番外編:バレンタインは王子を疲弊させる。
王子のバレンタインデー。
「もうすぐバレンタインだなあ、圭吾。お前、今年はいくつもらうんだろうな」部活帰りに高田から聞かれた。
「今年は、涼乃からもらう以外はいらない。だいたい、彼女持ちにチョコを渡すような人間はいないだろう。」
俺がきっぱり言うと、高田は「は~~。彼女のいる奴はいやだねえ」と首を振った。
「お前も彼女からもらえばいいだろう。文化祭のときに知り合った子はどうした」
「・・・・・言うなよ。」いつも陽気な高田の顔が曇った。
「え。だって、まだそんなたってないだろう?」
「“高田くんって、いつも部活で会えない”ってふられた・・・・俺はこれほど自分が体育会系だということを呪ったことはないぞ、圭吾。どうしてお前と岡崎は大丈夫なんだ。」
「・・・・涼乃の性格?かな」まじでそれ以外に思いつかない。
「はああ~?振られた俺の傷口に塩をすり込むようにノロケてんじゃねえよ。ちくしょ~。バレンタインなんて、なくなっちまえばいいんだ!!」
道路でわめくなんて、酔っ払いのオヤジか。こいつは・・・。
高田の呪い(?)も空しく、バレンタインの日を迎えた。
ラッキーなことに部活の朝錬がない曜日だったので、涼乃と待ち合わせて登校することにした。
「おはよう、涼乃」
「おはよう、圭吾くん。今日も寒いねえ」涼乃が微笑む。
涼乃は、いつチョコをくれるのかな。俺から催促するのもどうかと思うので涼乃から言い出すのを待っている俺。
涼乃と一緒に登校したことで、朝からこちらをチラチラみる視線は感じるものの俺たちの邪魔をする度胸のある人間はいないらしい。
ところが、教室に入ると俺は愕然とした。
俺の机の上には・・・・チョコが乗っていた。それも1個や2個じゃない。
「・・・うわあ、すごいね。圭吾くん・・・・」そういうと、涼乃は友人の川田さんのところに行ってしまった。
同じクラスの友人・福田や噂をききつけて見に来た高田(ちなみに高田は隣のクラスだ)がチョコの数を見て「すげえなあ、圭吾。どうすんだ、これ」と一言。
「どうするって・・・・全部返すに決まっているだろう。」俺はそういうと、今日の休み時間を全て使って、チョコをくれた女子たちに返却して回ることに決めた。
・・・結局、休み時間はチョコの返却に追われ涼乃と話すこともできなかった・・・・
図書室当番じゃない涼乃は先に帰ったので、俺は部活仲間と別れると一人になった。涼乃は結局チョコをくれなかった。まさか、“圭吾くんはたくさんもらうから、私のがなくてもいいよね~”などと思ってないだろうか・・・いやまさか・・・・でも涼乃の性格なら・・・・
俺はため息をついて、最寄り駅の改札を出ると・・・・俺は目を見張った。
「圭吾くん」そこには涼乃が立っていた。家から来たらしく、私服だった。
「どうしたの?涼乃。こんな遅くに」
「今日、バレンタインでしょう?・・・学校だと渡しづらいから、圭吾くんが部活から帰ってくる時間を見計らって待ってたの。」
そういうと、涼乃は空色のペーパーバッグを差し出した。
「これ。チョコケーキを作ったの。味見したから、大丈夫だよ?」
「涼乃からのチョコだね、ありがとう。・・・家まで送るよ。寒かっただろ?」
「え。いいよ、すぐそこだもん・・・そんなに待ってないから大丈夫。30分待っても来なかったら電話したし。」
「それでも待たせたから。手、冷たいし。」そっと涼乃の手を握る。涼乃も手を握り返す。
俺たちはそのまま手をつないで歩き出した。
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思いついたので全年齢でも書いてみました。