第20話 特別な贈りもの、深まる絆
窓の外を流れるのどかな草原の景色が、次第に馴染みのある巨大な緑の影へと変わっていく。天を突くほどにそびえ立つ世界樹の巨木。その広大な枝葉に抱かれた、ギルド『万象の毒』の本拠地。
久しぶりに戻ってきた世界樹の別荘には、穏やかな夜が訪れていた。賑やかな夕食の時間が終わり、リビングの大きな魔導暖炉には炎が優しく灯っている。窓の外を見上げれば、世界樹の巨葉の隙間から、満天の星々が宝石を散りばめたように瞬いていた。
「トウマ様、食後のハーブティーをお召し上がりください。」
セレフィナちゃんが、上品な手つきで湯気の立つカップを俺の前に置く。更に彼女は俺の隣に滑り込むように腰掛け、その細い肩をそっと寄せてくる。
「ありがとう、セレフィナちゃん。今日も本当に美味しいご飯だったよ。」
「ふふ、トウマ様にそう言っていただけるのが、私にとって何よりのご褒美です。それに……」
セレフィナちゃんは潤んだ瞳で俺を見つめ、空いている方の手をそっと両手で包み込んだ。
「今回のギルドの初仕事、ヴィオレがとても嬉しそうに報告してくれました。トウマ様が彼女の誇りを守り、優しく導いてくださったこと……私も、自分のことのように誇らしいのです。」
その言葉に、少し離れた椅子でハーブティーを飲んでいたヴィオレが、ピクッと肩を揺らして顔を真っ赤にした。
「セ、セレフィナ殿! 皆の前で改めてそのような話をされると、その……報告書を読み上げられているようで、酷く恥ずかしいのだが……っ」
ヴィオレは長い睫毛を伏せ、手元のカップを両手で包み込むようにして隠した。だが、その視線はチラチラと俺の方を向いており、旅先での甘い余韻がまだ彼女の身体の奥に残っていることを物語っている。
「あら、良いではありませんか。ヴィオレさんがトウマ様の腕の中で、すっかり大人の女性になったのは、喜ばしいことですわ。」
イザベラさんが、大人の余裕たっぷりの妖艶な微笑みを浮かべながら、俺の背後に音もなく回り込んだ。そして、背中に柔らかい胸を押し付けるようにして、その首筋にそっと息を吹きかける。
「ねぇ、トウマさん? お仕事には私も一緒についていってもよろしいかしら? 旅先でのトウマさんも、じっくり堪能してみたいものですわ……。」
「イザベラさん、もちろん。ぜひ一緒に行こう。」
振り返って微笑むと、イザベラさんは笑みを深め、俺の頬にそっと指先を滑らせた。
「おにいちゃん!ミィナも!ミィナも次のお出かけに行く!」
ソファの下で丸くなっていたミィナが、犬耳をピンと立てて俺の膝の上に飛び乗ってきた。身体を擦り付け、嬉しそうに尻尾を左右に振っている。
「ち、ちょっと、みんなしてトウマくんに群がりすぎじゃないの!?」
部屋の隅で、エレノアがツインテールを激しく揺らしながら立ち上がった。彼女の膝の上から、魔導書がパタンと床に落ちた。
「一応ここ、ギルドの本拠地なのよ。少しは規律…というか、その……ハレンチな雰囲気を抑えなさいよねっ!」
「エレノア、そう言う割には、おにいちゃんの隣が空くのをずっと睨んでるよ?」
ミィナが俺の膝の上から、無邪気な顔でまたしても核心を突いた。
「なっ……!? ミ、ミィナ、あんた余計なことを……っ!」
「あ、エレノア、顔が赤くなってる。」
エレノアは真っ赤になって頬を膨らませた。
「エレノア、こっちにおいで。」
と優しく声をかけると、
「…仕方なくよ?」
と呟きながら、俺の空いている方の隣へちょこんと腰を下ろした。衣服越しに伝わる彼女の小さな鼓動と体温が、たまらなく愛らしい。
「実は、みんなにプレゼントがあるんだ。」
俺はそう言って、机の引き出しから小さな小箱をいくつか取り出した。箱には世界樹の加護を受けた希少な魔鉱石があしらわれた、美しいお揃いの髪飾りやブローチが輝いていた。
今回の報酬でこっそり仕込んでおいたものだ。
「これ、みんなへの日頃の感謝。いつも俺の隣にいてくれてありがとう。」
それぞれの髪や胸元に、優しく贈りものを添えていく。
「まぁ……、なんて綺麗な。トウマ様、一生の宝物にいたします。」
セレフィナちゃんが、瞳に微かな涙を浮かべて微笑む。
「トウマ殿から、このような美しいものを……。騎士として、いえ、私の生涯をかけて、あなたをお護りすると誓います。」
ヴィオレがブローチを愛おしそうに撫で、深く胸を焦がす。
ミィナは髪飾りをパタパタと揺らして喜び、イザベラさんは妖艶に目を細め、エレノアは「……ありがと。」と蚊の鳴くような声で呟きながら、俺の服の裾をぎゅっと握りしめた。
「そうだ、ミィナにはこれも似合うと思って。」
そう言って、ミィナに眼鏡を渡す。
「すごい!良く見えるよ!おにいちゃん!」
犬耳に眼鏡、ミィナがワンランク上の獣人へと早変わりする。
特別な夜。 暖炉の炎が優しく俺たちを照らす。ギルド『万象の毒』の絆は、誰にも引き裂けないほど深く、そして甘く、確かに紡がれていくのだった。




