第35話 お留守番女子たちのやきもちメーターとお疲れ王妃の凱旋
ガタゴトと心地よい揺れを刻む特注の高級魔導馬車。その豪華な車内には、未だに甘く濃厚な「余韻」が漂っていた。
「ト、ウマ……さま……。まだ、身体の奥が、……痺れて……っ♥」
俺の膝の上で、だらしなく身を委ね、熱い吐息を漏らしている美女が一人。エルフ国の王妃であり、我がギルド『万象の毒』の頼れる奥様枠、だったはずのイザベラさんだ。
聖堂の最深部を極上スイートルームにリフォームし、そこで彼女の望むままに限界突破の魔力注入を施してから、もう数時間が経つ。
それなのに、彼女の肢体は未だに火照り、馬車が少し揺れるたびに、胸を俺の腕に擦り付けながら甘えた声を上げていた。完全に腰の骨が抜けてしまっている。
「喜んでくれたなら、リフォームした甲斐もあったってもんだけどな。」
俺は彼女の美しい銀髪を優しく撫でながら、窓の外を眺める。外に見えるのは、見慣れた『世界樹の別荘』の広大な敷地だ。
国中が「人類の滅亡だ!」と大騒ぎしていた『常闇の聖堂』の【虚無の浸食】。そんなものも、俺にとってはただの淀んだ魔力の塊だった。
……だが、別荘の玄関前で待ち受ける「彼女たち」の姿が見えた瞬間、俺は別の意味で肩をすくめた。
馬車がエントランスに滑り込むと同時に、扉が勢いよく開け放たれる。
「トウマ様! お帰りなさいませ!」
真っ先に飛び出してきたのは、金髪の端正な耳を持つエルフの第一王女・セレフィナちゃん。
そして、その後ろからツインテールを激しく揺らしながら現れたのは、先日俺にデレ化させられたばかりの魔術師・エレノア。
「な、なによそれぇッ! 任務に行ってくるって言ったわよね!? なんでイザベラ王妃を……そんな、抱きかかえてるわけ!?」
「トウマ様、お母様まで『骨抜き』に…」
セレフィナちゃんの気品ある笑顔が、ピキピキと音を立ててひび割れていく。奥からは、犬耳をパタパタさせた獣人のミィナが、
「おにいちゃんの匂いが、イザベラ様のもので上書きされてる!」
と涙目でクンクンしているし、ヴィオレに至っては、なぜか愛剣の柄を握りしめて静かにプルプル震えていた。
「いや、違うんだ。【虚無の浸食】があまりに酷くてな。イザベラさんが途中で動けなくなったから、俺の魔力でちょっと『解毒』して、ついでに聖堂を少しリフォームして休んでいただけだ」
「「「「嘘つきッ(です)!!!」」」」
息の合った四重奏がエントランスに響き渡る。
「解毒って何よ! 私が『天の逆鉾』でやられた、あの頭が真っ白になって腰が抜けるやつでしょ!? ずるい!」
「エレノア、あなただけではありません。私とて、あの【万死の疫病王】の夜は……。なのにお母様、抜け駆けは感心しませんわ!」
その時、俺の腕の中で、イザベラさんがゆっくりと、しかしこれ以上ないほど妖艶な笑みを浮かべて目を開けた。
彼女は俺の首に愛おしそうに腕を絡め、集まったヒロインたちを挑発するように、ふふっと熱い吐息を漏らす。
「エレノアちゃんも、セレフィナも。お留守番ご苦労様でした。トウマ様のあの……底なしの『魔力』。本当に素晴らしかったですわ。」
「ッッ~~~~~!!!」
エレノアの顔が茹でダコのように真っ赤に染まり、ツインテールが怒りで逆立つ。
俺はそっとイザベラさんを近くのソファーに横たえ、一歩後ろに下がった。よし、ここは彼女たちに任せて、俺はシャワーでも浴びて――。
そう思った瞬間。別荘の呼び出しベルが、けたたましく鳴り響いた。
普段ののどかな音ではない。国からの『超緊急招集』を知らせる、不吉な赤色の魔力光を放つ緊急チャイムだ。
「トウマ様、お取り込み中失礼いたしますッ! 国境付近の『奈落の裂け目』より、かつてない規模の魔獣氾濫が発生! ギルド連合は壊滅、王都へ向けて進行中とのことです!」
駆け込んできたギルドの連絡員が、青ざめた顔で絶叫する。
怒り狂っていたヴィオレたちも、一瞬で真剣な表情に戻り、俺の顔を見つめる。
「トウマ殿……どうするのだ?」
「どうするもこうするもないだろ。俺たちの『世界樹の別荘』の庭を汚されてたまるか。――ちょっと、ゴミ掃除に行ってくる。」
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