第24話 ご褒美の特権と、やきもちの波紋
果樹園の奥に佇む秘密のコテージ。その静かな室内には、窓から差し込む初夏の柔らかな木漏れ日と、熟した魔力果実の甘い香りが満ちていた。
ふかふかのソファの上で、ミィナは俺の胸にぴったりと身体を預けたまま、小さく「くぅ……」と満足げな吐息を漏らしていた。
俺の魔力を全身にたっぷりと注ぎ込まれた彼女の身体は、衣服を整えた今もまだ芯から心地よく火照っている。
普段の無邪気な子供のような雰囲気は鳴りを潜め、その表情にはヴィオレたちが浮かべていたのと同じ、一人の女性として満たされた極上の幸福感がとろけるように滲み出ていた。
「おにいちゃん……ミィナ、もう一歩も歩けないの。足が、ぽかぽかして、ふにゃふにゃしてる……」
ミィナは俺の首筋に甘えるように鼻先を擦り付け、ちぎれんばかりに尻尾を揺らす。俺がその愛らしい犬耳を優しく撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
「よく頑張ったな、ミィナ。別荘までは俺がちゃんと抱っこして連れて帰るから、安心しろよ。」
「ん……おにいちゃんの抱っこ、大好き……」
俺は【万象解毒】の力を軽く使い、回収したアーティファクトに付着していた呪いや追跡の残滓といった「余計な概念」を綺麗に処理すると、それを懐に収めた。
そして、愛おしい犬耳少女をお姫様抱っこで軽々と持ち上げ、コテージを後にした。
用意してもらった特製の馬車へと戻り、快適な車内でミィナを休ませながら、馬車は再び世界樹の別荘へと向けて走り出す。
出発した時と同じく、静かで二人きりの空間。 しかし、帰路のミィナは俺の膝の上を完全に独占し、昨夜贈られたばかりの髪飾りを誇らしげに揺らしながら、俺の指を両手でぎゅっと握りしめて離さなかった。
ただ守られるだけだった自分が深く愛された。その事実が、彼女にとって何よりも価値があった。
数十分後、馬車が世界樹の麓に到着する。俺がミィナを抱きかかえたまま別荘の扉を開けると、リビングからはすでに、慌ただしく動き回るメンバーたちの声が響いていた。
「あ、トウマ様! おかえりなさいませ!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、ようやく昨夜の疲れから回復したエルフの第一王女・セレフィナちゃんだった。彼女は俺の姿を見てパッと表情を輝かせたが、その腕の中にいるミィナの様子を見て、すぐに目を丸くした。
「あら……? ミィナ、そのお顔は……まさか…」
「ただいま、セレフィナちゃん、みんな。王宮からの緊急依頼、無事に片付けてきたよ。」
俺が微笑みながらミィナをソファへとそっと横たわらせると、奥の部屋からヴィオレとエレノアも顔を出した。
「トウマ殿、お怪我はありませんか!? 私が不甲斐ないばかりに、早朝の不測の事態に対応できず……」
ヴィオレが恐縮したように近づいてくるが、ふと、ソファに横たわるミィナから漂う「匂い」に気づき、言葉を詰まらせた。
「……っ!? ミ、ミィナ、そなた、その……まさか、旅先でトウマ殿に……!?」
「えへへ……。ミィナ、お仕事すっごく頑張ったから、おにいちゃんにいっぱい、特別可愛がってもらったの。」
ミィナはソファのクッションに顔を埋めながら、ふにゃりと締まりのない笑顔で、けれどこれ以上ないほど勝ち誇ったように尻尾をパタパタと振った。その身体から溢れ出している、隠しきれない「愛された余韻」は、かつてのヴィオレの時とまったく同じものだった。
「なっ……! ちょっとあんた、ずるいじゃないのよ!!」
エレノアがツインテールを激しく逆立てて俺に詰め寄ってきた。その頬は怒りと嫉妬で真っ赤に染まっている。
「認識阻害の霧の調査だからって、ミィナだけ連れて行ってそんな…ご褒美をあげるなんて……!ヴィオレの次はミィナとはね!」
「エレノアさん、落ち着いて。トウマさんはちゃんと、みんなを平等に愛してくださるわ。」
最後にキッチンから現れたイザベラさんが、クスクスと妖艶な笑みを漏らしながら、怒るエレノアの肩を優しく宥めた。だが、そのイザベラさんの瞳の奥にも、どこか俺を求める熱い光が灯っている。
「でも、トウマさん?次のお仕事には、そろそろ私たちも連れて行ってくださらないと、流石にやきもちが爆発してしまいますわよ?」
イザベラさんはそう言うと俺の手を握り、自分の胸元へと引き寄せた。
俺の目の前にあるのは、自分の力を心から必要としてくれる愛おしい美女たちの賑やかな日常だ。
依頼を乗り越えるたびに、彼女たちとの絆はより深く、より甘く、圧倒的な幸福とともに、どこまでも加速していくのだった。
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