ぶたいのうらがわ、です。①
シリアスだよ。
一方その頃、ニコは集落の外れに居た。
~視点:ニコ~
「ふ~…。疲れました、ですぅ…。」
リンちゃんには悪いですが、少し抜け出させてもらいました。病院という基本静かなのが原則な所で注意されない程度でしか騒いだ事がない僕に、あの騒ぎはキツいです。
≪隠密≫を使ってこっそりお肉を拝借し、一人黙々食べます。前世以来初の焼いたお肉はとても野性味溢れるお味です。時々出てくる血の塊なんて蜘蛛の好みドストライクです。少々生臭いですが、ソレがまたいい味を出してます。ウマウマです。新しい好物認定あげます。
いや~それにしてもよかったですね~。
始めはリンちゃんが拐われ、どうなるかと思いましたけど、結果は皆無事。少々暴走してしまって弟君を殺してしまいそうになったり真の親玉が現れたりと色々ありましたけど、それを上回る大団円。
リンちゃんに関しては集落の評価や弟君の思い、コレから約束されたエリート人生。正にハッピーエンド!最底辺から皆の憧れになるとかどこの忍者漫画ですか?
いや~、ほんとリンちゃんにとって、今回の事件は転機でした。もうリンちゃんを虐める人なんていないでしょうし、何よりリンの方が強いでしょうからね。ほんとほんと、コレ以上ないハッピーエンドですね!!
「な~んて、思ってるとでも?
ねぇ、カトレアさん?」
近くの木に向かい、声をかける。
『気づいて、いましたの……?』
数拍置いた後、その木から生えてきたのは集落から離れた木にいる筈の精霊、カトレアさんです。ふふふ、さて、カトレアさん。
「それも含め、あの時のお話し合いを再開しましょ?」
さあ、答え合わせの時間です。
初めて貴女にあの話を持ちかけられた時、あまりに美味しすぎる話だと思いました。だってそうでしょ?見ず知らずの若い特異種のゴブリンに生まれたてで右も左も覚束無い魔力だけが強大なホーンスパイダー。巧くすれば貴女の思い通り意のままに動く私兵に育てる事も出来た。あ、あくまでもそういう可能性を考えていたって話ですよ。貴女の所に来るまで、僕は蝶々さん達の親玉に監禁されていたので。
話を続けますね。ま~そんな事も覚悟していたのですが、貴女は優しく丁寧に僕達に≪魔法スキル≫がどういうものなのか教えてくれましたね。途中リンちゃんが飽きて体を動かしたいと言った時にはライゴウさんを呼び、戦闘訓練も教えてくれました。貴女には感謝しています。貴女があの時僕達に手を差しのべてくれた事、この森を見守るように僕達を見守ってくれた事、弱くて逃げるしか出来ない僕達に知識と戦う術を教えてくれた事。全部全部、幾ら言葉を尽くしても語りきれません。本当に感謝しているんです。本当に感謝して感謝して……
――――だからこそ、信用出来なかった。
考えても観てください。そもそも、始まりからおかしかったんですよ。あの日先生達、鳥集団の歌に導かれ貴女の下に辿り着いた時の事です。あの時、僕達が隠れて音楽に参加していたのを先生に見つけられ、貴女の所まで運ばれた事。それ事態がおかしいんですよ。
何故なら、彼等には僕達の音楽が聴こえる筈が無いからです。
あの日の天候は雨。小雨とはいえ、周囲の音を消す程度には雨音がする日でした。僕達の位置も貴女から離れていたので、僕達が出す音は雨で消されてしまうんです。何より、彼等は合唱中。自分達の声で溢れたあの空間に、雨風が完璧に防げる空間で歌っていたのですよ。暫く貴女の所で暮らしていたんですよ。貴女の所の快適さは僕達が一番よく分かっています。だから分かる。彼等の高い声は僕達に聴こえても、僕達の小さな低い音は彼等の所には届かない事が。そんな彼等がどうやって僕達に気づいたのか?
答えは簡単です。誰かが僕達の存在を教えた。それしか在りません。
コレは先生から聞いたのですが、元々彼等には調子とり、あの日僕達がした音程をとる役の鳥が居るそうですね?けど、あの日その鳥は居なかった。そりゃそうですよね?だってその鳥さん、呼ばれて無かったのですから。
先生経由で聞きました。その鳥さん、ボヤいていたそうですよ?『なんで誰も呼ばんかったのか!!』って。
そもそもあのお酒造り、本来もっと先の夏の終わりにやるそうじゃないですか。なのに今年は予定をかなり早めて初夏、本来の3・4ヶ月も早くて驚いた。って、先生言ってましたよ?
本来夏の終わりにする筈だったお酒造りを早めたのは鳥達に合唱を唄わせたかったから。
お酒造りを早め、本来音程をとる役の鳥だけを呼ばなかった理由。それはコレから来る生き物にその役をやらせようとしたから。
その生き物達にその役をやらせたかったのは、その生き物達を自分の下に来させたかったから、
違いますか?ねえ、張本人さん?
貴女、今日言ってましたよね?『私は木々を通して大体の獣達魔物達を知っています。』って。それってつまり、木々を通して大体のことを知っているって事ですよね?こうして移動出来るのは知りませんでしたけど…。他にも会った初めの頃、『この木の周辺の守護をしている』。それってつまり、他にも他にも貴女のような知性を持った存在が居る可能性があるって事ですよね。現に主の樹様が居ますし。この広大で歴史ある森に貴女と主の樹様しか知性を持った存在が居ないって事の方がおかしいでしょ。出来てから少なくとも数千年は経っているのでしょう?
だからね、僕は思ったんですよ。
『貴女はその他の木から僕達の存在を知り、急遽お酒造りの準備をして、鳥達を呼び、僕達が来るのに合わせて唄わせたんじゃないか』ってね。
僕が初めて≪クローシェン≫を使ったあの木の実、アレが証拠です。本来更に数ヵ月をかけて熟すつもりだった木の実を慌てて熟させた結果、1つだけ熟す事が出来なかった。と言うか、そもそも全部が熟しきれてなかったそうですよ?これまた先生が言ってましたけど、『今年のカトレアの実はあまり熟しておらなかったので例年より疲れたのである。』って。コレって貴女が慌ててやったという事実が判るいい証拠でしょ?
「そう僕は思うんですよね~。」
『……。』
一通り語り終わり、彼女の反応をみ観ます。眉間にシワを寄せてますけど、その表情は『正解だ』って言ってるようなものですよ?
『……ニコさん、貴方のおっしゃる事がよく解りませんわ。あの日、お酒造りを始めたのはもうここまで育ったのだから造ってもいいかな。と、思ったから。調子とりの鳥を呼ばなかったのは私がぼんやりしてて忘れてしまっていたからですわ。確かに『あのコ達にやらせてみたら?』と、言ったのは私ですが、貴方達が通りかかったのは偶然。貴方の言う通り、他にも私のようにこの森を守護する木が居ますが、貴方達が来るなんて誰も報せてくれませんでしたわよ。そもそもの話、何故私がそんな事をせねばなりませんの?そんな面倒な事を。』
「そう!そこだったのですよ!!」
いや~、あっさり認めましたね。他に守護木が居るって。
けど、カトレアさんが言う通り、『何故彼女が僕達を呼んだのか。』ソレが解んなかったんですよね。だって、彼女の利益になりそうなの在りませんでしたもん。そもそも彼女、主の樹大好きな木でしたし。主の樹様の座を狙ってる、とかだったらまだ判ったのですが、アレ、でしたしねぇ…。僕達が出来る事って精々、火災防止?
「そう!その通りなんですよ!!何故そんな事をしてくれたのか、僕、全く解んなかったんです!!」
『ふん!当たり前ですわ!!何故なら私の気まぐれ、貴方達は私の暇潰しなのですから!!』
ふん!と、鼻息を荒くして威張ってますけど、…アレ?もしかして、伝わってない?
「何言ってるんですかカトレアさん。僕は今、『解らなかった』って言ったんですよ?」
『!!!?』
『解らなかった。』つまり、今はもう『解った。』って事です。
目を限界まで見開き、驚いてますけどコレからですからね?
「カトレアさん。僕ね、勘違いをしていたんです。」
『……かんちがい、ですって?』
ちょっ、そんなに睨まないで下さいよ。コレから話しますから。
あの時、カトレアさんが僕の首モドキを絞めた時、僕は彼女が言うように“この森の不穏分子”として僕を殺そうとした。そう思っていました。
けどね、それだとおかしいんですよ。だってそれなら、『何故、不穏分子より危険分子を先に殺らないのか?』ってね。
普通は先にヤバイのからでしょ?リンちゃんは見た通りの火、それも上位属性の炎です。『変異種や特異種は得意とする属性が体の色に出る』って修行を始める前に基本知識として貴女が教えてくれたんですよ?修行になって初めて≪ブレイクフレイム≫が使えると知った僕より、明らかに≪火、又は炎属性魔法≫が使えると判る危険分子を殺さなかったのは何故か?先生が来るまで、ずっと3人で修行していたとはいえ、僕だって時々その場を離れたりする時はあったんですよ?けど、貴女はリンちゃんを殺そうとしなかった。僕が例の相談をして二人っきりになった時も、僕達が寝静まって隙だらけになった時も、僕がリンちゃんの性別を知って精一杯になってる時も…貴女は何もしなかった。
貴女は何もしなかった。僕達に、リンちゃんに危害を加えなかった。
『……。』
ずっと不思議でした。何故、貴女がこんな事をするのか、が。
けど、さっきの出来事。それで漸く僕は気づけたんです。
これまでの行動、貴女の性格、言動、時折見せる表情、ここに居る訳…。
全てのBruchstückが集まりました。気づけば、とても簡単な事でした。
「カトレアさん、貴女は――――――」
実は一粒の信用もしていませんでした。今の臆病者にとって、信用も信頼も出来る生き物はリンちゃん以外居ません。
ニコ〉あんだけ美味い話は疑うのが当然です!!流石に出来すぎだって気づきますよ!!
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