第十一話
湖の近くに移動して一か月が経った。
当初考えていた流れ込み地点での拠点設営は、熊の魔獣に対する防衛が出来ないという判断で断念し、流れ込みの少し上流で見つけた洞窟に手を入れて生活の場としていた。
洞窟の中は、壁や床、天井まで細い丸太で埋めて湿気対策をしている。
それぞれの個室を作れるほどの広さは無かったので、全員同じ空間での居住である。
ただ、ベッドは人数分作った。ベッドと言っても以前の拠点で作ったコットと同じものではあるが。
水は外の川からバケツで持ち込み、粘土で作った壺に溜めてあった。基本煮沸して使用している。
思いのほか熊の襲撃が頻繁にあったので時間のかかる濾過槽の設営は断念していた。
道具類は基本石器のままだが、魔獣の骨を使った縫い針を作り、毛皮の使用も始めていた。
秀頼は皮のなめし方を知らないので、手触りごわごわの酷い物ではあるが、ベッドや床の敷物として重宝している。
ゴーレムたちもこの一か月で少しだけバージョンアップしてる。
まずロクサーヌが他の二人に合わせて受肉した。
顔はイタチ系等の肉食獣を思わせる鋭さと愛嬌を兼ね備えた感じで、少し糸目がち。髪は赤みのかかったブロンドで、肌の一部はキチン質から柔肌になった。だが、変更はそれくらいで、言うほど外観に変化は無い。どうやら彼女は、飛行機能を残したいが為に最低限の変更に抑えた様だった。
イクスは外観を気に入ったらしく、見た目の変更は無い。が、外観を変えずに魔核をため込んでいるらしく、最近は石の槍で熊の魔獣を仕留められる様になっている。
ジーナは髪を黒くし、頬の輪郭をやや丸くした。前のはあまりにもセラスフィアに似ていたので。あと、ビキニ・アーマーもやめた。どうやら秀頼が直視できなくなったのが不満だったらしい。
基本新しい魔核や素材が手に入らない限り、この三人はこのままだろう。
そんなこんなで、やっとサバイバル生活から脱出し、原始生活へと移行し始めたのだが、秀頼には懸案があった。
最奥聖域に居た頃に比べ、魔獣の襲撃が多い。
素材化出来るし、イクスとジーナは戦闘力も上がっているので、対処できないわけでは無いが、他のことに手がつかない状態だった。
秀頼的にまず濾過槽が欲しかった。川の水が飲めてるとは言え、雨の日には濁ったりするので安定供給されてるとは言い難かった。
次に鉱石探し。今以上の生活向上を目指すなら鉄具は必須だった。
「という訳で、仲間を増やします」
秀頼は三人を前に宣言した。
「何人増やす予定ですか? 現状、クロウベア(熊の魔獣)の魔核が4つとそれより小さい魔核が12個ほどありますが」
イクスが確認してくる。
「五人は欲しい。君たちが居るので強さはそこそこで良いけど、体格はみんなと同じくらいあったほうが融通が効くと思ってる」
「フレッシュゴーレムですか?」
とジーナ。
「それは悩みどころなんだけど、ロックゴーレムじゃ遅すぎてクロウベアに破壊されるのが目に見えてるし、セラミックゴーレムは素早いけど一発当たったら終わる。フレッシュゴーレムでスペアパーツ増し増しが一番生存率が高いんじゃないかな?」
「手持ちの魔核とクロウベア一匹分の素材で事足りますね。今からクロウベアを引っ張って来ますか?」
とロクサーヌが自分を指さす。
「うん、お願い。イクスとジーナはオレが素材化しやすい様にかく乱して」
頷く3人。
◇◇◇◇
拠点としている洞窟から少し下った森の中の開けた場所に秀頼たちはいた。
大八車に必要素材は集めてある。あとはロクサーヌがクロウベアを引っ張ってくるのを待つだけ。
「意外と時間かかってるな……」
ぽつりと秀頼がこぼした。
「そうですね、襲撃してきたクロウベアを全て撃破しているので、この近隣では数を減らしてるのかもしれません」
答えたのはイクス。会話出来るようになって、主にこの子が秀頼の話し相手になっていた。他の二人とも会話自体はするのだが、率先して返してくるのが彼女だった。
「それは良いな。襲撃の頻度が下がればやれることが増える」
「前から仰ってる濾過槽ですか?」
「濾過槽や鉱石探しもそうだが、出来れば食べられるものを探したい」
これは秀頼にとって割と深刻な悩みだった。現在食べてる物は、最奥聖域にいたころとほぼ変わりが無い。つまり、どんぐりクッキーと魔獣の肉だ。サランブラのおかげで塩味は付けられる様になったが、安くて美味い物が溢れていた日本出身者としては、現状の食生活は苦行以外の何ものでもなかった。
「食べられる物、ですか……」
受肉してから、ゴーレム達は食事を取るようになった。いや、取れるようになっていた。普段は魔核が魔素を自然吸収しているので、食事自体必要では無いのだが、それ以外にも食事で賄えるようになったとのことだった。
まぁ、特に必要ない物なので、三人娘の食事へ関心は低い。秀頼の見立てだと、この三人は食卓を囲むこと事態を目的としている節があった。
「ああ、米や麦などの穀物、調味料になるにんにくやとうがらし、胡椒なんかあれば肉の味わいも随分と変わるのだが……」
言った秀頼の口内に唾液が溢れる。
秀頼は、無い物ねだりになるのでいつもは食事のことや前の世界のことはなるべく考えないようにしていた。
だが、会話のついでに思い出された食事の数々が、秀頼の胃と舌と心を蝕んだ。
美味い物が食いたい。
その思いは、それまで考えていた必要な物の優先順位をひっくり返すほど大きくなって行ったのであった。
食事の妄想に気を取られていたせいで、秀頼は近付いてくるクロウベアに気づくのが遅れた。
だが、イクスとジーナは慣れたもので、素早く前に出る。
逆に、クロウベアを引っ張て来たロクサーヌが秀頼の背後に降り立ち後ろから抱きかかえた。いつでも飛んで逃げられる体制だった。
イクスは石槍、ジーナは腕のパイルバンカーでクロウベアの後肢を撃ち抜いた。
クロウベアの毛皮は斬撃には強かったのだが、刺突にはそれほどでもなく、二人は難なくクロウベアの機動力を奪った。
あれほど強敵であったクロウベアも今では単なる素材であった。
◇◇◇◇
「アルファ、フルビア、ストラ、ディータ、チンク」
秀頼は、新たに生まれた五人のゴーレムたちに名前を付けた。知ってる車から頂いた名前。手抜き、と言われても仕方のない命名だが、今後も増え続けるであろう事を考えるといちいち考えていられないと言うのが実情だった。
五人の外見は、一緒に生まれたこともあってよく似ていた。
アルファは真っ赤な髪が目立つ強気そうな感じ。
フルビアは水色の髪に理知的な笑みを浮かべている。
ストラは白髪に赤と緑の差し色がある無表情。
ディータは黄髪でおっとりした感じ。
チンクだけやや小柄で、栗色の髪にくりくりした目が良く動く、好奇心旺盛な感じだった。
全員160センチ前後だったが、チンクだけ140センチくらい。恐らく素材が足りなかったのだろう。
後で頼まれたら大きくしてあげようと秀頼は思った。
「皆さん初めまして。オレが君らを創った高藤秀頼です。今後ともよろしくお願いします」
秀頼の挨拶に、五人が息を揃えて優雅にお辞儀をした。
「こちらが、オレの隣から順にイクス、ジーナ、ロクサーヌ。君らのせんぱ……いや、お姉ちゃんになるので仲良くする様に」
頷く一同。
それを見回し、満足そうに頷いた秀頼は高らかに宣言した。
「それでは、これから食材探しに向かいます!!」




