第五話
少し焼き過ぎたリスの魔物の肉は、とても臭くてお世辞にも美味しいとは言えなかった。
秀頼は、肉を食べる前に、イクスにも食べるかと聞いたのだが、イクスは黙って首を振るだけだった。
ゴーレムは食事を取らないのかもしれない。
その夜、見張りに立つイクスを眺めながら秀頼は眠りについた。
翌朝、焚火は薪のストックが切れてのか、熾火も無く火は消えていた。
そして、イクスも電池が切れたように地面に転がっていた。
「嘘だろ……」
秀頼はイクスに駆け寄り、そのずんぐりとした体を持ち上げた。
欠損や壊れた個所は見当たらない。だが、だらりと手足が下がり、動き出す気配は無かった。
「マジかよ! こんなに寿命が短いのか!? せっかく出来た仲間なのに……」
秀頼は動かなくなったイクスを抱きしめ悲嘆にくれた。
イクスを作ってから10時間、付き合いと呼べるほどの長さも無かったが、それでも秀頼の初めての仲間。ショックを受けないわけが無かった。
「墓でも作るか……」
しばらく脱力していた秀頼だったが、不意にそう呟きイクスを持ち上げ、ふとあることを思い出した。
漫画やゲームの魔道具は、常に魔石を補充しなければならないものが多かった。
あの小さなリスの魔物の魔核では、全然容量が足りなかったのかもしれない。
もしかしたら、新しい魔核を用意して合成しなおせば、イクスは再び動き出すかもしれない。
そう考え、秀頼は新たな魔物の核を手に入れるため、森の中に分け入った。
◇◇◇◇
森の中には生命感が溢れていた。
注意深く観察すれば、リスの魔物はそこかしこにいたし、それ以外にもタヌキのような生き物、鳥のような生き物。やや大きめのものだとカモシカみたいなのも見かけた。
魔核が目当てなので、当然、見つけた傍から弓で狙ったのだが悲しいほどに当たらない。と言うかかすりもしない。
そうこうするうちに八本の矢をすべて失い、遠距離攻撃の手立てを失った秀頼は、しょんぼり肩を落としてシェルターの前まで戻ってきた。
「弓矢の素材はまだある。けど、食料がやばい」
朝に食べた分を除き、どんぐりクッキーはのこり10個。午前中を費やし一匹も獲物を捕らえられなかったので、午後はまたどんぐり集めをしなければない。
ぎりぎりと言うより最早じり貧。近場でどんぐりが集められなくなったら確実に詰む状況だった。
「いや、まだ大丈夫だ……まだ動けてる……」
とはいう物の、獲物を取れるようにならない限り、先が無いのは確かだった。
そもそも、リスの魔物が捕れたのも偶然だったのだ。今すぐにでも弓術のレベルを上げない限り、近日中に餓死する。この世界にレベルアップというシステムが存在するれば、の話だが。
焚火の前に戻り、火をつけて湯沸かしの準備をする。
残りのクッキーで食事を終えたらすぐ森に戻ってどんぐりを集めなければ……
そう考えながら煮立つ湯を眺めていると、ふと背後に気配を感じ、秀頼は素早く立ち上がって後ろに下がった。
秀頼の視線の先、そこには動かなくなったはずのイクスが首をかしげて佇んでいた。
「イクス……お前なんで……魔力切れで動けなくなってたんじゃないのか……?」
イクスは首を傾げ、すぐ得心したように手を打つ。
そして、身振り手振りで自分に起こったことを説明する。
◇◇◇
「えーと……つまりイクスには一日数時間の睡眠が必要で、寝ている間は、何をされても絶対に起きない、と……」
イクスはコクンと頷く。
その姿に秀頼は脱力する。
「そ、そうか……睡眠か……ま、まぁ、それが分かっただけでもめっけものか……」
秀頼はイクスを抱き寄せ頭を撫でた。
「なんであれ、お前が無事でよかったよ」
イクスはコクンと頷き、秀頼から飛び降りて、なんちゃって和弓の方に歩いていく。
そして、和弓を指さし、返す手でイクス自身を指さした。
「ん? その和弓が欲しいのか?」
しかし、イクスは首を振り、何かを潰すようなゼスチャーをする。
「……イクス用の弓が欲しいと」
イクスは大きくうなずいて見せた。
素材はまだあったので、イクス用の極小なんちゃって和弓を造った。
ちょっとした改変はレシピの応用範囲らしく、新しいレシピを閃かなくても創造魔法で生成することが出来た。一緒に作ったイクス用の矢はサイズが小さいこともありニ十本ほど作ることが出来た。
諸々準備を終え、食事を済ませてイクスを連れて再び森に入ったのが14時前くらい。
それから数時間、秀頼はどんぐり集めに集中し、イクスが狩りを担当したのだが、イクスのは全部で6匹の獲物を仕留めた。
リスの魔物三匹にたぬきっぽい生き物二匹、威力が足りず何本か矢を失ったが最終的にカモシカっぽいのも仕留めていた。
「大手柄だったな、イクス」
秀頼が肩に乗ってるイクスに話しかける。
胸を張るイクス。変化しないその顔は、だが、どこか誇らしげだ。
リスの魔物とタヌキみたいなのは秀頼の背負い篭に入っており、カモシカっぽいのは現地で作った板の上に蔦を通して秀頼が引きずっていた。
シェルターに戻った秀頼たちは、まず、捕った獲物を泉から流れる小川に沈めた。
血抜きと保存のためだ。
次にイクスにどんぐりの加工を頼み、秀頼は少なくなってきた薪集めと赤土の補充をした。
ゴーレムには睡眠が必要だということが分かった。だが、寝ている間稼働できないと言うのは問題だ。
なので、ゴーレムを増やし、ローテーションを組める様にする必要があった。
素材を前に座り込んでいる秀頼。
「さてどうするか……」
まだ解体していないリスの魔物の魔核が3個。タヌキの魔物の魔核が2個。そしてカモシカの魔物の魔核が1個。
小さい順に微小、小、中と言うサイズだと思うのだが、正直確証はなかった。
リスの魔物の魔核でイクスと同タイプのゴーレムが三体できる。狩猟には使えるが……
イクスを見るとすり鉢の上にまたがり全体重を掛けるようにごりごりと体を揺らしている。その姿はとても可愛いのだが、重量とサイズが足りない為、思うように進んでいない。
今後のことを考えると、イクスにはもっと大きい体が要る。それと、睡眠ローテーション用に最低でももう一体作る必要だろう。
とりあえず、一体だけセラミックゴーレムを作って、残りの素材で何かできるか試すか……
秀頼は素材を集めると、両手を構え呪文を唱える。
「創造魔術! セラミックゴーレム!!」
すると必要素材が光だし集合する。そしてその光が弾けると目の前にイクスとそっくりなセラミックゴーレムが立っていた。
「お前の名はガ……お前の名はジーナ!」
秀頼は前回イクスに嫌がられたのを思い出し、言いなおす。
ジーナと名付けられたセラミックゴーレムは優雅にお辞儀をし、あたりを見回す。
そんなジーナを秀頼は抱え上げる。
ジーナは秀頼を見てキョトンと首をかしげる。
「オレは高藤秀頼。お前の創造主だ。だが、オレはお前を仲間だと思ってる。だから嫌な命令には嫌だと言っていい。そんときは……なんか考える」
秀頼はイクスに伝えたことをジーナにも伝えた。
ジーナはじっと秀頼の顔を見みつた後、コクンと頷いた。
秀頼はジーナを降ろし、イクスを指さす。
「彼女はお前の姉に当たるイクスだ。仲良くする様に」
ジーナはイクスを見、それから秀頼に頷くとジーナの方へと歩いて行った。
どうやらイクスの手伝いをするらしい。
「さて残りの素材でどうするかだが……そういや、フレッシュゴーレムと言うのがあると、角の女神(?)が言ってたな」
秀頼がつぶやくと脳裏にレシピが閃いた。
レシピ:フレッシュゴーレム
必要素材
魔獣: 中型×3
魔核: 中型×3
「意外と少ないな。けど、魔獣? 魔獣の肉では無くて? 生け捕りしないといけないのか……」
罠が無いと生け捕りは無理だろう。少なくとも今すぐどうこうは出来ない。
秀頼は生け捕りを諦め、イクスのバージョンアップを優先することにした。
「イクス、ちょっと来てくれ」
呼ばれたイクスがちょこちょこと秀頼の前に歩いてくる。
「これから手持ちの素材でお前をバージョンアップしようと思う。新しいレシピは無いのでもしかしらた何も変わらないかもしれないけど、取り合えずやるだけやってみようと思う。もし望む姿があるならお前もイメージしてみてくれ」
言ってイクスと素材に手をかざす。
「創造魔法! セラミックゴーレムバージョンアップ!!」
すると、イクスと素材が光になって集合し、光が弾けて消えると、そこには少し大きくなったゴーレムが佇んでいた。
少し滑らかになった表面、体型は相変わらずずんぐりとした4頭身。もともと60CMくらいだった身長は90CMくらいになり、最も印象深いのは、目らしきものが出来上がっていたことだった。
とは言っても目に当たる部分の色が変わってるだけだが。
「……お前は……イクスか?」
念のため確認する。もしかしたら別個体になってる可能性もあったのだ。
コクン
頷いたの見てほっと安堵する秀頼。
別人格になっていなくて良かったと心底思う秀頼であった。
改めてイクスにどんぐり潰しを頼むと、秀頼は残りの素材に向き直った。
残っている素材はリスの魔物2体とタヌキの魔物1体。赤土はまだたっぷり残っており、他にはジーナ作成の時に残ったリスの魔物の肉と皮……
「あれ? タヌキとカモシカの肉や皮はどこいった? ジーナの時に残ったから、今回も残ると思ったんだけど……」
しかし、どこを見ても見当たらない。
もしかしたら、イクスのバージョンアップに使われたのかもしれない。
「まぁ、いいや。とりあえ肉と皮だけになってるのは食用に回すとして、残りの素材でジーナをバージョンアップしておこう」
秀頼はジーナを呼んでバージョンアップを施した。
見た目はあまり変わらなかったが、身長は70センチくらいに伸び、ちょっと垂れ気味の目が出来ていた。
目を造るのはトレンドなんだろうか……?




