1章6話 すれ違う正義
転校してから早二週間。
新生活にも慣れてきて、毎日があっという間に過ぎていく。
学校生活をこなしつつ、風紀員の仕事に追われていた。
犬飼が言っていた通り、風紀員の仕事はほとんどお悩み相談が中心となっている。
目的としては、思春期に起きる霊能力の覚醒をコントロールすること。
そのために心のバランスを保つため、私たちは日々お悩み相談を受けている。
だが、実際舞い込む案件は部活間の体育館の取り合いや失恋話、飼い猫を探して欲しいとか、部活の助っ人に来て欲しいとか、そんなものばっかり。
生徒達の認識としては、ただの便利屋ぐらいだ。
霊能者関連の問題が舞い込むと意気込んでいたものの、とんだ肩透かしだ。
───────ただ、あれから、神威さんとは話していない。
そのことだけが心の奥底にずっと引っかかり続けている。
◆◇◆
放課後の生活指導室には一人の着物を着た女性が来客していた。
茶道部の部長。三年の首藤チグサ。おチグの愛称で呼ばれる日本美人な人だ。
黒髪で、鮮やかな赤い着物姿で美しく、編み込んだ髪の毛を花の髪飾りでまとめており、美しいの一言に尽きる。
「それで相談というのは?」
海道君が正面に座り応対をする。私と犬飼は後ろに立ち、話を聞く。
「驚かないで聞いて欲しいのですが、ワタクシ、ろくろ首の家系でして………ここはそういったご相談もできるとお伺いしたもので………」
ろくろ首って実在したんだ。昔の文献だと見世物の一種だったとか。今で言うイリュージョンとか、マジック的な奴だって聞いたことあるけど。
「大丈夫ですよ。中々話しづらいですよね。気にせず話してください。」
「ありがとうございます。……新入生歓迎会の時のことでした。普段の稽古やお茶を立てる体験会のようなものを行ったのですが。部長になったばかりの私は緊張のあまり意識をコントロール出来ず、首をその、伸ばしてグルグルと伸ばし続けてしまって……」
首藤さんは恥ずかしのあまり赤面し両手を手で覆い隠す。
想像の範囲だと面白い絵面なんだけど、本人はとても恥ずかしかったんだろう。
それに多分、この手の話の行き着く話は容易に想像出来る。
「見事に新入生全員逃げられてしまい……こわい、とか、き、気持ち、わ、悪いと言われてしまって。度々冷やかすひとも来る始末でして……」
瞳に涙を浮かべる首藤さん。生まれ持った血のせいでこんな想いをするなんて間違ってる。
「お話はわかりました。でもそれはあなた自身がなんとかすべき事柄だと思います。」
「はあっ!?」
私はつい大声を出してしまう。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない!」
「いやだって、無理でしょ。一度広がった噂はどうにもならないし、僕たちが助けたところで何も変わらないよ。」
冷淡な物言い。それはそうかもしれないけど、切り捨てすぎだ。これはいつものように適当に流していい話じゃない。気の持ちようだって言われたら、それまでだけど、心だって傷つくから。
傷ついている時に誰かが手を差し伸べないといけないはずなんだ。
「じゃ、じゃあせめて力を抑える手段とか!」
私は必死に考える。どうしてもこの人を放っておけない。
「力の抑え方は首藤さん、わかってますよね。」
海道くんは鋭い眼光で言い放つ。首藤さんは図星だったようで固まる。
「え、なに?」
私だけ話についていけず、混乱する。そんな私を見てか犬飼が仕方なさそうに説明してくれる。
「よくいるのよ。私たちのこと舐めてかかってくるやつ。妖怪の生態は個体によっても異なるし教わる訳でもない。だから知らないだろうといいように話作って騙すの。」
「騙すって……」
「ま、首藤さんの場合、話聞いて欲しかっただけなのよ。お兄が言いたいのはそれは私たちの仕事じゃないってこと。首藤さんはどうしたらいいかわかってる。」
「はい……自分の感情を落ち着けること、それが力のコントロールです。霊力やほかの妖怪の力を持つ人と同じですよね。………私はあの日、集中出来ていなかったんです。部長失格です。……ごめんなさい、なんにもならない相談をしに来てしまって。……自分で解決、しますね。」
「ちょっと待って!!!!」
肩を落とし、部屋から出ていこうとする首藤さんの腕を掴む。
ただ相談をしに来た。話しを聞いてもらいたかった。
それの何がいけないことなのだろうか。
確かに、解決策をもう知っていてじぶんで行動するしかないのかもしれない。
それでも、私たちを頼ってきた。
それは怖いから。
それぐらい良いと私は、思う。
誰かに背中を押して欲しかった。
たった一つの勇気を求めてここに来たんだ。
だったら、私が背中を押す!
「部長失格なんて悲しいこと言わないでください!!!あなたを選んで任せてくれた人に失礼です!失敗なんて誰にでもあります!悪いのは人の失敗を馬鹿にしたり、冷やかす人たちです!絶対あなたのことを思ってくれている人はいます!だから、負けないでください!戦うための協力はいくらでもしますから!!!」
私は勢いに任せて言葉を吐き出す。10年前アキラが私を照らしてくれた言葉を思い出しながら。今この場で私ができることを、思いつく限りの言葉をかけ続ける。
「……ありがとうございます!」
涙ぐみながら微笑んでくれる首藤さん。私はほっとする。
神威さんのようにならずに済んだだろうか。
少しは力になれただろうか。
海道くんだけが目を見開いて驚いていた。
◆◇◆
次の日。首藤さんは笑顔で登校していた。きっと、大切な誰かと前に進むことができたんだろう。
良かった。今度茶道部見に行こうかな。
お昼。
いつの間にか日課になっていた屋上での昼食。
相変わらず美味しい犬飼のお弁当を食べ終わり、ベンチでひと休憩。
私は少しだけ満足感に浸っていた。はじめてのまともな相談を上手く解決できたと思ったからだ。
こういうことは気分がいい。誰かの力になれたという気分になり、嬉しくなる。
刹那。扉が開け放たれ海道くんが現れる。
「えぇ……」
私は露骨に嫌なそうな顔をしてみせる。昨日の件で冷たい人の印象が追加されたからだ。
「そんな嫌な顔しないでよ。」
「また相談入ったの?」
「ううん。ちょっと話したいなって。ダメかな。」
「……別にいいけど」
「よかった。」
海道くんは微笑むと、私の横に立ってフェンス越しに校庭を見下ろす。
なんだかいつもより大人びた雰囲気に見える。
最近一緒に過ごしてみてわかったけど、この人はとことんマイペース。
おっとりしているというか、良くも悪くも自分のリズムを崩さない。
犬飼や雉木さんとは異なり使用人らしくない。
ふたりは頑なに一緒にご飯を食べようとしないが、彼は普通に食事を一緒に取る。
料理全般と洗濯は犬飼がやってくれるし、雉木さんはだいたい全部の家事を任されている。
海道くんはたまにお風呂掃除と食器洗いをしているぐらい。
まあ、バイトで家を空けていることの方が多いし、仕方ないんだけど、どうしても使用人という感じがしない。
私の護衛という事なのかな。
「話って何?」
しばらく海道くんの横顔を眺めて思考を巡らせていたが、一向に話し始めないので、私から尋ねてみる。
「風紀員始めて、というか、こっちに来て二週間経つけど、どうかなって。」
「どうって……別に普通だけど。あれから異形とか先祖返りにも遭遇してないし。」
「だよね。」
「話ってそれだけ?」
「ただ意外だったって思って。」
「……なにが?」
「もっと迷惑そうにするのかなって思ったけど、すごく真面目に取り組んでくれてるよね、風紀員。」
「自分でやるって言ったことだし。」
「べつにやらなくても良かったんじゃないかって思ってさ。」
「どういう意味?」
「この件に積極的に関わる意味が分からなくてさ。」
「あなたたちがやれって言ったんじゃない。」
「言ったのは先生だけだよ。僕は全然断って良かったと思ってたよ。というか、断ると思ってた。……異形や先祖返りから守るのは霊能者の勤めだし。僕は君を守ることを命令されてるしね。」
確かにそうだった気がする。断るなんて選択肢あの時の私の中にはなかった。
それにしても海道くんの言い方は私の中の何かに触れた。
端的に言うなら、少しイラッときた。
伸びをしながら、まったりと話す海道くん。
彼にとっては当たり前のような言葉だったのかもしれない。
でもそれは、『役割ならやるのわかるけど、君はなんでやるの?』そんな風に言いたげだったからだと思う。
またこの感覚だ。この一族には共通して、『役割だからやっている』そんな縛られたような、自分の意思じゃないような言葉が見られる。
力ある責任を放棄しているに感じて私は不快だ。
それでも何とか怒りを堪えながら、自分の想いを吐露する。
「……誰かが傷つくってわかってて放って置けるわけないでしょ。それにそれが自分が影響与えてるなんて言われたら。」
私は私の意思で正しいと思うことを選択した。その想いを伝える。彼らの縛られた想いと一緒にされたくなかったからだ。
「君がもし本当に影響を与えてしまうと言うなら、むしろ関わらない方がその人たちのためなんじゃない?それに昨日の件はどう考えても干渉しすぎ。」
私の苛立ちに気がつくこともなく踏み込んでくる。
海道くん的には昨日の件は気に入らないらしい。
でも海道くんが言おうとしているのは、わたしに見て見ぬふりをしろ、傍観者になれ、だ。関係ないんだから、頑張るな、そう言いたげだ。
海道くんは変わらず純粋な眼差しで『なんでそんなことするのか分からない。』という顔で見つめてくる。
彼にとっては単純な疑問符。
それがなによりも、バカにされたような気分になってくる。
私は我慢できず、怒りのこもった溜息が出る。
「さっきから何が言いたいの?私が邪魔だって言いたいの?」
「そんなことは言ってないよ。一緒に風紀員やれて楽しいよ?」
私の怒りも全く意に返さず笑ってみせる海道くん。私は意地になってあえて踏み込む。
「じゃあ聞くけど。海道くんはなんでこんなことやってるの?」
「別に理由なんてないよ。」
「え?」
我ながら間抜けな声が出た。意味がわからなかったからだ。
「やれるからやってるだけ。これが僕の役割だから。」
「なによそれ。力があって、役割も与えられてるのに、それしかないって?ふざけてんの?」
考えるより先に言葉が出ていた。私が苛立っていた正体はこれだ。
やるべきことがあって、やれるだけの力があって、それなのに彼らには一貫して想いが欠落している。
それは私にとってどうしようもない苛立ちになっていた。
やりたくないなら、やらなければいいのに。
───────だって、ずるいじゃん。
私はずっと自分の在り方に苦しんで迷い続けてるのに。
何も無しに手に入れた力を、何も無いままにやるだけなんて。
わたしが馬鹿みたいじゃん。
「教えてよ。君はなんでそんなに頑張ってるの?もしかして神威さんのこと気にしてる?もしそうなら、別にそれは君が抱えるものじゃないと思うんだけど。」
「うるっさい!!!」
つい大きな声が出る。
多分図星だったからだ。
文句を言いながらも、与えられた役割が嬉しかったから。
やるべき事だと思いたかったから。
神威さんのように周りをそうしたくなかったから。
ここで諦めたら、自分の中の憧れが絶対に届かなくなるから。
私は必死になっていたんだと思う。
それを見透かされた。
「言い方が悪かったなら、謝る。でも、僕には分からない。分からないから、教えて欲しいんだ。」
「やりたくないなら、やらなければいいじゃん!私は、今の私にとっては必要なことなの!」
私は立ち上がり怒りをそのままぶつけると、屋上を後にする。
「───────僕はただ、君が羨ましいんだよ。」
◆◇◆
放課後の生徒指導室。
今日はまだ誰も来ていない。早く来すぎただろうか。
海道くんは来ないかもしれないな。
自分が必死すぎて恥ずかしい。
あんな風に怒って。
後で謝ろう。
刹那。コンコンとノック音が響き、見覚えのある顔が入室する。
昨日相談に来た首藤さんだ。今日は制服だが、相変わらず華やかな印象だ。まだ部活前だろうか。
「昨日はありがとうございました。あの後副部長に相談して、気持ち的にもなんとかなりそうです。」
「それは良かった。……えっと、それでなんでまたここに?また何かされたんですか?」
「い、いえ。昨日実は相談出来なかった事があって………天空さんにだったら話せるかなって。」
「相談できなかったこと?」
「私───────ストーカーされているんです。」
「っ!?」
ストーカー……!!
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥から殺意が湧いてくる。
こんなのぜったい放っておけない。ストーカーの怖さとストレスは私が一番よくわかってる。
絶対に許しちゃいけないことだ。
「私でよければ話聞きます。」
「ありがとうございます。」
首藤さんの話はこうだった。
新入生歓迎会以来、帰り道や出かけた際強く視線を感じるようになり、今は彼氏である副部長と仲良くなってから嫌がらせがエスカレートしてきたと言う。
後ろ姿や彼氏と二人で出かけている時の写真を毎日ロッカーに入れられてるとの事。
昨日相談に来たのは、首藤さんが一番気にしている首が伸びた写真を彼氏のロッカーに入れられたからだそうだ。
本来はストーカー被害の方を相談しに来たのだが、怖くて話せなかったと言う。実際冷やかされたり嫌がらせされたりしているという点では含まされており、海道くんがあんな冷たい対応しなかったら、話してくれたんだと思う。
「ひっどいですね。」
「まったく誰がやっているのか検討もつかず。彼氏がいつも一緒に帰ってくれてますし、外出る時は誰かと一緒に出ていて、直接なにかされた訳じゃないんですけど………怖くて」
「分かります。私もストーカーされた事ありますから。今日はいつものように帰ってください。多分私、何とか出来ると思うんで。」
「本当ですか!?ありがとうございます!で、でも無理はしないでくださいね……?証拠とか見つけてくれるだけで警察に相談しに行きますから。」
「わかってますよ。なにかそっちでもわかったら、教えてくださいね。」
「は、はい!やっぱり天空さんに相談してよかった!」
首藤さんは不安が無くなったかのように満開の微笑みを見せてくれる。
さて、ひと仕事しますか!
◆◇◆
首藤さんの話では決まって、放課後のロッカーに写真は入っているという。
ということは、首藤さんが部活のタイミング。それもひとがいないタイミングで入れているはずだ。
そしてストーカーなら、写真を見て不安になっている様子を見ているはずだ。
放課後の玄関は人も少ないし、うちの学校のロッカーは鍵がない。
だれでも簡単にイタズラできてしまう。
だから写真を入れるタイミングを抑えることは難しい。
もしできるとしたら、帰宅前を狙った盗撮と尾行。
私はロッカーが並ぶ部屋から部活棟へ向かう階段で息を潜める。
変な構造をしている学校で助かった。
ロッカー室、廊下、玄関。そこから体育館へ繋がる道、文化系の部室に向かう道と変な作りになっている。
部活が盛んな学校だからなのだろう。
色んな建物を無理やり繋いだような構造をしている。
特にここのロッカーが並ぶ場所から伸びる謎の階段。本来はこの上に運動部の準備室があるのだが、全く使われていない。
ばしょがばしょだからだろう。ほとんど物置だ。
だが、今回に限っては嬉しい限りだ。ここからなら堂々と待ち伏せできる。
ひとまず今日はここから帰宅まで待機してみよう。
スマホの準備もバッチリだ。
待つこと数分。
一人の男子生徒が文化系の部室の方から戻ってくる。
忘れ物だろうか。
「っ!?」
私は思わず息を殺した。
その男子生徒は歪んだ表情でポケットから写真を取り出し、首藤さんのロッカーの前で止まった。
まさかいきなりこんな場面に遭遇するなんて。
私はバレないよう静かに写真を撮る。
そして、気がついたら、私は男子生徒の前に出ていた。
「なにやってるんですか。そこ首藤さんのロッカーですよね?」
高圧的に責め立てる。全てわかっている。これでもうこの男は終わりだ。
「ちが………」
誰もいないと思っていたのだろう。私が声をかけただけで酷く動揺してみせる。
「何が違うんです?その手に持ってる写真はなんですか?なにかやましい事でもしてたんですか?」
「おま、おおおお、お前には関係ないだろ!」
明らかな動揺が見られる。冷や汗も止まらず、目が泳いでいる。
「そうですね。だから、見せてください。疑いを晴らすために。」
私は一定のトーンで話し続ける。冷静に一歩ずつ距離を詰めて。
「ダメだ!これは人に見せられない!」
私を拒絶するように後退する男子生徒。
「なんでです?やましいものじゃないなら、見せられますよね?」
私は構わず距離を詰める。あと一歩で写真を奪える。
「うぁあああああああ!!!!!」
刹那。おとこは大声を出し走り出す。
「逃がさない!!!」
私は男を追いかけ始めた。
◆◇◆
たどり着いたのは屋上。
玄関をふさぐ形で立っていたんだ。逃げ道はここぐらいしかないだろう。
相手は文化系の部活。
たぶん茶道部。
ずっとトレーニングしてきた私に敵うはずはなかった。
肩で息をし地面に転がる男。
手に握られていた写真を奪い取る。
そこには着替えを行う首藤さんの写真があった。
「ビンゴね。」
これ以上ない証拠だ。
「お前……!!何がしてえんだよ!!!ひとの恋路邪魔してんじゃねえよ!!!」
「人の恋路邪魔してるのはあなたでしょう?醜い嫉妬で好きな人に酷いことして最低なんだよ!」
「かっ……!?」
「なによ。言いたいことあるなら言ってみなさいよ。」
「俺が俺が!!!ずっと守ってきたんだ!それなのに、それなのにあいつは!!!あんな顔だけの男を選んで!!!ふざけるなぁあああああ!!!!」
こいつがどんな思いだったかなんて知りたくもない。身勝手な想い押し付けて人を不幸にした。
「終わった?頑張って聞いてみたけど、結局あなたは自分が向けた愛がかえってこなかったから、酷いことしたってことでしょう?自分勝手で醜くて最低よ。」
「お前に……お前に何がわかる!!!!!俺の想いの何がわかる!!!!」
「知るわけないしどうでもいい。気持ち悪い。」
「……なっ」
刹那。
全身に不快感が走った。
恐ろしい悪意の増幅。
目の前の男は黒い影に飲まれていく。
「………異形!?」
「がああああああああああ!!!!!」
私が悪意を増幅させたから?
そんな……
呆気に取られる私の首を影は掴み、侵食してくる。
「あがっ……!?」
「コロシテ……やる!!みんな、みんな、みんな!!」
ストーカー行為も異形による執着の増幅?
私はまた間違えたの?
ダメだ……息ができなくて、頭回んない!
刹那。
黒い羽が私の視界に入った。
「アキ、ラ……!?」
鋭い一閃。
異形の闇を簡単に切り裂き、異形は転がり私から離れる。
目の前に舞い降りた黒天使は、美しい銀髪を揺らしながら紫紺の瞳を向けてくる。
「……またお前か。」
相変わらず冷たい視線。
私は膝を着きむせ込む。段々と息が整って、アキラを見上げる。
「……アキラ」
「なんだおまえはぁあああああ!!!!」
立ち上がった異形は陰に飲み込まれながらも、アキラを敵視する。
「通りすがりの霊能者だ。悪く思うな。」
「お前が黒天使か!」
アキラは異形の言葉を聞くことなく飛び上がると、回転し異形を切り裂く。
黒く美しい羽が舞い落ち、異形の影は跡形もなく消えていく。
そして元の男子生徒が地面に転がっていた。
「……俺はただの亡霊だ。」
「た、助けてくれてありがとうアキラ!」
私は笑顔でアキラに近づくが、首元に刃を向けられる。
「正論だけが正しい訳じゃない。違うか?」
「えっ……」
偶然だろうか。その言葉は私が拓ちゃん先生に向けたものだ。
私が男子生徒を異形化させたのを見ていたのだろうか。
過去の自分の発言が自分を苦しめる。
「アキラは私が間違ってたって言うの?」
「そうは言わない。だが、誰かを頼っても良かったはずだろう。もっと別の方法があったはずだ。お前は自分の正義をこいつに押し付け追い詰めただけだ。」
「ちが……!!私は首藤さんのために!」
「違うな。お前は自分のために動いた。」
「なっ……」
「これに懲りたらもう余計なことはするな。お前はただ黙って見てればいい。」
背を向けるアキラ。アキラまでそんなこと言うの。わたしの何がいけなかったって言うの。私はただ、あなたみたいになるために頑張ってきたのに。
「ふざけないでよ!私は貴方みたいになるためにここまで頑張ってきたの!守りたい人のために強くなろうって!誰かの光になりたいって憧れてきたの!それを、それだけは、あなたにだけは否定されたくない!」
「勝手に幻想を押し付けるな。俺にもう守るべき人はいない。ただ抜け殻のように異形を狩っているだけだ。……いいか?お前には人を守る力なんてない。命が惜しいなら大人しくしているんだな。」
「ならアキラが私を守ってよ!!!わたしに答えを教えてよ!!!」
自分でも何を言っているのかよく分からなかった。
ただひたすらに答えを求めているだけだ。
今の私は自分の正義に自信を持てない。
人に否定されたら、簡単に揺らいでしまう。そんな脆いものなんだ。
私はアキラの袖を掴み泣きじゃくる。
わたしはどうしたらいいの?もうわかんないよ。
刹那。風が吹き荒れ、私とアキラの間に一人の青年が現れる。
黒髪の長髪。後ろ髪をゴムでまとめ、右目を長い前髪で隠している。雉木さんのような紳士服に身をつつみ、高圧的な視線で見下ろしてくる。
「ぐっ!?」
私は風圧に耐えきれず、その場に倒れてしまう。
「それ以上の狼藉は許さんぞ娘。主をこれ以上困らせるな。」
「なによ……あんた!!!!わたしは今アキラと話してるの!!!!」
怒りに身を任せて立ち上がらろうとするが、右足に激痛が走り、足に傷ができていることに気がつく。
「なにこれ…っ!?」
「カマイタチの呪いだ。俺が癒すまで傷が無くなることはない。」
「ふざけないでよ!誰なのよ!あんたは!!!」
「聞かれたからには答えよう。俺は『霧隠 猿飛』アキラ様を守るシノビ一族だ。」
もうひとりのシノビ一族?この人が?
アキラを守る?いったいどういうこと!?
「質問には答えた。二度と余計なことはするな。」
「ちょっ……!!!」
刹那。また強い風が吹き荒れアキラと共に消えていく。
アキラは最後までわたしを見てくれなかった。
せっかくまた会えたのに。こんなのって。
私はどうしたらよかったの?教えてよ。
茜色に染まる空。足の傷だけが癒えて、心はぐちゃぐちゃだ。




