第12話 隣国が魔王軍に包囲されてたから、『因果』を毒殺して解決してきた
新ギルド『万象の毒』の初仕事は、新メンバーであるエレノアの祖国『グランゼリア王国』の救済だ。
俺たちはエレノアの案内(といっても、神獣化したミィナの背中に乗って数分だが)で、王国の国境付近を見下ろす崖の上に立っていた。
「あ、ああ……なんということだ……。我が祖国が……!」
崖の上から戦場を見下ろしたエレノアが、絶望に顔を歪めて崩れ落ちる。 視線の先には絶望の光景が広がっていた。王国の巨大な城壁を取り囲む、文字通り地平線を埋め尽くすほどの漆黒の軍勢。
『ウゴォォォォォ!人間どもを喰らい尽くせぇ!』
「奴は…魔王軍の幹部『狂乱の獣帝』ガルムート……!」
軍勢はガルムートを先頭に、獣人で構成されていた。地鳴りのような咆哮が響き渡り、王国の結界は今にも割れそうになっている。城壁の上では、追い詰められた王国の兵士たちが涙を流し、武器を震わせながら死を覚悟しているようだ。
「トウマ殿!やはり私たちが加勢せねば……!」
「私もエルフの精霊魔法で広範囲を攻撃します。トウマ様、ご指示を!」
ヴィオレとセレフィナちゃんが武器を構え、いつでも飛び出せる構えをとる。だが、俺はふふっと鼻で笑う。
「まぁ待てって二人とも。この大軍を一人ずつ斬っていても間に合わない。でも俺が指を動かせば終わりだから。」
「え……? ト、トウマくん、ガルムートの軍勢よ!? いくらあなたでも、【概念猛毒】でどうにかできる規模じゃ――」
エレノアが驚愕の声を上げる中、俺は魔王軍に向けて右手を掲げた。
「【概念猛毒】――発動。」
俺が狙いを定めたのは魔王軍の肉体ではない。奴らが今まさに王国へ向かって行っている「進軍」という行為、そして、この戦場における「魔王軍が王国を滅ぼすという因果関係」そのものだ。
一瞬、大軍の頭上に、目に見えない黒くドロドロとした概念の猛毒が降り注いだ。
「――え?」
次の瞬間、魔王軍が突然頭を抱えてガタガタと震え出した。
「な、なんだこれは……!? お、俺たちは……なぜここにいるんだ!? 『進軍』ってなんだ!? そもそも『魔王軍』って、何だっけぇぇ!?」
俺の毒によって【進軍の因果】を殺された魔王軍は、自分がなぜ武器を持っているのか、なぜ目の前の国を襲おうとしているのかという『概念』を完全に失ったようだ。
『な、なんでここにいるの…アタシ?』
『俺……ただの野生の動物のはずだったのに…。無理矢理捕獲されたんだっけ…。』
大軍は一瞬にして戦意を喪失し、武器をポイポイと投げ捨てると、お互いに毛づくろいを始めたり、その辺の草をのんびり食み始めたりしている。
「は、はい……? 魔王の軍勢が一瞬で…これじゃただの動物園じゃない……!?」
エレノアは目玉が飛び出んばかりに驚愕し、あまりのスケールに開いた口が塞がらない様子だった。
「よし、クエスト完了。じゃあ王国の王様から報酬でももらいに…」
ガギィィン!!
「トウマ殿!まだ終わっていない!」
トウマの目の前でヴィオレが大剣を弾いた。重厚な音が響き渡る。ガルムートが怪力を活かして地上から大剣を投げてきたようだ。
「お前ら…普通じゃねぇな…。随分と奇妙な技を使いやがって。」
(ガルムート…だっけ。俺の【概念猛毒】が効いていないのか?)
「まぁいい、今は退いてやろう。顔は覚えたぞ。次はない。」
そう言ってガルムートは姿を消し、辺りに静寂が戻った。
——すると次の瞬間、エレノアが猛烈な勢いで俺の胸に飛び込んできた。黄金のツインテールを激しく揺らし、顔を真っ赤にして潤んだ瞳で俺を見上げてくる。
「トウマくん……! あなたは本当に、本当に神様だわ……っ!魔王の大軍を一瞬で無力化しちゃうなんて……!グランゼリア王国を救ってくれてありがとう!」
エレノアは俺の首に腕を絡めながらお礼を口にした。
「ちょっとエレノア、抜け駆けはずるいわ!トウマ様の胸は私のポジションよ!」
「トウマ殿、私も……その、甘えたいです!」
「ヴィオレには命を救われたから、ちゃんとお礼しないとな。ありがとう。」
「へっ…!?こ、こちらこそありがとうございます!!」
「あらあら、みんな元気ねぇ。今日はギルドの初仕事の成功を記念して……夜は『お祝い』ね♥」
「おにいちゃん! ミィナもお祝い、するの!」
イザベラさんの提案に、セレフィナちゃん、ヴィオレ、ミィナもコクコクと頷く。
「はは、じゃあ今日は、別荘に戻ったら朝まで祝勝会だな。」
そう言いながらも、初めて【概念猛毒】が通用しない相手に、トウマは一抹の不安を抱えるのだった。




