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ゆめです。

 人が、立っている。


 真っ黒で何も無い、地面も天井も空間そのものが全て混ざって境界線も何もかもが無い何処かわからない暗い場所。そこに人が、ひょろ長くてタロットで描かれてるthe DEATH(シニガミ)のような蒼白い肌と夜のトンネルより暗くて黒い髪の男が独り、ポツンと立っている。


 知っている。あれは、平和島笑音(ぼく)だ。


もぞ

 何も無い闇が蠢く。蝗の大群のように、水をすった乾燥ワカメのようにウゾウゾウゾウゾ蠢く。


(これは夢だ。)


 昔から、前世(にんげんだった)頃の子供の時から視てきた夢だ。


 闇が(うご)く。

 闇が津波のように僕を襲う。

 僕はただ、立っているだけだ。


 闇はドンドンドンドン溢れていく。

 僕の体は、もう首から上しかない。


とぷんっ

 僕の体が完全に闇に呑み込まれた。

 そこからは、沈んでいくだけだ。


 (ここ)は冷たい。そして、落ち着く。


 体を丸め、底に着くのを待つ。

 寒い。けど、ここが僕の居場所なのだと僕は知っている。


ボァッ…

 大きな泡が生まれた。もう、底はすぐだ。


 目を瞑る。ここは僕の居場所(せかい)

 僕を虐めるモノは何も無いのだから…。







 その時


『グアァァァァァアアァァァァァァァアアァァァァァァァァァァァァァァ!!』

「!?」


 大きな、音が襲う。

 目を開けると底にはギザギサの口と爛々と光る2つの目玉が生まれていた。


 こんな事、初めてだ!?


『グアァァァガァアアァァァァァァァ!!』

「ヒッ!?」


 大きな口は更に大きく開き、


バクンッ!!


 僕を、喰べた。


―――――――――――――――――――――

――――――――――

――――


「ウワアァァァァァァァアアァァァァァァァ!!」

「グギャ!?」


バッ

(ハァハァハァハァハァハ……。な、なんですか今の、ゆめ?本当にあの夢ですか?)


 真っ黒い怪物に喰われた所で眼が覚めた僕は辺りを見回します。映るのは耳を押さえ、悶え苦しむリンちゃんとカトレアさんの葉と枝。それに白くなり始めた夜明けの空だけでした。

 ……よかった。夢でした。それとリンちゃん、夜明け前なのに大声出してごめんなさい。


 ドックンドックンと、まるで太鼓のように打つ心臓を落ち着かせます。大丈夫、あれは夢。只の夢です…。


「ぐ、ギャあ…。にこ。いきなり、おーごえだすンじゃねぇ…。耳が、耳がイテェ…。」


 耳を押さえていたリンちゃんもようやく回復したようです。涙目で僕を睨んできます。


「ニコ、キューにどうシ…



ア?ニコ、おめぇ、泣いてンのか?」


 リンちゃんに言われ、頬を触ると確かに濡れていました。……うわぁ、夢で泣くなんて何年ぶりでしょうか?ちょ…いえ、かな~り恥ずかしいです…。


 なんかアッたのか?コエー夢でもみたのカ?と言って、リンちゃんが僕の頭を撫でたり背中を擦ったり顔を覗きこんできます。

 あれ、もしかして僕、あやされてます?


「大丈夫。だいじょーぶダゾ~。コエーのなんて何処にもイネェーぞー。」


 リンちゃんは僕を抱えて横になります。

 だいじょーぶ。だいじょーぶ。そう言って背中をポンポン擦られます。少し舌足らずなだいじょーぶが呪文のような御経のような不思議な音になって彼の口から流れてきます。


じわぁ

 ……だから、なのでしょうか。

 僕の涙腺が暴走し始め、ショッパくて細い川が現れていました。細い川がいっぱい出来て、合流し、太い2本の河になりました。


「……りんちゃん。りんちゃん。」


 ショッパイ河のせいで、心の内側がタイフーンになったみたいに荒れ狂います。…だいじょうぶじゃない。だいじょうなんかじゃない!こわかった。恐かった。怖かった!怖かった!!

 喰われたと思った。また、死んでしまうのかと思った。生きていたいのに…。僕は、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと、生きたい!!

 喰われるなんてヤダ!!死ぬのなんてヤダ!!痛いのも辛いのも寂しいのも苦しいのも動けないのも独りなのもみんなみんなイヤです!!


 やっと動ける身体になったんだ!

 食べるのも遊ぶのも話すのも夜更かしも修行もなんだって出来る!!自由な身体に成れた!!


 友達だって出来た!!

 前世では恐ろしいと云われ、月見里(やまなし)さんや一ノ瀬さんといった胆力が在る人出ないと近寄る事さえされませんでした。華凛ちゃんやフェリ君もそうです。初めて対面した時、大声で泣かれました。赤ちゃんはみんな始めの頃はこうなのよ。と、Mutter(おかあさん)に言われ、何回も大泣きされながらも会う内になんとか懐いてもらえました。今思い返せば初対面の新人看護師さんには泣いて無かったので、あの大泣きは間違いなく僕のせいだったと断言出来ます。(そら)ちゃんはその、……出逢いが出逢いだったので懐いてもらえたと思うのですけど、それでも鼻血出して卒倒されましたし……。ほんと、あの子よく僕に懐きましたね…。


 兎に角、そんな僕が自分から作れた友達。それがリンちゃんなんです!


 リンちゃんに逢って、僕の世界が動いたんです!!

 そりゃああの女王さんや狼さんに拉致られたり追いかけ回されたりされましたよ?けど、あの長雨で寂しくなかったのも師匠が出来たのも進化出来たのもリンちゃんのお陰なんです。


 今の僕の今世(せかい)はリンちゃんが造ってくれたようなものなんです!!













 だから、死にたくない。死にたくなんて無いんです。“しあわせ”って言えるんです。人じゃなくても、親も妹弟が居なくても、“しあわせ”って、言えるのです。


 ずっとベットから視ていた憧れ(せかい)

 ずっと夢みていた理想(からだ)

 ずっと焦がれていた、宝物(ともだち)


 今、僕は全てを手に入れたんです。

 この現実(ゆめ)を、例え(まぼろし)であろうと僕は、消されたくない。


「りんちゃん…。りんちゃん…。」


 だから僕はこわい。

 この(せかい)が、いつか誰かに壊されてしまうことが…。

ニコがリンといる理由。

独りぼっちは辛い。似た者同士です。


誤字・脱字を見つけましたらご報告ください。


9/7 修正しました。

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