第34話 イザベラさんのプライドがドロドロに溶ける夜。そして溺愛した件
『常闇の聖堂』の最深部は、息をするだけで肺腑が腐り落ちそうなほどの紫煙に包まれていた。
存在そのものを消滅させる超特級の呪毒【虚無の浸食】。
床には、先に突入して全滅した近衛兵たちが、まるで干からびた泥人形のように折り重なって倒れている。彼らは叫ぶ気力すら奪われ、ただ絶望の中で自らの存在が希薄になっていく恐怖にガタガタと震えることしかできていない。実に見るに堪えない光景だ。
「……酷い有様ね。エルフの誇り高き戦士たちが、見る影もないわ。」
イザベラさんは冷徹に周囲を見据えながらも、その長い耳をピクリと震わせた。
他のみんなが夜の疲れと血脈の呪いで全滅している中、他国から嫁いできた彼女だけがこの場に立てている。だが、凛と振る舞おうとする彼女の横顔からは、うっすらと緊張の汗が伝っていた。
その豊かな胸元が、恐怖……いや、俺と二人きりになれたという隠しきれない昂ぶりで、小さく波打っているのを俺は見逃さない。
「トウマ様、ここは私が結界を――」
「いや、イザベラさん。そんな面倒なことしなくていいよ。こんな出来損ないの煙、俺の呼吸一つでただの美味い空気に変わるから。」
俺は一歩前に出ると、おもむろに右手の指先を向けた。
今回使うのは【万象解毒】の応用――『空間の悪意の中和』だ。
トントン、と宙を二回、指先で叩く。
直後、聖堂を満たしていた紫色の呪毒が、まるで内側から吸い込まれるように一瞬で収束し、ただの透明な清風へと浄化された。床に倒れていた国王や兵士たちの身体からも死相が消え、まるで極上の温泉にでも浸かったかのように、その場で安らかな寝息を立て始めている。
「……あら? 呪毒の概念そのものが、跡形もなく消え去って……。ふふ、本当に底が知れないわね。」
イザベラさんが感嘆の吐息を漏らす。だが、驚くのはまだ早い。
ここからが、俺たちの本当の『任務』の時間だ。
俺が軽く手をかざすと、【概念猛毒】が発動し、おどろおどろしい儀式用の祭壇がメキメキと音を立てて形を変えていく。
冷たい石の床は、素足で歩けば沈み込むほどの高級漆黒絨毯へと姿を変え、周囲の壁はシルクのカーテンで覆い尽くされた。そして部屋の中央には、妖艶な紫と金色の天蓋で飾られた、とろけるような柔らかさの最高級ローベッドが鎮座する。
かつて世界を絶望させた聖堂は、あっという間に、外界の誰も立ち入ることのできない、俺とイザベラさんだけの甘美なプライベートサロンへとリフォームされたのだ。
「ひ、ひぃっ……! 化け物……いや、神か……!?」
正気を取り戻した近衛兵たちが、あまりの光景に腰を抜かし、寝ている国王を大急ぎで担ぎ上げながら、こちらの確認もせずに涙目になって這うように逃げ出していった。
「さて、イザベラさん。」
俺は彼女を真似て背後に回り込む。
「トウマ様……? 聖堂をこのような空間にしてしまうなんて……。」
イザベラさんは振り返り、妖艶な微笑みを浮かべようとした。余裕を保とうとしているのだろう。だが、俺がその細い腰をぐっと引き寄せ、耳元で囁いた瞬間、その微笑みは熱い吐息へと変わった。
「焦らせて悪かったね。その余裕、もう終わりにしていいよ。」
「あっ……」
ベッドへとしなだれ込むと、イザベラさんの大きな瞳は潤み、完全に俺だけを求める濡れた色へと溶けていった。
「ふふ……本当に意地悪ね……。あの子たちがあなたに愛されて、甘い声を漏らしているのを……私はどんなに羨ましく見守っていたか、分かっていらして? 王妃としての理性が、あなたの手のひらの上で溶けていくのが分かりますわ……」
イザベラさんの豊満な身体が、俺の底なしの魔力に触れた瞬間、ビクンと熱く脈打ち始める。
少女たちのような可愛らしい悲鳴ではない。大人の女性だからこそ抑え込んできた、底無しの渇望が溢れ出していた。
「ああ……トウマ様、凄い……全身が、あなたの熱さで満たされていくわ……っ。私を、あなたのものにしてください……っ! あなたの魔力で、私を内側から狂わせて……。」
肢体を俺にぴったりと絡めつけ、貪るイザベラさん。俺は彼女の望み通り、身体の隅々までこれでもかと注ぎ込んでやった。
最後には、妖艶なお姉さんの面影はどこへやら。恍惚の表情のまま「トウマ様……私の、愛しい御方……」と声を漏らし、完全に腰を抜かして指一本動かせない状態でシーツの海へと沈んでいった。
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