第十二話
一度拠点に戻り道具を用意してから、一同は湖畔へと来た。
「じゃあ、イクス、ジーナ、ロクサーヌの三人は見張り兼護衛でお願い」
頷く三人。この子たちはいつもの戦闘用装備。
五つ子たちには、それぞれ背負い篭とスコップとナイフを持たせてある。
「今回は食べられそうなものは何でも集める感じで行きます。例えばこのどんぐり」
言いながら秀頼が足元に落ちていたどんぐりを拾う。
「これは現在我々の主食の一つです。これの他にもクルミに似たものや栗に似たものもあります。食える食えないは兎も角、いろんな種類を集めましょう」
秀頼はどんぐりを背負い篭に入れると、次に北を向く。
「こっちの方角には森人の最奥聖域があるので近付かない様に。敵対する気は無いし、敵と思われるのも不本意です。で、これから向かう方向ですが……ロクサーヌ」
「はい、なんでしょう」
「ここら辺でどこか開けたところは無いかな? 森とは違う植生のところだと嬉しい」
ロクサーヌは少し考えるようなそぶりを見せ東を指さす。
「こちらの方向、ここから10kmほど行った先に丘陵地帯があります。上空から見ただけなので詳しくは分かりませんが」
「10km……片道2時間くらいか……」
現在時刻が大体午前11時くらい。現地で2時間探索したとしても17時には戻ってこれる距離だった。
「よし行こう! ロクサーヌとジーナは先行して梅雨払いを頼む」
ロクサーヌはジーナを抱えると、低空飛行で東へと向かっていった。
「さて、じゃあ我々も東に向かおうか」
言って秀頼が歩き出すと、ストラが先行する様に前に出た。彼女は無表情なので意図を読むのは難しいのだが、どうやら斥候のつもりらしい。
後ろを見るとイクスがしんがりについておりナイフを持ったアルファが中間に居た。
特に指示したわけでも無いのにフォーメーションらしきものが出来ていた。
秀頼はふとゴーレムの知性について考える。
三人娘との付き合いで、初めからある程度の知識を持ち合わせているのは知っていた。
知性に関しては人間のそれと遜色が無い。感情は乏しいが、無いわけでは無く、名前の命名の時みたいに、嫌そうな態度を取ったりもする。
恐らくスキルの力なのだろうが、このスキル、努力して学んだ力では無いので理屈が微塵も分からない。
いつか魔法やスキルについて誰かに聞けたら良いのだが、秀頼がこの世界で得た知己はセレスフィアだけであり、彼女は滅多に最奥聖域から出ないという話しだったので当分その願いは叶いそうになかった。
「マスター、マスター!」
不意に呼ばれて声の方を見ると、チンクがイガイガのついた木の実を見せてきた。
「これ、食べられる?」
「これは栗(仮)だな。ちょっと貸して」
秀頼はイガイガの実を受け取ると、木靴で踏みつけ割る。中には大きな栗の様な実が《《一つ》》入っていた。
その実を取り出すと、チンクに見せた。
「これが栗の実。実が大きくて食べ応えがあるんだ。良く見つけたな」
言って秀頼がチンクの頭をなでると、チンクは二コーと笑みを浮かべもっと撫でろとでも言うように頭を秀頼の手に擦り付けてきた。
イクスやジータもこういうスキンシップは好んでいた。ゴーレムの習性なのかもしれない。
「じゃあ、どんどん拾っていこう。栗やどんぐりに限らず目に付いたものは何でも拾っていくように。あと、根菜の様な物も見つけたいので、余裕があれば草木の根元を掘り起こしてみてください」
◇◇◇◇
森が開け丘陵地帯に出た。
ここまで木の実を拾ったり草木を掘り起こしたりしながら来たので、だいたい三時間くらいを要していた。
「もっと小ぢんまりした空き地を想像してたんだが……」
秀頼は丘陵地帯を見上げ独り言ちた。
それまであった木々は無く、セイタカアワダチソウの様な背の高い草が一面を覆っていた。
「ざっと6㎢の丘陵地帯です。それほど広くは無いですね」
先行して既にこの辺りを見回っていたロクサーヌが言う。
「ずっとこの背の高い草が生えてる感じか?」
「いえ、丘の中腹あたりから植生が変わっているようで、そこからはもっと背の低い草木になってました」
「何か変わった生き物に出くわしたりはしなかった?」
「ここから北東に4km行った地点に脚の多い大きな生き物が居ました。最奥聖域に居たカブトムシと似たようなつるつるした外殻で、体長7メートルくらいの生き物です」
「キチン質で脚が多い……ムカデの類かな?」
「恐らく」
「……ロクサーヌはムカデを知ってるのか?」
秀頼は生まれて数か月のゴーレムたちの知識はどこから得ているのか少し気になった。
「私たちの知識はマスターの知識がベースです。マスターの知っていることは全て知っていると思って貰って構いません」
「なるほど。逆にこの世界の知識は分からない感じか?」
「そうですね。スキルの恩恵か、自分たちの構造については予め分かっていますが」
「スキル? ロクサーヌたちもスキルが使えるのか?」
「いえ、私たちの、ではなくマスターのデウスエクスマキナの恩恵だと思います」
魔法はこの世界の物だが、それが何らかのプログラムに似たものだったとしたら、スキルは言わばプリセットみたいな物かも知れない。知性あるゴーレムを動かすためのプリセットなら、ある程度ゴーレムに関する情報が組み込まれていても不思議はなかった。
「結局のところ、この世界のことは自分で学んでいくしか無いと言うわけだな」
「何か不都合がおありですか?」
「ここでの生活をもっと楽に便利にしたいんだが、この世界のことが分らな過ぎてどう手を付けたら良い物か……食物に関する知識だけでも、食べられる物、毒になる物、薬になる物……これらを全部自分で試さなきゃいけないって考えるとどれだけ時間がかかるのやら……」
「食べられる物や毒の見分けなら、私たちでもある程度は分かりますが?」
「え? なんで?」
「素材として取り込んだ生物たちの知識がありますから」
「あ、そういう知識の入れかたも出来るのか……」
そう返して秀頼は、ふと人間を素材としてゴーレムを創ったらどうなるのかと思った。
今のところ、素材に出来なかった物は無い。人もクロウベアの様に生きたまま素材にすることが可能なら、生前の知識を持ったゴーレムを創ることが可能なのでは無いか、と———
そこまで考え、秀頼は頭を振った。
この考えはあまりにも悍ましい。
死者を使役するネクロマンサーよりもよほど罪深い。
秀頼はこの考えを封印することに決め、気持ちを目の前の丘陵地帯に切り替えた。
「なんか穀物が手に入ると良いんだけどな」
◇◇◇◇
植生が変わる丘の中腹までは、特にめぼしい物は見つからなかった。
しかし、中腹を超えたあたりから、多種多様な食べられそうなものを見つけることが出来た。
芋の様な地下茎やらにんじんの様な根菜、ネギやニラに似た食物。米や麦は見当たらなかったが、キビのような穀物を見つけられた。
「けっこう見つけられたなぁ……」
「どれも貧弱です」
そう返したのはイクス。ロクサーヌは巨大ムカデの動向を探りに偵察に戻っていた。
「それは仕方ない。全部原生種だからな。拠点に戻ったら畑を作って、行く行くは品種改良なんかもした方が良いだろうな」
イクスは無言のままコクンと頷いた。
「マスター!!」
不意に呼ばれた秀頼が声の方を振り向くと、丘の上から駆け降りてくるチンクが見えた。
「なんだ、もうあんなところまで登って———」
秀頼の言葉が途中で止まる。チンクの背後に巨大な節足動物が現れたからだった。
「大ムカデ!?」
それは確かにロクサーヌから聞いた特徴を持っていた。
10対はある脚にキチン質の外殻、だが、その脚は蜘蛛の様に長く、その身体は象の様に太かった。
イクスとジーナが武器を手に身構える。
「どうしますか?」
イクスが聞いてくる。
これは、倒すかゴーレムにするかを聞いているのだろう。
秀頼は一瞬考え、ゴーレムにすることをにした。
秀頼の考えを聞いたイクスたちは、武器を弓に持ち替え、ムカデの動きをけん制する様に矢を放つ。
武器を持たない五つ子たちも、ムカデの気をそらす為か、あちこちから石を投げつけている。
ムカデの意識が自分から離れてるのを確認した秀頼は、ムカデの死角へと回り込み創造魔法を発動した。
◇◇◇◇
新しく創られたゴーレムは、これまでのイクスたちとは一線を画していた。
体長は4メートルで軽自動車より少し大きいくらい。
脚は4対あり、素材となったムカデよりも蜘蛛に近いフォルムをしていた。
昆虫でいう所の腹部は平たく、頭部は……これは秀頼も計算外だったのだが、頭部に当たる部分から人間の上半身が生えていた。
まるで蜘蛛型のモンスター娘だ。
「あ~~~~……言葉は分かるか?」
戸惑いながら蜘蛛型ゴーレムに向かって問いかける。
「分かります」
「あ、分かるのか……」
普通に返事が返ってきた。
秀頼としては荷馬車に使える便利道具的なゴーレムをイメージして生成したのだが、人の部分があってどう扱って良いのか悩んでいたのだ。
「じゃあ、お前の名前はアラフネ。周りにいるのはお前の姉妹たちだ。仲良くする様に」
秀頼は、この子も他のゴーレムと同じ扱いにすることにした。
「そういえば、ロクサーヌはどうした? ムカデを見に行ったはずだったけど……」
しかし、ムカデは秀頼たちのところへ来てしまい、秀頼の魔法により新たにゴーレムたちの姉妹となった。
ではロクサーヌはどうしたのだろうか?
まさか、ムカデに倒されてしまっているとか……?
「彼女は丘の向こうにいます」
言ってアラフネは秀頼を抱え上げると、腹部の平たい部分に乗せ歩き始めた。
「丘の向こうって……ムカデが居たところか? もしかして、他にもムカデが居るのか?」
「いえ、私の知る限り、あの場に居たのは一匹だけです」
もともと同一個体だったと言うのに、アラフネの言い様はまるで他人事だった。
「ならなんで戻ってこないんだ?」
「それはねーーー」
返事をしたのはチンク。
チンクは言いながら、アラフネの腹部に飛び乗ってきた。
「見張りをしてるんだと思うー」
「見張り?」
「なんか女の人がいてー」
「女の人!? 人がいたのか!?」
驚く秀頼にアラフネが薄く振り向いた。
「それはムカデに襲われていた女性だと思います」
「お前に襲われてた!?」
「私ではありません、ムカデです」
アラフネがムッとしたように答えた。
「す、すまん」
◇◇◇◇
丘を乗り越え、少し下った先にロクサーヌと件の女性は居た。
大きなリュックを背負った旅人風の装備に、くるくるとした亜麻色の巻き毛と目の下の隈が特徴的な女性だった。
肩からはマンドリンのような楽器を下げている。
旅の楽師だろうか?
「助けて頂きありがとうございます。私はエレノア、旅の吟遊詩人です」
エレノアと名乗る女性が頭を下げてきた。
彼女は助けられたと言ったが、ロクサーヌはエレノアと名乗った女性を警戒しているように見えた。
「オレは高藤秀頼。周りの子たちはオレの作ったゴーレムで、家族でもあります」
「ゴーレム、ですか?」
エレノアが不思議なものでも見るようにゴーレム姉妹たちを見回した。
その姿や立ち居振る舞いは、ゴーレムと言うより、人間の少女たちの様に見えた。
エレノアは旅を生業とする吟遊詩人だった。各地を巡り、その土地土地で聴いた伝承やら英雄譚、自らが体験した出来事を面白おかしく歌って聞かせるという仕事柄、世情には詳しい方ではあった。
その彼女をしても、ここまで精巧なゴーレムを作れる魔術師が居ると言う話は聞いたことが無かった。
この男は高名な魔術師なのだろうか?
だが、ならばなぜこんな辺境の森の奥に住んでいるのか?
疑問は尽きなかったが、それらを一先ず飲み込み、エレノアは自分の目的を話すことにした。




