第31話 超特級の古代呪いも、指先一つでただの快適空間になる件について
エレノアの空間転移魔術によって俺たちがたどり着いたのは、不気味な黒い霧が天を突くように渦巻く、古代遺跡『天の逆鉾』の最深部だった。
周囲を見渡せば、王宮の精鋭騎士団たちが、その黒い霧――超特級の古代呪い【万物を侵す影】に触れ、魔力を根こそぎ吸い尽くされてカエルのようにペタンとへたり込んでいる。
「ひ、ひぃぃ……! 近づくな……! あれは生者が触れていいエネルギーじゃねえ……!」
「う、腕が、足が動かない……戦うっていう気持ちそのものが吸い尽くされるぅぅ……!」
精鋭たちが涙と鼻水を流しながら絶望していた。
「ト、トウマくん……! 流石にこれはマズイわよ!? 私の空間魔術の結界でも、あの影を完全に防ぎきれるか怪しいわ……っ!」
さっきまで俺と2人きりでクエストに来られて満更でもなさそうだったエレノアが、ツインテールを逆立たせて俺の服の袖をぎゅっと握りしめてきた。ガタガタと小刻みに震える彼女の瞳は、圧倒的な滅びの力を前にして完全に怯えている。
普通の冒険者なら、ここで世界の終わりを確信して絶望する格差社会の縮図みたいな状況だ。だが、俺は相変わらず、至って冷静だった。むしろ、早く片付けて別荘に帰りたい。
「エレノア、心配しすぎだ。こんな呪い、無いよりマシってレベルだから。……ほい、【万象解毒】」
俺はいつものようにおもむろに右手を掲げ、不気味に蠢く超特級の古代呪いに向けてチィン、と指先を小さく鳴らした。
直後。
ジジジジジッ!!!
「ギャアアアアア!?!? 影が、影が消えていくぅぅぅ!?」
精鋭騎士団たちの叫び声が響く。
世界を滅ぼしかけたはずの【万物を侵す影】は、俺の指パッチン一つで発動の因果ごと『解毒』され、まるで朝日に照らされたただの朝霧のように、シュパァンと一瞬で綺麗さっぱり霧散してしまった。
「な、何よこれ……!? 世界を滅ぼしかけた古代の呪いが、指先一つで消えちゃった……!?」
エレノアが顎が外れそうなくらい驚愕してフリーズしている。
だが、俺の【万象解毒】は、ただ不快な概念を消し去るだけではない。「不快な空間」そのものを毒で呑み込む。
パチン、ともう一度指を鳴らす。【概念猛毒】。
すると、さっきまでおどろおどろしかった古代遺跡の最深部が、地響きと共にまばゆい光に包まれた。
床は最高級の絨毯へと変わり、壁には美しく輝く魔導ランプが灯り、中央にはふかふかの特大極上キングサイズベッドが出現した。
かつて世界を震撼させた天の逆鉾の最深部は、一瞬にして誰も立ち入ることのできない、俺とエレノアだけの完全プライベートな「最高の隠れ家」へとリフォームされたのだ。
「ひっ、ひいいいいい! 化け物だァァァ!」
呪いが消えて動けるようになった精鋭騎士団たちは、俺の異次元すぎる力に腰を抜かし、味方であるにもかかわらず、涙目になりながら一目散に遺跡の外へと逃げ出していった。
「ふぅ、一件落着だな。」
俺がため息をついて振り返ると、そこには顔から湯気を出して悶絶しているエレノアがいた。
「な、なによこれぇぇぇ! なんで遺跡の中にこんなベッドがあるのよ! 空間ごとリフォームしちゃうなんて、おかしいでしょぉぉぉぉ!」
「じゃあ…いらない?」
「い、いるわよ…!」
俺は笑みを浮かべたまま、一歩、また一歩とエレノアに近づいた。
「な、なに…よ…。」
「ちょっとうるさいから、塞いじゃうね。」
俺はキスでエレノアの口を塞いた。それだけで身体がびくびくしている。
ツンツンしながらも、彼女の頬は真っ赤に染まり、その瞳は完全にハートマークになって、俺から目を離せずにいた。
「優しく、が、いいな……。」
ツインテールを恥ずかしそうに弄りながら、エレノアが覚悟を決めたように瞳を潤ませて両手を広げてくる。
これから、お預けをたっぷりくらったツインテールへ、底なしの魔力を注ぎ込む。
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