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第四話

 物音に気付き、秀頼は目を覚ました。

 時間は分からないが、眠気の感じから午前3時ごろと推測。

 自動薪くべ器のおかげでまだ焚火に火は付いているが、辺りが暗いことに変わりはなく、4,5メートル先は真っ暗だった。

 秀頼はコットの脇に寝かせておいた石の槍に手を伸ばし、いつでも起き上がれるように姿勢を整える。

 パチパチと薪のはぜる音以外、何も聞こえない。

 秀頼は頭を動かさない様に眼だけで辺りを見回す。

 しばらくじっとしていると、バリケードの縁に人影らしきものが見えてきた。

 音を立てず、こちらをうかがうように何者かが近づいてくる。


 秀頼は恐怖で声が漏れないように、息を止める。

 近づいてるのは人か、サルか、人型のモンスターか……

 この世界に詳しくない秀頼には皆目見当もつかないし、見当がついたところで戦闘力のない秀頼には大差ない。

 影は動かず、じっと秀頼を見つめている。

 ざわりと風が吹き、炎が揺れた。その照り返しか、暗闇の相貌がきらりと光った。

 そして、それが…………秀頼の限界だった。


「うわぁ! わぁーーーーーー! ああーーーーーーーーーっ!!!」


 パニックを起こした秀頼は、槍を片手に暗がりに向かって叫びだした。

 槍も構えず、あらん限りの声で叫ぶしかない。

 

「ああーーーーーーーーっ! あああーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 暗い森の中に飲まれるよう響く秀頼の声、多くの野生動物がこの声に気付いただろうが、今の秀頼には知る由も無い。

 ただただ、声を上げるしかなかった。

 涙と鼻水と涎と汗、凡そ顔から出うる全ての水分を垂れ流しながら叫び続けた。

 

 どれほどそうしていただろうか、気が付くと声は枯れ、のどは痛み、パーカーの首回りは涎と汗と涙でべとべとになっていた。

 いつ消えたのか、暗がりの影はいなくなっていた。


 声に驚いたのか、はたまた呆れて立ち去ったのか。


 秀頼は焚火の前に座り込み、ぶつぶつと呟く。


「……ゴーレム……彼女……最強の嫁……」


 端から見ると狂人の様に見える、いや、この時の秀頼は半分狂っていたも同然だった。



◇◇◇◇


 鳥の鳴き声に秀頼は目を覚ました。

 その目に光は無く、生ける屍の様だった。

 喉が痛み、ズボンは湿っていた。恐怖のあまり失禁していたようだ。


 焚火は消えていたが、熾火が残っているようでまだわずかに暖かい。


 秀頼はふらふらと泉まで行き、そのまま水の中に倒れこむ。

 全身が虚脱感に包まれており何もやる気が起きなかった。


 このまま死んでしまった方が楽かもしれない。


 そんな考えが秀頼の頭を過る。


「はは……オレ、何しにこんな世界に来たんだろ……チートで嫁造り? ククっ……馬鹿みてぇだ……はは、あはは……」


 声にならない声で呟く。


「漫画やアニメの様には行かないな……」


 そこにギチチという鳴き声が聞こえてきた。

 力なくそちらに目を向けると、リスの様な小さな生き物が水を飲んでいた。


 その姿を見てると、不意に秀頼の腹が鳴り始めた。


ぐぅぅ~……



 その音に驚き逃げ出すリスの様な生き物。


「腹減った……そういや、昔見た映画で脱獄犯がリス焼いて食ってたな……弓でもあれば捕まえられるだろうか……?」


 のろのろと水面から体を起こし、着ているものを脱ぐ。

 顔や頭、体を洗い、口をゆすいで起き上がる。


「まだ体は動く……動くなら諦める訳にはいかない、か……」


 秀頼は陰キャでぼっちだった。ぼっちだったが、社会から逃げてたわけじゃない。なじめなくても話せなくても孤立していても、人の群れの中に居続けた。引きこもったり逃げたりはしなかった。それを根性と呼んで良いかは分からないが、少なくとも諦めは悪い方だった。


 秀頼は衣類を洗い、渇きの悪いジーンズとパーカーを焚火の脇に干し、しっかり絞ったTシャツとボクサーパンツ姿で立ち上がった。

 片手には石の槍、背中には昨日造った道具類を詰め込んだ背負い篭。何とも閉まらない姿だが、気持ちは負けてない。


「リスみたいなのが居たから、どんぐりがあるかもしれない。木の上だけじゃ無く足元にも注意していこう。あと、弓矢の素材になるものも探そう! まだ動ける。動ければ希望はある!」


 自分を励ます様に声を上げ、秀頼は森の中に踏み込んでいった。



◇◇◇◇


 森に入って数時間、どんぐりの様な木の実は意外と沢山落ちていた。それを片っ端から篭に放り込み、矢じりになりそうな小石と矢羽根なりそうな鳥の羽、そして弓になりそうなしなりのある長い枝を持ってシェルターに戻ってきた。


「まずはどんぐりを食べられる様にしよう」


 わざわざ声を上げる必要は無い。しかし、ぼっちな人間は独り言が多いのだ。許してやって欲しい。

 秀頼は長さ20センチほどの丸石を用意すると、その上を小さな丸石で叩き窪みを作り始める。やってる事は昨夜の石鍋作りと似ているが、今回は深さよりも広さ。目指すのは石のすり鉢。

 そして叩くこと三時間。直径15センチ、深さ5ミリくらいの窪みが出来たところでレシピが閃いた。

 そのレシピ通りに創造魔法ですり鉢を作りなおす。すると深さ1センチ長さ18センチくらいの石のすり鉢が出来上がった。

 次にすり鉢の上に皮をむいたどんぐりを並べ、平たい楕円の小石で潰し始めた。

 

ゴリゴリゴリゴリ……


 粉状になるまで、ひたすら潰し続ける。


ゴリゴリゴリゴリ……


 昼過ぎまでの数時間、ひたすら潰しつづけて、やっと拾ってきたどんぐりの殆どを潰し終えた。

 次に、粉状になったどんぐりにわずかに水を含ませ、ひたすら練る。どんどん練る。

 そうすること小一時間、秀頼の目の前には粘土状になったどんぐりがあった。

 どうやら料理は創造魔術のカテゴリーでは無く、レシピは閃かず、結果として道具作りよりも時間がかかった。

 秀頼は板状の岩を焚火の上に置き、その上に薄くした直径3センチくらいのどんぐりペーストを並べていく。

 目指すのはどんぐりクッキー。これも動画で得た知識だった。

 ざわつく心を抑えつつ、クッキーが焼きあがるのを待つ。

 辺りに香ばしい匂いが立ち、表面に焦げ目が出来たあたりで、秀頼は一つ手に取り齧ってみた。

 

「美味い……」


 美味いとは言ったが元の世界のクッキーほどではない。甘味は薄いし少しえぐみもある。食感はぼそぼそだし、焼き方が悪かったのか、中は少し湿っている。それでも丸一日以上何も食べていない胃にはとても美味く感じられた。

 全部で30個ほど作ったクッキーの内、10個ほど食べて遅い昼飯を終わらせた。

 正直、全然食い足りなかったが、作る手間を考えると一気に消費するのは拙い。

 別の調理法も考えねば、一日の殆どを料理して過ごすことになりかねなかった。


 食後の葉っぱ茶を済ませ、一息ついた秀頼は、今度は弓づくりに取り掛かった。

 目指すのは小さめの和弓。と言っても素材も作り方も一切分からないので、なんとなくで作り進める。ぶっちゃけ創造魔法のレシピ頼りである。


 集めてきた長めの棒を石ナイフで整え、焚火の火で炙りながら形を整える。

 ある程度形が整ったら持ち手に蔦を巻き、両端から念入りに寄った細い蔦を弓弦代わりに張る。するとレシピが閃き、なんちゃって和弓が出来上がった。

 次に作ったのは矢だが、こちらは鏃作りにこそ時間を取られたが、レシピが閃いた後は魔法で片付き、都合八本の矢を作り上げることが出来た。


 早速試し撃ちをしようと泉まで行き、そこで今朝方に見たリスの様な生き物がいないかを探す。

 幸い、大して時間もかけず、リスの様な生き物は水のみに現れた。

 秀頼は矢をつがえ、弓弦を引き絞り息を止める。

 ぶっちゃけ弓の射方なんか分からない。こればっかりはトライ&エラーで慣れるしか無いだろう。


 なんとなく的を定め、指を離す。

 ビュンッという風切り音に交じりバチンと肉を打つ音が響き渡った。

 矢はへろへろと明後日の方向に飛んでいき、弓弦で耳を弾いた秀頼は地べたを転がり耳を抑えもだえ苦しんでいる。

 そして、音に驚いたリスの様な生き物は、逃げ出した方向にあったバリケードの杭に刺さり絶命していた。


 無声映画の喜劇の様な展開だったが、獲物を仕留めることは出来たのであった。


◇◇◇◇


 右耳を真っ赤に腫らした秀頼は、早速リスの様な生き物の解体を始めた。

 まず腹を裂き内臓を取り出す。傷つけると臭そうなので滅茶苦茶慎重にナイフを入れていった。

 取り出した内臓を脇に置き、今度は皮をはぐ。まぁ、皮のはぎ方なんか知るわけも無いのでかなり適当だが、過食部分に残ってなければそれでよしと言う考えでザクザクと進めた。

 

 皮をはぎ取り終わると、木の棒に挿し、焚火の端っこぶっさす。

 調味料の持ち合わせなど無いので、味付けは無しである。


 肉を焼く間、石鍋に水を貼り、内臓を洗おうと持ち上げると、秀頼は指先に違和感を感じた。


「硬い物があるな……石か何か飲んでたのか?」


 ナイフで切れ目を入れ、その硬い物を取り出し洗ってみる。

 血まみれの肉片が洗い落とされると、中から直径1センチ弱のルビーの様に赤く輝く石が現れた。


「これは……魔石……いや、魔核か?」


 言って油を垂らしながら焼けていく肉を見る。


「動物だと思ってたんだけど、アレは魔物だったのかもしれないなぁ……」


 ジュウジュウと焼けるリスの魔物から目を離し、魔核(?)に目をやる。


「念願の魔核(?)が手に入ったけど、これどう見ても中サイズじゃ無いよな……ロックゴーレムの素材の」


 掌で転がしながら秀頼は考えた。

 このサイズの魔核で作れるゴーレムは無い物かと。

 すると、脳内に新たなレシピが閃いた。


レシピ:セラミックゴーレム

必要素材

 粘土:    3㎏

 魔物の内臓:60g

 石:    100g

 魔核:   極小×1


「セラミックゴーレム……作ってもいないレシピが閃くのはスキル:デウスエクスマキナの恩恵だろうか……何であれ、粘土があれば今すぐにでも造れそうだ」


 粘土はまだ見付けて無いが、泉から伸びる川を下れば、どこかに粘土質の土があるはず。


 秀頼は石槍を片手に背負い篭を背負って川下を見る。

 時刻は分からないが勘で凡そ18時くらい。すっかり暗くなっているが、昨夜の恐怖を考えると、どんな物でも今日中にゴーレムは作っておきたい。

 そう考え、松明代わりに火のついた薪を持って川を下り始めた。


◇◇◇◇

 

 川を下り始めて10メートル。

 早速粘土状の赤土が露出しているのを見つけた。

 厳密にいえば、これは粘土では無いかもしれない。

 だが、暗闇の中、あるかどうかも分からない粘土を探しに行くより、代用できそうな赤土で試してみる方が良いかもしれない。

 そう考え、秀頼は焚火のあるシェルターまで赤土を抱えて戻ってきた。


 焚火の前に素材を並べ手をかざす。


「創造魔術! セラミックゴーレム!!」


 と声をかけると素材が光り集合する。

 そして光が弾けると、そこには身長60センチほどのずんぐりむっくりしたデッサン人形のようなゴーレムがちょこんと座っていた。


「……お前は、セラミックゴーレム……か?」


 声をかけられたゴーレムは、立ち上がって秀頼に向かい、深々と優雅なお辞儀をして見せた。


「凄い! 本当にゴーレムが出来上がった!!」


 秀頼はセラミックゴーレムを抱え上げ夜空にかざす。


「お前はオレのゴーレム! 名前は……ゴーレムZ号だ!!」


 するとゴーレムは嫌そうな素振りでしぶしぶ頷く。


「え? 嫌なの? Z号カッコ良くない?」


 しかし、ゴーレムは俯いて答えない。


「あ、そう……じゃあ、ガンダムン!!」

 

 しかし、セラミックゴーレムはショックを受けたようにのけ反った。

 まるで、お前マジで言ってんの!? と言うようなリアクション。


「ガンダムンもダメ? なら、えーとえーと……」


 秀頼は考え乍ら、そもそもなぜ自分が創造魔術を選んだかを思い出した。

 彼女を造るためだった。なら、女性っぽい名前の方が良いと思い至る。


「エクス……いやイクスはどうだ? スキルのデウスエクスマキナをもじった名前」


 セラミックゴーレムはしばらく止まった後、ゆっくりと頷いた。

 どうやら許されたらしい。


「オレは高藤秀頼、お前……イクスの創造主だ。けど、嫌なことは嫌だと言ってくれていい。無理強いはしない。イクスは……この世界で初めてできた、オレの仲間だから!!」


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