りんちゃんのはなしです。③
今後、ニコとリンと視点の人物の会話は「」表記にします。
「え~……こほん。
リンちゃん、一様、本当に本当に一様聞くのですが、どうして去ろうとしたんですか?」
「うぐっ!」
水分が大分抜け、ある程度体力が回復したのでリンちゃんに何故居なくなろうとしたのかを聞きます。
……えっ?お前あんな醜態晒していたのによく(顔色変えずに)事情聴取出来るな。って?……ほっといてください。蜘蛛は表情筋がお仕事をしない生き物なんです。
「……だって…オレ、特異種、だから。……嫌われたくナカッタ…。」
オズオズといった感じで、顔を紫色に染め、掠れそうな声でリンちゃんは語ります。
「オレ、今まで、ずっと独りぼっちだった…。親も、にーちゃんもいもーとも、他のガキや周りの大人も、ミンナ、オレの事嫌いだっタ」
彼が途切れるような声で、力を入れてしまえば切れる糸のようなか細さで語ります。
やはり、カトレアさんの言っていた通り、リンちゃんは苛めを、いえ迫害を受けていたのですね…。
「それが当たり前で、フツーだった。だから、ニコに優しくさレテ、オレ、嬉しカッタ。食われてもイイって思った。それからトモダチんなって、あの蝶女に拐われて、でもまた帰って来てクレテ、また一緒にいれて、オレ嬉しカッタ。幸せだったんだ。」
ぽと
「でもオレ、ホントーは希少種じゃなくて、特異種で、希少種は災を呼ぶカラ…。もっと上の特異種だから、おれ、一緒にいちゃいけねーって、思った。アイツらみたいに、ニコに嫌われるって、思った。」
ぽと
「……けど、ダメだ。やっぱオレ…やだ。ニコと、一緒にイタイ。さっき、お前が動かなくなって、オレ、コワカった。動かなくって、…冷えテテ、…コワカった。…ヤダヨ。ニコ。また、会えナクなるなんて。一緒にメシ食うのも、話すのも、歌聴くのも出来なくナルなんて…。ニコ、オレ、特異種だけど、」
―――キライに、なんないで。いっじょに、いて。
「ひっぐ。…ひっぐ。」
嗚咽と鼻水、涙でぐちゃぐちゃになったリンちゃんはただただ僕に懇願します。
僕の脚を握りしめ、ぼとりポトリと雫をおとす。
きらわないで。きらわないで。
壊れたオルゴールのようにきらわないでと繰り返す彼は、いったい、どれ程の間独りだったのでしょう?
(一ヶ月?半年?一年?……それより、もっと?)
独りぼっち。
自分を否定する視線と侮蔑する声に貫かれ続け、触れられるのは冷たい風と虚しく立ち竦む自分だけしかいない凍えた世界。
前世において、僕はその世界の住人でした。
声をかければ泣き叫ばられ、近づけば怯えられ、接触すれば弾劾と誤解の連鎖で更に遠くなる人の世界。追う力も体力もない僕は、諦めた前世。
諦められたのは、それでも近くにいてくれる人が居たから。愛してくれる家族が居たから。受け入れてくれたお爺さん達がいたから。それで、満足できたから…。
けど、リンちゃんには誰もいない。
誰もいない、僕なんかではとても想像すら出来ない本当の独りぼっち。
どれ程辛かったのか?どれ程恐ろしかったのか?どれ程誰かと、一緒にいたかったのか?
どれもコレも、想像を絶する地獄だったのでしょう。あの生半可な前世ですら、僕には堪えられないモノでした。
「ひっぐ。…えぐ。」
だからね、リンちゃん。
「……リンちゃん。勘違いしないでください。」
「……エ?」
僕は、君に伝えないといけない。
「リンちゃん、君、『希少種や特異種は災いを呼ぶ。』っていってましたけど、僕は希少種ですが君に災いを運びましたか?」
「えっ?いや、どっちかつーと、会えて嬉しカッタけど?」
きょとん。
少し呆けた顔で君は答えます。
「リンちゃん、『嫌わないで』って君は言いますけど、僕が君を嫌いになるような事、君は何かしましたか?」
えっ?えっ?
ぐちゃぐちゃになった顔を困惑に染め、理解出来ないと言う風な顔で僕を見つめます。
「リンちゃん、僕だって“希少種”なんですよ?僕だって災いだかなんだか分かりませんが、君が言う不幸の塊なんですよ?それに、君に会えて僕は不幸だって思ったこと有りませんよ。」
だからね、僕は君に教えたい。
「リンちゃん。色々ありましたけど、僕は君に会えて幸せなんです。君が僕に会って嬉しかったように、幸せだって言ってくれたように、僕も同じだったんですよ。」
「に、にこ。」
ずっと避けられてきた。怯えられてきた僕。
ずっと外されてきた。拒絶されてきた君。
「だから『嫌いにならないで』。なんて言わないください。僕は君を嫌いにならないし、離れませんよ。むしろ、初めての友達なんだからデロンデロンに甘やかしてやります!!妹達や周りのお爺ちゃん達に引かれた僕の甘やしスキルを嘗めないでください!!」
ぽむ。
胸で脚を叩くポーズ……ができなかった為、脚を胸に置く動作になります。
呆れたように僕を見ますけど、しょうがないじゃないですか。蜘蛛の体では難しいんですから。
「……くく。クハハハ。なんだよ。ソレ。甘やかしスキルって。ナンダシ、それ。クハハハ…。」
「甘やかしスキルって言ったら甘やかしスキルです。自我がハッキリしていない幼児をデロンデロンに溶かす僕の“ごーるどふぃんがー”嘗めないでください!!子守りは得意中の得意なんですよ!!」
「対照低っ!?あと、オマェはゴールドじゃなくて茶色だろ脚!」
「あ、そうでした。」
「「……ハッ!!ハハハハハハ!くだらないですね/ネーナ。」」
揃えたようにバカ笑いします。
おかしくて可笑しくて、笑が止まんないです。
「なあ、ニコ。」
「はい。リンちゃん。」
そして、一通り笑い終えた僕らには、
「コレからも、よろしくな。」
隙間も溝も、切れ目もなんもない確かな糸が結ばれていました。
「はいです。よろしくね、リンちゃん。」
遅れてすみませんでした。( ノ;_ _)ノ
仲直り(?)しました。
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