りんちゃんのはなしです。②
(りんちゃん。リンちゃん!)
風に打たれ、細かくなった雨の粒が体に纏わりつく。
ついた端からどんどん力が抜ける。けど、今はそんな事に構っていられない。
(リンちゃん。どこ?どこにいるのリンちゃん!)
水を運ぶ風、その中を飛びながらリンちゃんを探します。
『ゴブリンにとって…、普通種以上の者は禁忌なのでございます…。』
先程、カトレアさんから聞いた言葉が頭の中で響きます。早く、早くリンちゃんを見つけないと…!
◆◆◆
~回想~
『きん…き…?』
『ええ。昔、このゴールの森で産まれた強い力を持つゴブリンが近辺で大暴れしていましたの。それを討伐するために集まった冒険者や国仕える騎士達より、そのゴブリンだけでなく多くの生き物達が虐殺されました…。森の生き物達は原因になったゴブリン族を恨み、迫害しましました。森の隅に追いやられて、それ以来ゴブリン達は仲間から強い個体が産まれるのを拒絶し、産まれたら即殺す様になりましたわ。子供であろうが、親兄弟だろうが関係なくですわ。時稀に産まれついた時から強い力を持つ個体もいるとは聞きますが、それらの個体も迫害されるか、或いは集落から追放されるとのことですわ。』
あのゴブリンは後者なのでしょう。
カトレアさんの言葉で、前にリンちゃんが集落の話を溢した事を思い出します。あの時、蝶々騒ぎで聞く事が出来ませんでしたけど、集落の話が出たと言うことは……え?待ってください。と言うことはつまり、
(リンちゃんは、……虐められていた?)
そう思った途端、リンちゃんと初めて会った時の事を思い出しました。
あの時、ガリガリに痩せ細った体にたくさんの傷がついていた事を。
リンちゃんはもう、ある程度成長した子です。
彼が集落の記憶を持っているという事は、 集落で暮らしていた”事実があるということです。
あの傷はつまり、虐められていた証拠…?
『え?え!ま、待ってください!?なんでそんな事を?そんなの…リンちゃん関係ないじゃないですか!!昔の事なんでしょう!?今、リンちゃんは関係ないじゃないですか!?』
リンちゃんを虐めていい理由になんてなりません!!
そういった僕に、カトレアさんはなにかを察したのか、暫く黙りこんだ後口を動かしました。
『……なるほど。あのゴブリンは両者だったのですね。ならば、あの行動も納得出来ますわ…。
いいですか?小さな角を持つスパイダーさん?
生き物とは、自身と違うモノを拒絶するものですわ。』
そう言いきった彼女の言葉に、前世の僕を思い出します。
『ゴブリンは、あの時以来徹底的に同一を好む様になりました。』
―――――アイツって、オレらと違うよなよな。
『同じ者には優しく、違う者には排他を。
……それが彼等の暗黙の掟です。』
―――――いや!私あのこ嫌い!!
『もうそこに、過去は関係ありません。』
―――――辞めろよ!ぼく、アイツの幼馴染みなんかじゃない!!
『掟は掟だから。彼等がそれを護り続ける以上、今後も彼等は迫害を続けるでしょう。』
―――――来るな!!この、悪魔!!
偏見と誤解にまみれ、誰とも友達に成れなかった子供時代。とても寂しくて哀しくて、ベッドで泣いてばかりだったあの頃。悲しかったけど、僕には愛してくれるMuter,Vaterがいました。
凄く凄く悲しかった。それでも、2人がいたから友達がいなくても大丈夫でした。頑張れって応援してくれたから苦いお薬も辛い手術も頑張れた。
2人がいたから、“生きよう”って思えた。
リンちゃんには、そんな大切にしてくれる人が居なかったということですか…?
集落なんて小さい世界で、皆から嫌われ、蔑まれ、虐められていたってことですか?たった1人で、誰にも助けられず、泣き虫な彼が、ずっとずっとずっと……1人で生きてきたのですか?
『だから、あのゴブリンは逃げたのでしょうね。……また、拒絶されたくないのでしょうから…。』
その言葉が耳に入った瞬間。僕はカトレアさんから飛び出し、駆け出します。
けれど、
『リンちゃん!りんちゃ………きゅう。』
バタ
雨と濡れた土に触った途端、力が抜けます。
……なんで?今すぐリンちゃんの所に行きたいのに…どうして力が抜けるの?進化する前まで、川で溺れても力が抜けるなんて無かったのに…なんでなのですか?
ずるずると体を引きずり、カトレアさんの下まで戻ります。
『不思議ですわね。スパイダーはそこまで水に弱い種ではない筈ですのに。』
カトレアさんが幹から生えて、不思議そうに僕を見ます。……知りませんよ。そんな事。僕は今、リンちゃんを追いかけなきゃいけないのに…。
動けない体でリンちゃんを追いかける手段を考えます。リンちゃんを追いかけないと…。追いかけて、伝えないと。伝えないといけないの言葉があるのに…!
その時、バサッと音が聞こえました。
そうだ…。彼に頼もう…!
~回想修了~
◆◆◆
バサッ
とっさでしたが、リンちゃんに糸を付けて正解でした。あの時、嫌な感じがしたのでこっそり糸を付けさせてもらいました。リンちゃんに許可も何も貰ってませんけど、あの時糸を付けた僕、ぐっじょぶです。
バサッ
リンちゃんに付けた糸をたどり、森を飛ぶ。
リンちゃん。ゴメンね。
君が逃げようと、僕は追いかけます。
君は、僕の友達だから。大切な人だよって、愛すべき友達だからって伝えたいから…!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~視点:リン~
「ハア、ハア、ハア、…!」
バシャッ バシャッ
雨の森を駆け抜ける。
冷たい粒が纏わりつき、胸と足が痛い。
ゴッ
「アッ!?」
ズシャッ
木の根に足を捕られ、口に泥が入る。
「ブェッ!!…ぺっぺっ。」
不味い。
不味い…。
目から雫が落ちる。
違う。コレは口に泥が入ったからだ。
オレは、泥の不味さに泣いたんだ。
ポロッ
……どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!
知られた。知っちまった!
ニコに、オレが普通じゃないってこと!オレが変異種じゃなくて、もっと上の特異種って事!!
あのカトレアって奴が言ってた事が本当なら、オレはとんでもねぇバケモノって事だ!!
……どうしよう。どうしようどうしようどうしよう!!
どうしよう。オレ、いやだ。いやだ嫌だイヤだイヤだイヤだいやだ嫌だ!!
「いやだ…ニコに、きらわれたくない…。」
ポロッポロポロボロ
はじめて、やさしくされた。
あたかかいこえも、やさしくふれるあしも、いっしょにくううまいめしも、なくなっちまった…。
おれが、ゆにーくだから。
わざわいをよぶ、ばけもんだから。にこも、おれをきっと、きらいになる。
たえられなかった。にげた。
……どうしよう。にこ、……にこ。
(かってなのはしってる。だけどにこ。おまえだけは、おまえだけは…)
「……きらいに、ならないで。」
雨が止まらない。
体が泥の様に重くて動かない。口の中はぐちゃくちゃで塩っ辛くて最悪だ。
ひっく ひっく
けど、ニコに嫌われたらと思うと、それらが大した事のないように思う。
ハハハ。オレ、どんだけアイツ好きなんだよ…。きっと、アイツがいつも『リンちゃん大好きです!凄いです!!』なーんていってっからだ。
なあニコ?それでオレがどれだけ救われたと思う?同種から外され、蔑まれ、恨まれる寒くて冷たい日々しか知らなかったオレに、あったけーもんで溺れされたオマエ。離れられる訳ねーだろ?甘えねー訳ねーだろ?…依存、しねー訳ないだろ?
だからニコ。嘘つきだ!って罵ってもいい。騙したな!って嘆いてもいい。だから、だから……!
『リンちゃん見つけたーーーー!!』
その時、アイツの声が聞こえた。
なんで?アイツ、今なんでか知らねーけど水苦手なのに?雨でも動けなくなるくらい苦手になった筈なのに?なんで声が聞こえるんだ?
バサッ
『リンちゃーーーん!』
どこからか羽の音が聞こえる。ニコの声もそこから聞こえた。
オレは声の方を向く。
「に!……ニコォォォォオ!?」
そして驚いた。なぜなら奴は、
「リンちゃんリンちゃんリンちゃん!見つけたよーー!」
「くえぇぇー。」
この森有数の猛者、ライズファルコに掴まれていた…。しかもライズファルコはなぜか疲れた様子で。
なあ、オレが出ていった後、なにしたんだオマエ?
大変遅れてしまい申し訳ありません。
誤字・脱字を見つけましたらご報告ください。




