第10話 隣国の天才召喚術師が神話級の魔獣を暴走させたので、契約を毒殺・解毒して懐かせてみた
俺はリビングのふかふかした魔法ソファに寝そべり、ハーレムたちから至高の甘やかしを受けていた。
「旦那様、あーんしてください。エルフの里特産の極上ぶどうです❤️」
「トウマ様、お疲れでしたら、私の太ももを枕にしてくださいな。いくらでも甘えて良いのよ?」
セレフィナちゃんが瑞々しい果実を俺の口に運び、元王妃のイザベラさんが後ろから俺を優しく包み込む。
「トウマ殿! スムージーをお作りしました! 隠し味に、私の溢れんばかりの愛を込めてあります!」
「おにいちゃん、ミィナが頭をなでなでしてあげます! えへへ、おにいちゃん、あったかいです!」
巨乳女騎士ヴィオレがお盆を震わせながら給仕し、獣人ロリのミィナが犬耳をパタパタさせながら俺の髪を優しく撫でる。
うむ、今日も今日とて平和そのもの。
――だが、その平和を破るように、別荘の上空が突如として禍々しい漆黒の雲に覆われた。
「な、何かしら、この不吉な魔力は……!?」
「トウマ殿、下がってください! 上空に巨大な魔力反応が――!」
セレフィナちゃんたちが警戒を強める中、窓の外を見上げると、そこには空中に浮かぶ魔法陣と、その上に立つ一人の美少女の姿があった。
黄金のツインテールをなびかせ、豪華な魔導ローブを纏った、気の強そうな美少女――隣国のSSSランク召喚術師、エレノアだ。
エレノアは眼下に広がる世界樹の別荘を見下ろし、傲慢に高笑いした。
「 見つけたわ、元Sランクギルドの裏方風情が! 貴様が『聖なる光』を壊滅させたトウマね!? 隣国のSSSランクたるこの私が、その生意気な鼻をへし折ってあげるわ! 貴様の別荘は、すべてこのエレノア様が没収よ!」
エレノアが杖を掲げると、空の魔法陣から、空間を引き裂いて神話級の超魔獣『終焉の黒龍が姿を現した。世界を滅ぼすと言われるほどの伝説の魔獣だ。
「さあ、ひれ伏しなさい! 伝説の黒龍の前に、貴様らなど一瞬で――」
エレノアが勝ち誇ったように命令を下そうとした、その時だった。
「……おいおい、そんなヤバい魔獣、本当に制御できてんのか~?」
俺はソファに寝そべったまま、冷めた目でエレノアを見上げた。
「な、何ですって!? この私が失敗するとでも――あ、あれ!?」
エレノアの顔が突如として青ざめた。
あまりにも強大すぎる『終焉の黒龍』の魔力に、エレノアの制御が追いついていない。黒龍の目が赤く染まり、咆哮をあげる。完全に暴走状態だ。
『オォォォォォン!!』
「嘘……そんな! 『絶対遵守の契約』が、引きちぎられる……!? 嫌、来ないで、私の言うことを聞きなさい!!」
エレノアの命令を無視し、黒龍はその巨大な顎を開いた。そして、自身を召喚した主であるエレノアに向かって、パックリと喰らいつこうと猛スピードで肉薄する。
「ひっ……あ、あああ……! 誰か、誰か助けてぇぇぇ!」
死を覚悟し、涙目を浮かべてギュッと目を瞑るエレノア。
傲慢だった天才美少女が、一瞬で無力な少女へと成り下がった瞬間だった。
「やれやれ。詰めが甘いなぁ」
俺はため息をつきながら、ソファからゆっくりと立ち上がった。
いくら敵とはいえ、可愛い女の子が魔獣に喰われるのを黙って見てるほど、俺は冷徹じゃない。
「【概念猛毒】――発動」
俺が放った見えない毒は、急降下する黒龍の牙を直撃した。……いや、狙ったのは肉体ではない。黒龍とエレノアを繋いでいた、暴走して狂ってしまった「契約の因果関係」だ。
狂った契約の回路を、俺の猛毒が一瞬でドロドロに溶かして『毒殺』する。
パキィィィン!!
「ガ、ガァ……!?」
主を喰らうという『狂った因果』を毒殺された黒龍は、エレノアの目の前でピタリと動きを止め、苦しそうに頭を抱えた。
「え……? 助かっ……た?」
呆然とするエレノアの前に、俺は世界樹の枝を足場にして、ふわりと飛び上がって着地した。黒龍とエレノアの間に割り込み、エレノアの細い腰をグッと引き寄せてお姫様抱っこする。
「ひゃっ!?き、貴様、何を……!」
「危ないからじっとしてな。――次は仕上げだ。」
俺はエレノアを抱きかかえたまま、もう片方の手を黒龍にかざした。
「【万象解毒】――発動」
今度は、さっき俺が猛毒で一度ぶっ壊した「契約の因果関係」に対して、解毒スキルを発動する。俺の解毒は、ただの毒を治すんじゃない。壊れた概念を『正常な状態』へと修復・リライトした。
一瞬にして、黒龍の瞳から凶暴な赤みが消え、澄んだ金色へと戻った。
そして、黒龍は完全に大人しくなり、俺とエレノアの前に巨大な頭を垂れてクゥンと甘えたような声をあげた。
「そ、そんな……! 暴走した神話級の魔獣の契約回路を、一瞬で完全に修復して、従わせただなんて……! 嘘、あり得ないわ、こんなの神業以上よ……!」
エレノアは俺の胸の中で、驚愕に目を見開いていた。
「き、貴様……いや、あなたは、一体何者なの……? こんな凄い人が、ただの追放された裏方なわけがないわ……。あ、私、エレノア。あなたに、命を救われちゃったみたい…ね…。」
急に態度が軟化した天才召喚術師は、潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
「あーっ! トウマ様は私の旦那様になる方です!」
「こらっ!トウマ殿から離れろ!」
「あらあら、また賑やかになりそうね。」
地上から賑やかな声が上がった。
「ま、結果オーライだな。エレノア、お前ほどの優秀な召喚術師が仲間になってくれるなら、ちょうどいいや。」
俺はニヤリと笑った。
「これだけ最高のメンバーが揃ったんだ。元ギルドの残党に舐められないためにも、そろそろ俺たちの『新しいギルド』を作っちゃおうか。」
「別に…興味はないけど、まぁあなたが言うなら…?少しくらいは付き合ってあげても良いわよ…。」
隣国の天才美少女召喚術師を迎え、俺は「世界最強のギルド設立」へと動き出した。




