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第19話 グランゼリア王国への帰還、幸福な食卓の風景

 窓の外を流れるのどかな草原の景色が、次第にグランゼリア王国の風景へと変わっていく。ギルド『万象の毒』のメンバーが待っている貸切宿がようやく見えてきた。


 馬車のカーテンが静かに開けられる。


 車内にはヴィオレとの甘い香りがまだ微かに残っていた。


「……あ、あの、トウマ殿……。本当に、その……私はなんという、破廉恥なことを……。」


 俺の隣で、ヴィオレが顔を限界まで真っ赤に染め、髪と衣服の乱れを大慌てで整えていた。


 鍛え上げられたしなやかな身体は、優しく、底なしの愛(魔力)をたっぷりと注ぎ込まれたせいで、未だに芯から火照っているようだ。馬車が完全に停止したというのに、足元に力が入らないのか、生まれたての子鹿のように膝を小さく震わせていた。


「無理しなくていいよ、ヴィオレ。僕が支えるから。」


 彼女の細い腰を支えてやると、ヴィオレは「うぅ……」と小さくうめきながらも、嬉しそうにトウマの胸に身を預けた。旅の『ご褒美』をこれでもかと堪能した彼女の表情には、戦士としての鋭さはなく、ただただ愛されている幸福感だけが満ちている。


 馬車の扉を開けると、爽やかな空気が二人を迎えた。


そこへ、別荘で待機していた留守番組のメンバーたちが、賑やかな足音を立てて出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、トウマ様! ヴィオレも、無事の帰還で何よりです。」


 先頭で駆け寄ってきたのは、エルフの王女・セレフィナちゃんだった。すっかり朝の気だるげな様子から回復したみたいだ。いつもの気品あるドレス姿は、俺の姿を見るなりその瞳を輝かせる。


「トウマ! ミィナ、ずっと待ってた! いい匂いがする!」


 獣人のミィナが俺の足元に飛びつき、その服の裾を掴んで尻尾をぶんぶんと振った。だが、ふと鼻をピクピクと動かすと、俺とヴィオレの顔を交互に見上げる。


「くんくん……。あ、ヴィオレの匂い、トウマの匂いと混ざっていっぱい増えてる。馬車の中で、またぽかぽかすることしてもらったの?」


「なっ……!? み、ミィナ!? な、何を言うのですか! 私たちは国からの公式依頼を全うしてきたのであって、決してそのような、不埒な、その……っ!」


 直球すぎるミィナの指摘に、ヴィオレは顔から火が出そうなほど狼狽した。


 その様子を見て、後ろから歩いてきた召喚術師のエレノアが、あからさまに頬を膨らませてツインテールを揺らした。


「フン、やっぱりね。2人きりで出かけるなんて怪しいと思ったのよ。依頼にかこつけて、自分だけトウマに特別扱いしてもらうなんて……良いご身分だこと!」


「お、おい、エレノア! 誤解だ、これはトウマ殿の優しさが、その、不可抗力と言うか……!」


「はいはい…お熱いことですわね。」


 最後に現れたのは、大人の色香を漂わせるエルフ王妃、イザベラさんだった。彼女は俺とヴィオレのために用意していたタオルを差し出しながら、すべてを察したような妖艶な笑みを浮かべる。


「今回の仕事も大成功だったようですね。トウマさん、本当にお疲れ様でした。そしてヴィオレさんも。」


「うん、イザベラさん。討伐依頼があった旧鉱山の魔獣は、今頃大人しく国境の番犬をやってるよ。これで当分、あの地域は安全だと思う。」


「さすがトウマさんですわ。でも…ヴィオレさんの匂いが満ちるほど元気になるなんて…ねぇ?」


「今回はヴィオレが大活躍だったから、そのお礼だよ。」


 そこにセレフィナちゃんが割って入ってきた。


「トウマ様…!食後に、また…お願いしたいのですが…。ちなみに、ヴィオレはもう十分よね…?」


「え!?…あ、わ、私ももう少し…。」


「ダメです…!」


 自分の人差し指同士をつんつんとしているヴィオレに、セレフィナちゃんは頬を膨らませた後、「べー」っと舌を出した。


 みんな、自分の帰りを待ってくれるかけがえのない存在だ。元のギルドにはなかった温かさが、このギルドにはある。


「さあ、立ち話もなんですし、中に入りましょう。クエストに出向いたトウマさんとヴィオレのために、王様がまたご馳走を用意してくださいましたのよ。」


 イザベラさんの促しで全員で部屋へ移動する。


 ダイニングテーブルの上には、肉汁溢れるステーキ、大地の恵みをふんだんに使ったスープや、焼き立ての香ばしいパン、そして新鮮な果実が贅沢に並べられていた。


 俺が席についた後、セレフィナちゃん、ヴィオレ、イザベラさん、ミィナ、エレノアが席につく。


 つい先日までは交わるはずのなかった身分の者たちが、今は一つのテーブルを囲んで笑い合っている。


 俺は静かにスープを口に運んだ。温かく、優しい味が身体に染み渡っていく。


「美味しいよ。みんな、ありがとう。」


 その一言で、食卓にはいっそう華やかな笑顔が咲き誇る。温かい食卓の風景が、俺の中に優しく刻まれていくのだった。


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