた。

 初めは警戒でした。なにせ、数百年振りに産まれたゴブリンの特異種(ユニーク)。あの忌まわしき伝説になった、あのゴブリンと同じ炎属性の子。警戒するにこした事はありませんでした。


 産まれた報せを受けてから、私はすぐに集落に向かいました。……そこで見たのは、想像を絶する彼等の対応でした。


 まず、彼等はあの子を殺そうとした。

 けれどあの子はその殺気に気付いたのか、無意識の内に≪スキル≫を発動させ、殺そうとした者達を返り討ちにした。それに畏れをなした彼等は、あの子を殺そうとするのを辞めた。私もあの子は危険だと思った。


 次に彼等は、あの子を弾きだした。

 餌を与えず、住みかも与えず、集落の隅に弾きだした。あの子は時折落ちる木の実や虫を食べ、凍えながら生き延びた。やり過ぎたけど、妥当な扱いだと思った。


 途中から、彼等はあの子を虐めだした。

 集落の比較的若い者が中心となり、あの子を殴り、蹴り、痛めつけ始めた。何も反撃しないあの子を見て、痛々しいと思った。

 年老いた者達は、そんなあの子を見て嗤っていた。イイざまだと、嗤っていた。


 ただただ見つめていた。

『早く死ねばいいのに。』『早く死んで、楽になればいいのに。』

 ずっと、そう思っていた。そんなときだった。


 ある日、いつものように痛めつけられていたあの子が、反撃した。

 驚いた奴等に向かって、こう言った。


『なんでオマエラはオレを殴る!!オレが、オレが何をしたンだ!!何もしてネェダろ!!』


 雷を、打たれたようだった。

 その後あの子はボコボコに殴られ、その場に放置された。目に涙を溜め、苦しそうに咳き込んだ。

 そうだ。あの子は、何もしてない。何もしてないのに、死を望まれている。何もしてないのに、何の罪も無いのに、死を、望まれている。あんなにボロボロにされる謂れも、蔑まれ嗤われる謂れも無い筈なのに、死を望まれている。

 漸く気付いた。なんと自分が愚かなのかを。何故気付く事が出来なかったのかを。


 思わず手を伸ばして、気付いた。

 私には、そんな資格が無いことを…。


◆◆◆


(あの時、彼が居てくれて良かった。)


 住処に戻る道中に思う。あの時、本当に彼が居てくれて良かった。彼が居なかったら、あの子は、リンは既にこの世には居なかったことでしょう。何故彼がリンを助けたのかは分からなかった。あの時、彼にとって、リンは自分の獲物を横取りした盗人だった筈。けれど彼はリンを助けた。長い雨があがり、再びその姿を見た時、リンの手足に糸が巻き付けられていたのは驚きましたけど、あの子達の様子を見て、安心しました。

 けれど彼があのクイーンバタフライに拐われた時、リンが想像以上の衰弱して驚きました。あんな短期間だったのに、そこまで執着をみせたリンに、私は恐ろしいモノを感じました。……あの子はどれだけ、“安心”を欲していたのでしょうか?

 リンが命を消す寸前に彼が帰って来たのは正に奇跡でした。あの時程ラオヤークに感謝したことはありません。…最も、ソレ以上に『なんでもっと早くにあの生意気蝶軍団を始末しなかったのか!』とも思いましたけどね。

 それからも彼等はウルフに追いかけられたりやら進化したりやらてんてこ舞い。けど、あんなに表情を変えるあの子を初めて見た。あんな嬉しそうに、楽しそうに生きるあの子を見て、嬉しかった。


 彼等がこっちに来ているのに気付いたのは偶然でした。気付いてから、即興で造り上げた舞台。『私ながら少々嘘くさいかな?』と思った即席のシナリオに、彼等はのってくれた。彼が≪魔法倍増体質≫なのに感謝しました。


 それからはずっと、あの子達を見る生活。

 彼がおこす失敗やあの子が懸命に頑張る修行。時々ライゴウも呼んだりして、楽しかった。


 けれどその生活ももうお終い。

 今後、あの子が集落に残る道を選んでも私の元に戻ってくるとしても、見守るのは彼の役目。あんなにお互いを執着してるのには驚きましたが、それだけ彼はあの子を、リンを大切してくれている証。私の出る幕は在りません。

 そもそも私達守護者は、本来“森の者”と関わるのを禁じられていますわ。例外として彼、≪魔法倍増体質≫という爆弾を持つ彼のように、どうなるか解らない“不穏分子”を除き、接触又は介入することは禁じられていますの。ラオヤークが蝶達に手を出さなかったのはその為ですわ。“危険分子”だと、ソレを殺す事のみ例外とされていますわ。そう言う意味でも、彼がいて良かった。


『あ、姐さん。お帰り~ッス。』


 留守を頼んでいたゴローに目を向け、今だに眠るライゴウを見る。……良かった。まだ目を覚ましていないみたいですわね。ゴローの存在を知ったら、もう彼にも会えなくなる。ソレほどに私達“守護者”は秘密が多い。


 月の見えない空を見上げる。あの子達と同じ森に居るのに、今は見えない月程私達は離れている。


(どうか、あの子達が幸せになれますように。)


 見えない月に願う。あの子達が幸せに生きられますように……。















翌日

ゴブリンの集落にて。


「「「もう酒を呑まないデ(クレ/くダサい)!!」」」


 ……つい気になって見に来てしまったのですが、なんですのこの血の海…。リンを含めたゴブリン一同がニコに頭を下げて懇願しています。鼻から血の跡が見えますわ…。

 ニコ、貴方、何しましたの?

ラオヤークが蝶達に手を出さなかったのは理由が在りました。


次と閑話1話で森編は終わります。


誤字、脱字を見つけましたらご報告ください。

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