第六話
コットの上で目を覚ますと胸元にジーナが転がっていた。どうやら寝ている間に潜り込んできてたようだ。
寝ている間は微塵も動かないとは分かっているが、転がってる姿は死体の様で、正直、ちょっと怖いと秀頼は思った。
「おはようイクス」
弓を片手に見張りをしてるイクスに秀頼は声をかけた。
イクスは弓を片付けると、石鍋に水を汲み、焚火にかけた。
その姿はとても甲斐甲斐しくてほっこりする。
イクスはすり鉢を指さし、首を傾げる。
どうやら秀頼が寝てる間にどんぐりを擂り潰し終えていたようだ。
秀頼はまたクッキーにしようと考えていたのだが、昨夜手持ちの食材は使い切っていたため、すぐには朝食にありつけない。クッキー作りに時間を割くのはこの極限サバイバル状態では厳しいので、粉状のどんぐりをそのまま鍋に入れてみた。
もしかしたらオートミールみたいに食えるかもしれないからだ。
「スプーンが要るか……」
器は先日作ったカップで代用できるが、箸などはまだ作っていなかった。
秀頼は木材とナイフを用意し、箸やスプーンを作り始めた。
すると、イクスが弓と矢を持って秀頼の前にやってきた。
どうやら身体が大きくなったので作り直して欲しい様だった。
秀頼は一先ずスプーン作りを止め、素材を並べて弓矢を作り直した。
一度作った物は創造魔法一発で作れるので、手間がかからなくて良い。
秀頼は、リサイズした弓と作り直した矢30本をイクスに渡し、ふと気づいた。
流石に30本の矢を持ち歩くのは難しい。昨日は背負い篭の中に入れて持って行ったが、いちいち矢を取りに持ってくるのは効率が悪そうだった。
秀頼は、ダメ元で小さな背負い篭を作るイメージで創造魔法を唱えてみた。
すると、素材が光り集合して小さな矢筒が出来上がった。
構造は背負い篭とほぼ同じなので使い勝手は悪そうだが、まぁ、無いよりはマシだろう。
そう考え、イクスに背負わせるのだった。
◇◇◇◇
朝食を終え、秀頼とイクスは森へ入った。
試しに作ったどんぐり粥は何の味もせずひたすら拷問のようだったが、贅沢言える状況では無いので我慢して完食した。
今日の目的はやはり食料となる肉。粉状にしたどんぐりは残っているので、どんぐり集めは無し。それよりニンニクやタイムなど、少しでも味付け出来るものを見つけたいと思っていた。
「岩塩でも見つかれば嬉しいのだが……」
しかし、海に囲まれた島国日本出身の秀頼は塩と言えば海で取れる物。岩塩がどこにどのようにあるのか皆目見当もつかないのであった。
つらつら考えながら森を進むうちに、イクスがカモシカの魔物を見つけた。
身を伏せて様子を覗うが、イクスは攻撃をしない。
それどころか、カモシカを見ろとでも言うようにジェスチャーで知らせてくる。
草をかき分けて覗き込むと、そこには泥の様な水たまりがあり、カモシカはそこで水を飲んでいた。
「?」
訳が分からず、イクスを見直したら、今度は躊躇なく矢を射ていた。
昨日は何回か打ち込まないと倒せなかったカモシカだったが、今回は一撃で仕留めていた。
「よくたったぞ、イクス!」
しかし、イクスは秀頼に反応することなく獲物に近づき水たまりを指さした。
水たまりは湧き水と言うより、地中から染み出している感じだった。
「この水たまりがどうしたんだ?」
イクスに聞くと、イクスはジェスチャーでなめてみろと言っていた。
見た目完全に泥の水たまり。
なめろと言われても、はい喜んで! とはいかない。
秀頼は渋るが、イクスが動いてくれない。
嫌々泥水をなめてみると、ほのか塩味を感じた。
秀頼ははっとなり水たまりの周りを観察する。
水の染み出るこの辺りには草木が生えていない。
「一部の湧き水にはナトリウムが溶け出してると聞いたことがある。野生動物は、こういう場所で塩分補給をしていると……」
ここの泥水をろ過すれば塩が取れるかもしれない!
そう浮かれた秀頼だったが、すぐ現実的でないことに気付く。
舐めてみた感じ、ここの塩分濃度はそれほど高くない。
ここから塩分を抽出するには、かなり大量にろ過しなければならないだろう。
ろ過道具は作ればいいが、午後にジーナを連れてきたとしても、大した量を運べるとは思えない。
労力に対し結果が見合わない。食料集めの時間を削ってやるほどの作業には思えなかった。
「塩はしばらくお預けだな」
言って秀頼は、持ってきた引き板にカモシカを載せた。
◇◇◇◇
拠点に戻るとジーナが起きていた。
どうやら睡眠時間は3時間もあれば事足りるらしい。
午前の成果はカモシカの魔獣を三匹とタヌキの魔獣を二匹イクスが仕留めた。
カモシカの魔獣三匹を一度に運ぶのは無理だったので、二度に分けて運んだ。
その所為で手足がくたくたになった。
因みに、それらの成果は全部イクスの物で、秀頼は食えるかどうかわからないキノコを幾つか拾っただけだった。
どんぐりクッキー作りをイクスとジーナに任せ、秀頼は大八車を造ることにした。
現状、荷運びの負担が大きすぎるのだ。
彼女を造るどころか、生活基盤を整えるだけで天手古舞の状態に苦笑する。
世の中、そんな簡単ではない。
大八車はいきなり現物を造るのではなく、まずミニチュアを造ってレシピ化し、創造魔法で実物大を作った。
◇◇◇◇
どんぐりクッキーで昼食を済ませ、今度はジーナも連れだって森へ入った。
出る前にイクスの睡眠は良いのかと聞いたが、イクスはジーナより前に睡眠をとっていたらしく、問題無く動けるとのことだった。
イクスとジーナで動物を狩っていく。ジーナの分も弓矢を用意してたのだが、ジーナはそれを使わず、走り回ってイクスの前に追い込む作業に徹していた。
午前よりも効率よく獲物が狩れ、大八車はすぐに満杯になった。
「獲物が多いのは助かるが……これ、あんまり楽になってないかも」
ロックゴーレムでも造れば、少しは楽になるだろうか?
そう考え、秀頼は森の中の岩が露出しているところに大八車を引っ張っていく。
本来なら岩の方を拠点に持ち込んだ方が良いのだろうが、それをやるにも労働力が足りない。
悩んだ末の苦肉の策であった。
岩場の前で魔物と岩に手をかざし創造魔法を使う。
岩と魔物が光り集合して弾けた。
するとそこには身長160センチほどのゴーレムが佇んでいた。
質感を除けば、デザインは最初に作ったイクスと変わらない。いや、それよりもやや頭身が高く、ちょっとスマートになっている。なお、目の模様は最初からあった。
「あれ? 思ったよりも小さい……」
見ると、カモシカの魔物が二匹消えており、岩場の岩は大きなものはそのままで、近くに散らばっていた小さな岩が根こそぎ無くなっていた。
レシピでは岩200㎏に中型魔核が一つだったはずだが……
「素材が足りなかったのか? その割にはカモシカが二体無くなってるが……まぁ、良い。ロックゴーレム、お前の名前はロクサーヌ! あっちにいるのがイクスとジーナで、お前の姉になる。仲良くする様に」
ロクサーヌはコクンと頷くとオレの代わりに大八車の把手を持った。
ゴーレムたちはいちいち指示しなくても、秀頼の望む事を汲んでくれる。
それを不思議に思いながら、一人と三体は拠点に戻るのであった。
◇◇◇◇
夜、食事を済ませ秀頼が焚火を眺めていると、ロクサーヌが泉から砂を掬って焚火の上に落とした。
火が消えた訳では無いが行動が意味不明だった。
「どうした? 何が言いたいんだ?」
ロクサーヌは身振り手振りで、何かを伝えようとしてくるが微塵もわからない。
困ってイクスの方を見ると、イクスがジーナを連れ立ってやってきて、そのままパントマイムの様な寸劇を始めた。
それは寸劇と言うより、何か作業をしている風景に見えた。
はじめは火に向かって息を吹きかける動作。
次に何かを挟む動作。
「風を送って挟む……いや、これ鞴か? 炉を作って鍛冶でも始めろと? けど鉱石なんか見つけて無いし……」
するとロクサーヌが焚火に落とした砂を指さした。
「あ! 砂鉄? 砂鉄で鉄器を造れと?」
すると三体のゴーレムが惜しい! と言うようなポーズを決める。
良く息が合うなぁ、と感心しつつ秀頼は焚火の中の砂を見つめ、そしてあることを思いついた。
「もしかして……ガラスか?」
すると、びしっ! サムズアップを決められた。
「ガラスか……膨らませたりちゃんと成形するには鉄器が必要だと思うんだけど……それよりも先にガラス? 素材としてのガラスが要るってことか?」
コクンと頷く三体のゴーレム。
「あんまり優先順位が高くないと思うんだけど……なんに使うんだ?」
すると三体は同時に自分の顔を指さした。いや、顔と言うより……
「ああ……目ですかそうですか……」
なんでうちのゴーレムたちは目に拘るんだろう?




