表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/88

あるきふじんの懺悔

すみません、大変遅くなりました。


番外編です。

 神様。遥か高き御場所から私達をお見守り下さっていらっしゃるでしょう我等が主様。

 どうか、この憐れで愚かな後先短い老婆の話を聞いてくださいませ…。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そう。今より3年前の事。

 当時、(わたくし)は夫に先立たれ失意のドン底でした。

 私の夫はたいへん素晴らしき方でしたわ。私の父は本場イギリスで修業した紳士服仕立屋(テイラー)という職業で、夫は父に弟子入りした者の1人でした。

 夫と私は年が近かった為かすぐ仲慎(なかうつ)まじくなり、やがて恋仲となり結婚。両親からも弟子の方々からも祝福され、無事に一人娘を出産。世間は戦争の真っ只中でありましたが、それでも幸せに充ちた、幸福な日々でした。


 しかし時は戦乱の時代。

 娘が掴み歩きが出来るようになった頃、夫のもとに赤札が届きました。


『必ず戻ってくる。』


 そう言って旅立つ夫に、私が出来る事は千人針を施した衣服を渡す事と(いえ)を守る事。そして御国、いえ、当時では考えられない事なのですが告白いたしましょう。


 私は御国の事よりも、ただただ夫の無事を祈っておりました。


 非国民と罵られても構わなかった。

 それほどに、私は夫を。御国より、愛しい愛しいあの人を愛していたのでございます。


 その思いが届いたのか。御国は負け、愛しい私の夫は無事に、無事に五体満足で私達の元に帰って来たのでございます。


 それからは大変目まぐるしい時間でした。


 夫は再び店に戻り父と共に働き、私は細々とした針仕事を貰い、それをこなしながら家事に務めました。


 それから東○オリンピック、父達の死、バブル、震災。

 いいことも悪いことも、実に色々な事が起こりました。

 娘も無事好い殿方を見つけ結婚。婿殿はアパレル関係の企業を立ち上げた方でしたので、残念ながら跡を継ぐ事は出来ませんでした。

 しかしよいのです。私達のように、娘にも好いた殿方と巡りあって欲しかったから。

 私達は偶々縁があった。だから受け継いだ。あの娘達は縁が無かった。それだけの事でございます。


 孫娘も無事生まれましたわ。あの子も服に興味があるらしく時々私達のところに通い、最近フリルのついた立派なワンピースを作れるようになりましたの。この婆の贔屓目を抜いても、それはそれは素晴らしいワンピースでした。


 あの子は娘達の跡を継ぐ。そんな気がいたしますわ。


 私の人生は幸福そのものでした。

 だから、思ってもいなかったのです。

 夫が、私よりも先に旅立つ事を………。


◆◆◆


「貴方…。」


 元々、人より肝の臓が悪かった夫はある日、先に旅立ってしまいました。

 いつものように語り合い、いつものように笑い、いつものように夕食を食べ、いつものように2人で眠る。

 そんないつものどうり。2人で起きる筈だった次の日は、永遠に来ないものとなってしまいました。


 夫は大変穏やかな顔でした。まるで寝ているだけのような穏やかな寝顔。けれど、その目蓋が開けられる事は永遠にないのです。


 夫が火に清められ、灰色の石の立つ寂しい箱に容れられても、私には実感が沸きませんでしたわ。


『ただいま光子(私の名前ですわ)。帰ってきたよ。』


 そう言って、ひょっこり帰ってくんのではないか?死んだなんて嘘で、私を驚かす為のドッキリではないか?そう思いながら一年、二年…と思い時が過ぎて行きました。


 けれども夫は帰って来ることは無く、ある日漸く解ってしまったのです。


『あぁ、あの人は居なくなってしまったのですね。』

…と、


 理解したとたん、涙が溢れてきました。

 幼子の様に、泣いて、泣いて…涙が止まりませんでしたわ。ただただ悲しかった。哀しかった。


 夫の死から五年…。漸く、私は夫の死を認めたのございます。


◆◆◆


 それからというもの、すっかり精神が弱ってしまった私は生き甲斐だった趣味を続ける事どころか生活すらままなくなり、さる有名な総合病院に入れられる事となりました。


『お祖母ちゃん、また一緒に服作ろうね。』


 孫の早苗にも励まされましたが、沸かないのです。生きようとする気概が……。


 そんな時でした。

 “彼”と出逢ったのは…。






「どうか、シマした、か?」


 夫の死から立ち直れず、日々をただ座ってボーッとして過ごしていました。

 そんなある日、中庭に座っていると声をかけられたのです。

 伏せていた顔を上げると、足が見えました。声の持ち主は相当高い背の持ち主でした。


「あノ、大丈夫、デスか?」

 辿々しくも、私を気遣う声音はとても優しい響きでした。少し低い声はの中に幼さを感じさせます。孫より歳上の、高校生くらいでしょうか?最近の子は背が高いですね。


 「ありがとう、大丈夫ですよ。」そう言おうと思い、相手の顔を見ようと更に顔を上げました。


「……。」


 けれど、私は声を出せませんでした。


「……?あの、おばあちゃん?大丈夫、デスか?」


 声の持ち主、その青年はとても高い背にガリガリの細い躯。アメジストを埋め込んだ鋭い三白眼、質の悪い黒曜石のように黒い髪。青白い肌に片手には点滴。


 その姿はまるで、まるで…


「……き、キャーーーーーー!!








ハウル・シャープラン長官ですわーーーーーー!!」

「Boa!?」


 そう!!彼は<星の幻想者β~詩を紡ぐ者~>(BLゲーム)に出てくる敵サイドの攻略キャラ、ハウル・シャープラン長官(38歳)にそっくりでしたの!!


 あ、<星の幻想者β~詩を紡ぐ者~>通称<星詩>と言うのは私と娘と孫がはまっていたゲームの名前ですわ。

 主人公のセシルちゃん(15歳 男)が父親を探し、宇宙を旅する話なのですが、それに出てくる最大の難敵、ハウル・シャープラン長官(通称死神)にそっくり、いえ、本人と言われても納得出来ますわ!!なんという偶然!!なんという奇跡!!


「ちょっと着いてきて頂戴!!」

「えっ?あっ、ちょっとッ!?」


 興奮を抑えきれなかった私はすぐに彼を拉致!

 私は彼を引きずり、自分の個室に向かいましたわ!


 実は私、貴腐人ですの。

 女学生の時より薔薇を愛す、生粋の貴腐人ですわ!!その血が騒いだのでございます!!ああ、いつ以来でございましょう。こんなに血が騒いだのは。

 そうですわ!今より何十年も昔、当時夫がまだ仕事場に馴れず周りに苛立ちを隠せなかった頃、今でいう“DQN”のような態度だった頃、ウチの裏でひっそりと子猫を飼い、『しろにゃんただいまにゃ~。さびしかったにゃん?ぽんぽこがぺこぺこにゃん?よちよちよち~♡今ご飯あげるにゃよ~♡』と言いながら子猫のにくきゅーをプニプニしていたのを目撃したあの時。あの時の衝撃と同等ですわ!!

 あの時の光景は今でも鮮明に思い出せますわ。普段あんなに仏頂面で唯我独尊な性格だった彼が、子猫相手にパフェに甘いクリームをかけ更に蜂蜜と砂糖をトッピングしたかのようなデレッデレな顔!!

 ええ。ええ!撃ち抜かれましたわ。あまりのかわいさに心の臓のど真ん中にドォーンと大穴開けられましたわ!!私は彼を手に入れるべく、父の愛人の写真を手に入れたり彼に手料理を差し入れたり他のお弟子さんにお友だちを紹介したり彼にかわいい子犬や子猫の写真をプレゼントしたり彼に色仕掛けしたり…。そのお陰あいまって、私は無事に夫という超ツンツンデレ男を手に入れたのでございます!!


 私の血は娘達にも受け継がれ、2人も立派な貴腐人と腐女子になりましたわ。コミケやオンリーイベントではコスプレをし、『偽りの薔薇の貴腐人達』と呼ばれ、ちょっとした有名人でしたの。あ、“偽りの薔薇”とはいつも造花の薔薇(布で作った夫のお手製)を衣装につけていたからそう呼ばれるようになりましたの。腐っているのは真実ですわ。

 残念なことに、私はマイナー、娘達は所謂王道が好きだった為、時々仲違いをしたりしましたわ。


 しかし唯一、唯一あるキャラだけ皆受キャラが合致し、盛り上がった事があるのでございます!!それがハウル・シャープラン長官でしたの!

 まさかリアルに彼が現れるなんて…。ありがとう貴方。きっと貴方が巡り合わせてくれたのですね。もっと萌えを広げよと、もっと私に生きろと、そういってくれるのですね。


 ありがとう貴方。私はこの萌えを心に、もっと人生を謳歌しますわ!!


「貴方ありがとうーー!!愛していますわーーーーーー!!」

「H、Helfen Sie mir(だれかたすけてー)!」


 こうして出逢ったのが“彼”、平和島(へいわじま) 笑音(みおん)君、ニコちゃんでした。


◆◆◆


 その後、彼の叫び声に駆けつけた看護師さん達に捕らえられ、残念な事に“ハウル・シャープラン長官コスプレ作戦”は破棄されてしまいましたの。


 初めが初めだったせいか、当初は私を見るとすぐに逃げる彼でしたが、孫や娘達に『私の生きる気力を戻してくれてありがとう。』と、何回も何回も礼を言われる内に段々と警戒心が無くなっていったのか、1ヶ月後には一緒にお喋りをする仲になりましたわ。


 モチロン、彼にもうコスプレの話はしませんでしたわ。と言うより、出来ませんでしたわ…。彼、その、純粋過ぎて…。おまけに高校生くらいかと思っていたら孫より年下の14歳でしたし…(孫は当時15歳でした)。なんかこう、自分の穢れが浮き彫りになりそうで出来ませんでしたわ…。穢れた生き物に、純粋な生き物は眩しすぎるのでございます…。その内、彼が裁縫に興味を持ったので、それはもう丁寧に教えましたわ。だって、こう、なんと言いますか、罪悪感が半端ではなかったので…。罪滅ぼし代わりにそれは丁寧に教えましたわ。私の持つ技術を全て叩き込みましたわ。恐らく、娘や孫の時より熱心にやりましたわ。そのかいあってか、彼は私を超え、何処に出しても恥ずかしくない立派な針子に成長しました。……これは蛇足ですね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 神様、神様。遥か高い所にいらっしゃる我等の主様。


 どうか、どうか彼を、ニコちゃんを返してくださいませ。


 あの日、後藤君の回復パーティーから、ずっと行方不明(・・・・)になってしまった彼を、彼を返してください!!


 あの子は姿は成人のようですが、まだまだ幼い子供なのです!!

 生きる事も、夢見る事も、これからせねばならない事が沢山ある青年なのです!!


 お願いいたします。お願いいたします!

 どうか、どうかこの老婆の願いを聴いて下さいませ!!私はどうなっても構いません!!だから彼を、彼を返して下さいませ!!


 元の職場、寅丸セキュリティサービスに復帰した後藤君が、警察も裏社会も仕事の友達も全て巻き込んでつくったネットワークをフルに使っても見つからないニコちゃんの手掛かり。もう貴方様しか頼れる方は居ないのです!!だからどうか、ニコちゃんを返してくださいませ!!


 どうかお願いいたします…。

 ニコちゃん、貴方は今、何処にいますの?

×貴婦人

○貴腐人


今回は一ノ瀬さんの話でした。


後さらっと出た後藤さんの本職。やったねニコちゃん!後藤さんヤ○○さんじゃなかったよ!!





………………ほんと遅れてすみませんでした。


誤字・脱字を見つけましたらご報告ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ