1章7話 暗闇を照らす光
放課後の屋上。泣きじゃくる私と倒れている男子生徒を海道くんが見つけてくれた。
事情を伝え首藤さんへ報告。
男子生徒は私が掴んだ証拠とともに、警察に引き渡されることになった。
首藤さんと私も事情聴取を受けた。
だが、異形化したことも海道くんに伝えていたため、霊能協会の干渉もあった。
男子生徒は精神鑑定と身柄を霊能協会預りとなった。
首藤さんはそのことを知らないが、ひとまず事件解決と言えるだろう。
事情聴取を終えた私と首藤さんは待っていてくれた海道くんと合流する。
「お疲れ様。なんだか大変なことになっちゃったね。」
「……私が突っ走ったせいよ。悪かったわね。手を煩わせて。」
「ううん。僕は別に大変じゃなかったよ。元はと言えば、昨日、僕がちゃんと話を聞けていればもう少しスマートに解決できたはずだよ。」
「……そうかも……ね」
私と海道くんの中で微妙な空気が流れる。もっと責められてもおかしくないのに。
沈黙が続く。アキラの言葉がずっと頭の中で響き続けている。
「天空さん。今回は本当にありがとうございました。それと、ご迷惑をかけてすみません。あなたの言葉がとても心強かったから、甘えてしまいました。」
沈黙を破ったのは首藤さんだった。私の手を握り感謝を伝えてくれる。この人のことだけでも助けられたのは、良かった。
「……助けられて良かったです。」
「はい!……だから、そんな顔しないでください。私はあなたに助けられたんです。」
「……そうですね」
首藤さんは微笑んでみせる。私も少しだけ笑顔が零れた。
気を遣わせたかな。
首藤さんは何があったのか触れずに、ただ感謝を伝えてくれた。
その後、雉木さんが警察署まで車で迎えに来てくれた。
首藤さんを家まで送り届け、私達も家に帰ることになった。
三人の車内。誰も何も話さず何も聞かずただ家路へと進む。
私は我慢できず聞きたいことを聞くことにした。
「……おふたりはアキラを知っていますか。」
「アキラ……」
海道くんは小さく呟く。
「そのお方がどうかされたんですか?」
質問に答えることなく、雉木さんは淡々と疑問を返してくる。
「今日異形に襲われた時、アキラに助けられました。この前の神威さんに襲われた時も、十年前も、助けられました。多分この地域で噂になっている黒天使です。」
「ああ、あの噂の。本当にいたんですね。天空さんはそのお方とお知り合いだったんですね。」
「………。」
海道くんは考え込むように黙り続けている。
「雉木さんや海道くんもアキラのこと知ってますよね。……そして、アキラを守っている。」
シラを切る二人に私は構うことなく踏み込む。
もし本当にシノビ一族が守っているのがアキラなんだとしたら、隠すのは当然だ。現に守るべき家は既に滅んだと海道くんは言っていた。となると、その言葉は嘘ということになる。守るために隠すことが必要だということだ。
「……なぜ、我々がその方をご存知だとお思いで?」
「そうだよ、天空さん。前に話したこと忘れちゃった?僕たちが守っていた御三家『参の家系』はもう既に滅んでいるんだ。今守るべきお方は君だけだよ?」
ようやく話し始める海道くん。彼もやはり知らないと嘘をつく気だ。
だから私は二人の質問に答える。
「今日アキラに助けられた時、シノビ一族の『霧隠猿飛』と名乗る人も一緒に現れました。その人はアキラを守っているとも言っていました。……教えてください。アキラは私にとって、大切な人なんです。」
刹那。車を勢いよく止める雉木さん。急ブレーキによって、身体が大きく前後に揺れる。
「……大切……ですか」
まただ。また、雉木さんから煙のような炎が燃えているようなそんな匂いを感じる。
「……?」
「確かに、霧隠猿飛はシノビ一族ですよ。」
「やっぱり!そうなんじゃないですか!じゃあ、アキラのことも───────」
その質問に答える前に雉木さんは車を降りる。
私も慌てて降りるが、海道くんは難しい顔のまま車に残る。
降りてようやく気がつく。既に家の近くに到着していたようだ。
そんなことは構わず私は家に向かって歩く雉木さんの背中に言葉をかけ続ける。
「教えてください!アキラのこと!守っていたんですね!?だから、隠していた!そうでしょう!?」
「その仮説で言うと、猿飛がアキラ様を守っていると口にしたのはおかしいような気もしますね。」
「それは……」
確かにそうだ。私の仮説はめちゃくちゃだ。それでも知ってしまった以上引き下がる訳には行かない。
「ま、実際、猿飛は少し頭が硬い奴でしてね。ですから、主を守ることを優先してポロッと秘密を口にするような奴ではあるんですよね。だから、その仮説は間違っているとは言いづらいのも事実。───────そうだ、せっかくの機会ですから紹介しますよ。」
「え?」
雉木さんは意見を二転三転させて話を混乱させてくる。おかけで理解するのに時間がかかる。つまりどういうこと?
そんな思考を続けていると、振り返って立ち止まる雉木さん。手を三回叩くと、木の上から手を付き一人の青年が現れる。
「さっきの……!!!」
その姿を認識した瞬間、私の記憶の中にいた『霧隠猿飛』と一致し、声を荒らげる。
霧隠猿飛はゆっくり立ち上がると、私に近づいてくる。
「初めましてっす!自分、霧隠猿飛って言います!ご挨拶が遅れて申し訳ないっす!半蔵兄さんってば、『俺はお前に仕えない』なーんて失礼な言い方したみたいっすけど、所用があって遅れただけなんっすよ!……だから、これからよろしくっす!」
「は、はあああああっ!?」
私は思わず混乱し大きな声を出してしまう。誰よ!?この人!?さっきと別人すぎる!
私の動揺を全く意に返すことなく、とびきりの笑顔で微笑んでくる。頭の理解が追いつかない。
「え、え!?いや、はじめましてじゃないですよね?さっき、そう!カマイタチの呪いかけたじゃないですか!」
「うへえ〜物知りっすね!もう俺の契約してる妖怪のこと知ってるんっすね!誰っすか言ったの〜!ウッキィイイイ!!!」
猿飛はバカみたいに辺りの木々を飛び回り騒いでいる。
「ご覧の通り、ただのバカです。だから会わせたくなかったんです。」
雉木さんは頭を抱え苦笑いしてみせる。
「い、いや!騙されませんよ!演技でどうにでもなります!」
「中々引き下がりませんね。天空さんって結構頑固なんですね。いいでしょう。仕方ありません。アキラ様のこと教えます。」
私は固唾を飲み込む。ようやくアキラのことを知れる。もう一度会えるかもしれない。今度はちゃんと話したい。どんなに変わってしまってもまだ恋焦がれているから。
「私達シノビ一族は御三家当主の一人『宮ノ森 光様』をお守りしていました。───────ですが、七年前亡くなっています。ですから、隠していた訳ではなく、本当にもうお守りしていないんです。」
頭が真っ白になった。一瞬雉木さんが何を言っているのかまるで理解できなかった。
アキラが死んでいる?嘘でしょ?なんの冗談?
意味がわからない。
全身に焦燥感と不快感が走る。体全身を包み込むような異常な不安。
衝撃と困惑と不安。あらゆる負の感情が体を駆け巡り、氷のように冷えていく。
世界が無機質に無色に塗り変わっていく。
───────熱を感じない。
「まさか、天空さんにとって、そこまで大切なお相手だったとは。」
私の酷い顔を見てかいつもより優しさを込めて話しかけてくれる雉木さん。
その行動が信憑性を増して見せた。
───────雉木さんにとっても大切な人だったはずだ。
それでも私は認めることなんてしたくなかった。子供のように駄々をこねるしかできない。
遅れてようやく拒絶する言葉が体を駆け巡る。認める訳には行かない。私が受け入れたら、そこで終わってしまう気がしたからだ。
「嘘……です、そんなの!だって、今日もこの前も助けてくれたんですよ!?そんなのおかしいです!」
「……亡霊の類かと。」
「……亡、霊?」
その時、アキラの言葉が脳裏を掠める。
──────────────俺はただの亡霊だ。
「うそ、嘘嘘嘘嘘、嘘!!!」
「信じなくても構いません。ですが、我々の知っているアキラ様は既に亡くなっています。……あなたの知るアキラ様と異なることをお祈りしています。」
雉木さんは光を灯さない瞳で私を見ると、そのまま家屋敷へ向かう。
私はなにがなんだか分からずに、その場に膝を着く。
「ん?なんっすか!お話終わったっすか!?」
目の前に降りてくる猿飛。
私は襟首を掴んで怒鳴りつける。
「いつまで正体隠してるのよ!?さっさと、アキラのこと言いなさいよ!死んだなんて嘘でしょ!?さっき一緒にいたじゃない!!!」
「……俺だって認めたくねえっすよ。俺は……七年前、何も出来ずに守られただけっすから。」
「誰に!?何をされたって言うの!!!!」
「……突然襲ってきたんっすよ、霊能協会の連中が。一族みんな殺していって。アキラ様は必死に俺と皐月を守って…………」
「霊能協会が……なんで…」
「知らねえっす。……でも俺はあいつらを絶対に許さない。……もういいっすか。」
「……ごめん。」
明確な殺意。湧き上がる復讐心。
気圧されて私は手を離す。
猿飛の怒りは本物だった。今まで見てきた誰よりも強い殺意が瞳に宿っていた。
これ以上は無駄だ。なにより噛み殺される。そんな気さえした。
猿飛は暗い顔のまま森の中へ消えていく。
さっき見たアキラは亡霊だって言うの。だったらなんで猿飛は生きてるのよ。意味がわからない。わかるように説明してよ。
でも猿飛は嘘なんてついていなかった。
あの瞳の復讐心も、アキラに守られたのも、霊能協会に一族を殺されたのも、全部本当だと思う。
「帰ろう。天空さん。体冷えちゃうよ。」
「……一人にして。」
ようやく車から降りてきた海道くん。私に手を差し伸ばしてくれるが、私はその手を弾く。
「せめて部屋に行こう。このまま放っておけない。」
「なんで……なんで、優しくするのよ!!!わたしはあなたたちの大切な主を生きてるなんて言った大バカなのよ!冷たくしてよ!怒ってよ!放っておいてよ!」
泣きわめく私。
刹那、雷鳴が轟き、大粒の雨が降り注ぐ。
「知らなかったんだから仕方ないよ。それに本当にキミはみたんでしょ?アキラさんを。」
「……っ。」
「皐月には言わない方が確かにいいかもしれない。他のみんなも多分信じてくれてはくれない。直接アキラさんが死んだところを見ているから。でも僕にとってはなんでもないから、言っていい。信じていい。……大切な人なら、きっと、最後まで諦めちゃだめだ。」
「なんでもないって……なんでもないわけないでしょ!」
たった一度。数回話した程度の私と特別な繋がりを持っていた彼らは絶対に違う。
あの太陽みたいな笑顔を、温もりをとなりで感じていたんだから。
一族を守るために最後まで戦ったんだから。
誰にとっても大切なはずだ。
海道くんは無言でわたしを抱き上げる。
「ちょ……!?なに!!下ろして!!!」
暴れる私だったが、続けて発せられる海道くんの言葉に意識を持っていかれる。
「僕には記憶が無いんだ。」
「記憶が無い……?」
そんな在り来りな返ししかできなかったが、海道くんに抱いていてきた違和感にピタッと何かがハマった気がした。
海道くんはそのまま私を抱き抱えながら進んでいく。
「七年前、霊能協会の人たちと戦った時に大きな傷を負ってね。助かりはしたけど、記憶を失ったんだ。……だから僕は空っぽで、何も持ち合わせていない。」
「そんな……」
「だから僕は真実を知るために霊能協会に入ったんだ。一族はなんで滅びなきゃいけなかったのか。それを知るために。」
雨で濡れた髪の毛。抱き上げられてほのかに感じる温もり。
宝石のような青い瞳。
海道くんは私より何倍も大きなものを抱えていた。
私はなにもわかっていなかったんだ。
「ごめん……私、酷いこと……言った。」
「ううん。本当のことだから。……僕は君が羨ましいよ。」
「羨ましい……?」
「たくさんの感情や葛藤、これまでの思い出。君は色んなものを持って、傷つきながらも、いつも前へ向かってる。……そんな君が眩しくて羨ましい。」
寂しそうな顔だった。
でも同時にどうやっても海道くんに手は届かないと思った。
こんなに近くにいるのに、私は彼を温めることはできない。
だって私はただ、光を求めて歩いてきただけだから。
今この世界は真っ暗闇だ。
◆◇◆
翌朝。小鳥のさえずりで目が覚める。
昨日のことはよく覚えていない。
いつ家に帰ったのか、いつお風呂に入ったのか、いつご飯を食べたのか、いつ眠ったのか。
───────学校行かなきゃ。
どんなに行きたくなくても、どんなに辛いことがあっても、私を大切に育ててくれたお父さんとお母さんは裏切ったらダメだ。
それに私はアキラが死んだなんて認めない。
自分の目でたしかめるまでは。
信じない。
私は切り替えて朝の支度を始める。
シャワーを出て髪を整え、制服を着こなす。
顔色は良くないが、外には出られるレベルだろう。
洗面所から出ると、壁にもたれ掛かり腕を組む犬飼と鉢合わせる。
「学校……行くのね。」
「うん。行くよ、ちゃんと。」
「……これお弁当。」
犬飼は腕をグッと伸ばして巾着を渡してくる。
「いつもありがとう。」
私はお礼を言いながら受け取る。
「別に。……お兄から聞いた。アキラ……さん、と知り合いだったって。」
「……聞いたんだ。」
数刻の間、躊躇うように切り出した犬飼。昨日の私は見ていられなかっただろう。海道くんも話すしかなかったんだと思う。
「……アキラさんは、どんな人だった?」
恐れるような、躊躇うような、なんとも言えない表情で見つめてくる。
一瞬、言葉に詰まるが、私は素直に自分の思いを言葉にすることにした。
「私の初恋の人で、命の恩人。太陽みたいであったかい人。……私の世界を大きく変えてくれた人。」
「……同じね。」
溜息をつき呆れるように言葉を零す犬飼。でもどこか嬉しそうな感じがした。
「え?」
私は聞き返すように疑問符を浮かべる。犬飼は切り替えるように話し始める。
「私と全く同じ印象ってこと。……先に言っておいてあげる。……アキラさんは死んだ。生きてるなんて絶対にない。……もう忘れた方がいい。じゃないと、ずっと傷つくだけだよ。」
犬飼は瞳を閉じて淡々と言い放つ。まるで自分はずっと忘れられず後悔している、と言いたげだ。
「……そうかもね。」
それでも私は、まだ諦めていない。
その言葉と決意は胸の中に秘めて、笑って見せた。
犬飼は怪訝そうな顔で出ていった。
私も学校へ向かうことにした。
◆◇◆
お昼休みの屋上。
学校はいつも通り、何も変わることなく日常が流れていく。
昨日あれだけ色んなことが起きたというのに、平穏そのものだった。
お弁当箱を開けると、食べやすい形にカットされたサンドウィッチが入っていた。
「今日も美味しそうね。」
私は微笑みながら、サンドウィッチを食べて行った。
あまり食欲はなかったが、手頃のサイズで色んな味を楽しめて、あっという間に食べ終わっていた。
「あいつ気が利くな〜」
犬飼は冷たいようで人のことをよく見ている。
それにあの言葉。
犬飼はてっきり海道くんを好いているように見えたけど、アキラのことを好きだったのかな。
どれだけの後悔と辛い思いをしてきたんだろう。
海道くんが犬飼にはアキラを見たなんて言うな、と釘を指した理由が朝のやり取りに詰まっている気がした。
これからどうするべきか。
考えても仕方の無いことを頭の中で考え込む。
見上げた空は綺麗な晴天。
雲ひとつなく、太陽がギラギラと照らしてくる。
そろそろ夏がやってくる。
そんなことをぼんやり考えていると、視界に奇妙のものが見えて一度目を擦る。
「んん?」
もう一度目を開くと、やはり雲では無いものが視界を泳いでいることに気がつく。
白いわたあめのような、丸い物体。
いや、炎?
白い炎?
その白い炎は何故か私に近づいているような気がした。
「あえ?ん?」
間抜けな声を出しながら、もう一度目を擦る。
だが、見える景色は変わらず、白い炎は周りから別の白い炎を集めて次第に大きくなっていく。
「は?」
そのまま渦を巻いて私目掛けて落ちてくる。
「は?え?は?」
近づいてきてようやく気がつく。
その白い炎には顔がついている。
「ひ、人魂!?」
「見つけましたぁああああああ!!!!」
「わわわわ!?わぁあああああああっ!?」
ぶつかると思い顔を覆い隠す私。人魂は勢いよく進行方向を変え目の前に落ちる。
みるみるうちに人の形に変化していき、そこには見慣れた女性が佇む。
「しゅ、首藤さん!?」
「ビックリしました!?」
「えぇ、はい、大変びっくりしました。」
私は体を強ばらせたまま固まる。
どういう訳かしろい人魂が首藤さんになったのだ。
とんでもイルージョンってレベルじゃない。
「ふっふーん。これがろくろ首のびっくりイルージョンの一つ、人魂飛ばしです!」
何故か誇らしげに胸を張る首藤さん。こっちとしては死ぬほどびっくりした。
ろくろ首って人魂も飛ばせんの?
「そのお顔はろくろ首ってひと玉飛ばせるの?という顔ですね。いいでしょう、説明します。」
「いや、しなくていいです。それより何の用ですか。」
「えっえぇ。聞いてくださいよぉ。」
長くなりそうなので、切り上げる。いい加減、なんで目の前に現れたのか知りたい。
首藤さんは肩を落としながら、私の隣に座ると微笑む。
「天空さんとお話したくて、探してたんです。人魂を使って探す方が早いので。壁とかすり抜けられますし。夜とかでない限り、よっぽど凄い霊力持っている人じゃないと見つけられませんから。」
「私霊力なんて持ってませんけど。」
「ふふ、天空さん冗談下手ですね。」
いや、冗談のつもりはなかったけど、これで確定かな。私って霊力あるのか。
これまで散々言われてきたしね。いい加減認めるか。
「それで話って?」
「昨日、多分大きなことがあったんじゃないかって。誰のせいじゃないしても、きっとたぶん、きっかけは私。だから、天空さん、いいえ、鈴華さんと離れてしまうような気がして。そうならない為に、なんでもない話をただ、したかったんです。」
首藤さんは微笑んで、私の手を握る。
なんか首藤さんがめちゃ可愛く見える。
いや元から美人なんだけど、なんだろ、このギューとしたくなる感じ。
多分私のことを考えてこうして来てくれたのがシンプルに嬉しかったんだと思う。
友達……みたいで。
そういう人私にはいないから。なんだか新鮮だ。
「何かあったことを話して欲しい訳では無いです。言えないことって誰にでもありますから。ただ、私はお友達を放っておきたくはないです。」
「お友達……いいんですか、私で。」
「はい。天空さんがいいんです。」
「嬉しいです。」
「私もです。」
お互いに顔を見合せて微笑む。
そこには確かに私が自分で勝ち取った景色があった。
後悔をしないために頑張った結果があった。
アキラに間違いだと否定された正義。
そもそもアキラなんて居なかったと否定する人達。
それでも私はアキラから貰った光を捨てることなんてできない。そしてやっぱり自分で見るまで、納得するまで、アキラが死んだなんて認めたくない。
それを思い出せた気がする。
捨てられないし、捨てる気もなかったことに気がついてなんだかスッキリする。
私は結局、自分が納得するまで変わることなんてできない。
だからこそ、やることは変わらないのかもしれない。
それしか方法を知らないから。
それでも傷ついて悩んで止まってしまっていることは事実だろう。
私は濁すように言葉を口にする。首藤さんになら、話していいと思った。
「……私昨日は色々あって、自分の価値観とかめちゃくちゃになってたんです。……好きな人にも余計なことはするなとか自分勝手に動いて正義を押し付けてるなんて言われちゃって。全部ホントのことですけど、訳わかんなくなっちゃって。……そんな感じです。」
「いいと思いますよ。私は。」
「え?」
迷いなく告げられた言葉。私は首藤さんの顔を覗き込む。
首藤さんは微笑みながら、垂れた前髪を耳にかける。
美しい所作に心を奪われていると、首藤さんは続けた。
「正義なんてそもそも人と分かり合うための自分の中のルールです。私はあなたの言葉にあなたの正義に救われました。自分勝手でいいじゃないですか。
その人もきっと、鈴華さんに正義でぶつかってきてくれたんですよ。きっとお優しいんです、その方は。
あなたに傷ついて欲しくなくてわざと遠ざけたんじゃないですか。」
その時、月に照らされたアキラのことが思い浮かぶ。
優しい月の光。
アキラは何も変わってなんていなかったんじゃないか。
私が外面に囚われていただけなんじゃないか。
首藤さんの言葉で止まっていた足が動く気がした。
もう後悔しないために。
きちんと進むために。
私は立ち上がった。
やることが定まったからだ。
「心は決まりましたか?」
「はい!さっそくお力を借りていいですか。やらなきゃいけないことがあります。」
「お易い御用です。」
「神威美琴さんを探して欲しいです。」
「美琴ちゃん……だね!……体育館裏にいるよ!」
首藤さんは意識を集中させると5秒ほどで、神威さんを見つけ出してくれる。
これが首藤さんの力。
「ありがとうございます!」
駆け出す私。首藤さんは立ち上がり声をかけてくれる。
「気をつけて!たぶん、近づきすぎると、よくないかもしれない!ただの勘だけど、二人には良くないモノがある……かもしれない!」
「わかってる……だからですよ。だから、私が拒んだらダメなんです!」
「ふふ、わかってるなら、大丈夫!行ってきて!美琴ちゃんを助けてあげて!最近元気ないから!」
同じ三年だったか。知り合いだったのね。
背中を押してくれる首藤さんの言葉に勇気が湧いてくる。
「ありがとう!おチグ!」
「まあ!」
わたしが愛称で呼んでみせると照れたように微笑む。
◆◇◆
体育館裏。視界に神威さんを捉えたところで止まる。
今はまだここまで。
「っ!?……鈴華にゃん。」
驚いた顔をして立ち去ろうとするが、私は大きな声を出して止めさせる。
「待ってください!そのまま止まって聞いて!」
「っ……なに。言ったよね、私、もう近づかないでって!少しはわたしの気持ちも考えてよ!」
瞳に涙を浮かべて声を荒らげる神威さん。
強くて余裕のある人だと思っていたから、その表情は心に響く。
でもここで止まる訳にはいかない。
「私、後悔したくないんです。大切な人に迷惑もかけたくないし、誰かを失うのも、自分の中の何かを諦めるのも嫌いなんです。」
アキラが死んだって聞いた時真底後悔をした。
やれること全てをやったかと何回も自分を責めた。
7年前何をしていたのかずっと責めた。
だからもう絶対に後悔したくないし、大切な何かを失いたくない。
夢を失って本当に苦しいから。
誰かにとって、きっと、みんな心の中にたった一つの光があって、それを失うのは本当に辛いから。
否定されても、私は私の正義をぶつけて、進むしかできない。
そのためのひとつは神威さんだ。
私はわがままだ。
でも、私はやる前から諦めたくなんかない。
この人を助けたい。
「私、神威さんの言葉、嬉しかったんです。私を見てくれている人がいるんだって。私の頑張りで、わたしの光で進んでくれたって。とっても、嬉しかったんです。だから、あなたとはこんな関係で終わりたくない。……絶対に何とかしてみせますから、諦めないでください!」
私は思っている言葉をそのまま伝えてみせる。
ただの決意表明でなんの意味もない。
でも神威さんにそんな顔でいて欲しくない。
好きなことを辞めなきゃいけないなんておかしい。
「だめだよ……そんなの。……私はまたあなたに依存して執着して傷つける!それは嫌なの!」
「舐めないでください!神威さんより気持ち悪い人いっぱいいましたから!わたしはあなたの都合のいい感情だけ受け入れます!」
「なにそれ。……でも、そこまで言われたら期待しちゃうんだから。……責任取ってよね」
神威さんは涙を浮かべながら微笑み背を向ける。
これでいいはずだ。
あとは口先だけじゃない。力が必要だ。
◆◇◆
私は生徒指導室の扉を勢い良く開ける。
「何となく来ると思ってたよ。」
すまし顔で海道くんは笑ってみせる。
「海道くん、私に戦うための力をちょうだい。」
「……それはなんのため?」
「神威さんを救うために。異形を倒すために。そして───────アキラを迎えに行くために。」
「いいよ、僕が君の力になってあげる。」
差し伸べられる手。暖かな笑顔。
その手を迷うことなく取る。
私はその日。自ら世界の深淵に足を踏み入れた。
自分の正義を貫くために。
光ともう一度会うために。
黒天使という亡霊の呪いに私は向き合う覚悟をした。
第1章を最後までご愛読頂きありがとうございます。このお話にて、第1章は終了となります。次からは第2章となります。お楽しみに。
また、よろしければ、ブックマークや評価、感想など頂けると嬉しいです。
ここから先は1章についてのちょっとした小話をできたらと思っています。興味のある方のみお読みください。
新作いかがだったでしょうか。序盤はかなりスローペースになってしまいましたが、エモーショナルなシーンを沢山入れて場面的には楽しい作品になったのかなと思っています。
意識した部分としては少女漫画のような華やかなで切ないストーリーです。空気感伝わっていたら、嬉しいです。
また事件簿的な要素も交えているので、事件や謎を楽しんで貰えたら嬉しいです。
次に章タイトルについてです。コレクトには沢山の意味が含まれていますが、1章の『collect』については『(子供を)迎えに行く』=『ご先祖さまが迎えに来る』=『先祖返り』という意味でつけています。その他にも亡霊とされているアキラを迎えに行く、主人公鈴華にとっての目的が定まるというのもコンセプトのひとつです。
1章はラストにかけて畳み掛けるように衝撃的なストーリーになっているので、驚いた方多いかもしれません。楽しんでいただけたら幸いです。
ネタバレになってしまうので、詳しくは言いませんが、小ネタを沢山仕込んでいるので、そこも含めて楽しんで貰えたら嬉しいです。
今回は以上となります。まだ1章ですので、ゆっくり楽しんで頂けたら幸いです。
いつも応援ご愛読感謝しております。第2章もよろしくお願い致します。




