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【挿絵のみAI使用】琴線のコレクト〜異形殺しの黒天使と必然の少女〜【なろう限定】  作者: パスタ・スケカヤ
第1章 collectー先祖返りー

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1章5話 踏み入れた世界の景色


 翌朝。目を覚ますと、懐かしい天井が視界に入る。


 洋風な屋敷に旧世代の家具。レトロなインテリアが次々に目に入る。無駄に豪華でホテルに来たのかと錯覚する。


 昔に何度も来ていた屋敷は変わらない。


 ───────そうだった。昨日からここに住み始めたんだ。


 昨日の傷は嘘のように消えていて、体も動かせる。


 時計を見ると時刻は6時。疲れてすぐ寝たから早くに起きたらしい。


 体が痛かったら休もうと思ったけど、調子はかなり良好だ。


 よかった。


 さすがに、転校してきた次の日に休むのはちょっとね。


 布団部屋の開け放たれているクローゼットを見やると、汚れひとつない制服がかけてあった。


 だれか洗ってくれたのだろうか。


 体も元気だし、不思議なことがいっぱいでまるで昨日のことに現実味がない。


よく見ると部屋の隅に私が送った荷物が積まれている。さすがに荷解きは自分でしないとね。


 わたしはベッドから体を起こし、寝巻きのまま下の階へと降りる。


この家に引っ越してきたという現実味だけは、何となく理解できたかもしれない。


 


 「げっ…!?」


 下の階へと降りると、キッチンで制服にエプロンを着用し料理をしている犬飼と鉢合わせる。


 犬飼はとても嫌そうな顔で睨みつけてくるが、私は気にせず声をかける。


 「あ、そうか。あんたもいるんだったわね。」


 「か、勘違いしないでよ!?別にあんたの為に料理してた訳じゃないんだからね!?」


 朝からキャンキャンうるさくて耳を塞ぐ。だが、どうやら、ご飯を作ってくれたようだ。


 一体どういう風の吹き回しだ。


 寝起きで頭が回らずそのまま質問する。


 「え、ご飯作ってくれたの?」


 「いや、だから!これは仕事!使用人の!あんたのためじゃない!」


 使用人としてご飯を作った、と強く主張する犬飼。それはつまり巡り巡って私のためになるんじゃ?


 回らない頭で思考を巡らせていると、犬飼は手早く料理をお皿に盛り付け、別に用意してあったお弁当箱を私に押し付けてくる。


 「え、なにこれ。」


 「見ればわかるでしょ!お弁当!」


 「え、ありがとう。」


 「ふん!さっさと用意しなさいよね!……お兄と美琴さんは先に話してるってさ。7時には学校に来ること!……そんだけ!」


 乱暴にエプロンをラックにぶら下げると、そのまま玄関に置いてあった鞄を背負い出ていく。


 なんなんですかね、あの子は。


 神威さんも海道くんももう出かけたのか。昨日ずっと眠ってたみたいだし、色々話を先に済ませてるのかな。


 それにしても7時登校か。部活とかしたことないから、朝練みたいで新鮮ね。


 というか神威さん昨日相当アキラに斬られてたけど、めっちゃ元気じゃん。


 私も回復してたし、特殊なパワーとかで何とかなったのかな。


 というか、犬飼のやつ、私のお世話してるじゃない。


 「……昨日はあんなに嫌がってたのに。」


 「おはようございます。天空様。」


 「おわぁあああああ!?」


 刹那。気配もなく突然現れた雉木さんの声に飛び上がる。


 「びっくりさせないでくださいよ!!」


 私は振り向き、驚きと怒りを交えて抗議する。


 「これは失礼。後ろがガラ空きだったもので。」


 雉木さんはすまし顔でチョップのような手刀のポーズを取ってみせる。


 「なにその暗殺者みたいな言い回し。」


 「……暗殺者、ですか。言い得て妙ですね。私たちはシノビ一族。忍ぶのが役割。主を外敵から守り、主の敵を陰ながら葬る。暗殺者と何も変わりませんね。」


 忘れてた。そういえば、この家の使用人面倒な一族だったんだ。


 「そ、そうですか……お気に召されたようで、何よりですよ。」


 私は冗談なのか本気なのか分からないトークを引き気味に切り上げて質問を始める。


 昨日は混乱しててまだ整理できていない部分があるからだ。


 「……ところで、犬飼も使用人、シノビ一族って認識で間違いないですか?」


 「ええ。もうひとりの使用人もシノビ一族ですよ。」


 「そうなんですね。でも犬飼も、そのもう一人?も私のお世話はしないって……」


 「ああ、なるほど。その事ですか。」


 犬飼が普通にお弁当やら朝食やらを作っていたのを見て、改めて私は確認してみた。


 一緒に住むならルールの確認は大切だ。


 実際、私は一人暮らしするつもりだったわけだし。本来はお世話なんていらないからね。


 雉木さんは私の言葉の意図を理解すると、私を席に座らせ朝食を並べ食べるように促す。


 「でもまずは、お食事に致しましょうか。せっかく皐月が作ってくれましたからね。」


 「え?あ、はい。」


 わたしは促されるまま食事を開始する。そういえば、昨日の夜は色々あって何も食べていないんだった。


 料理を前にしたら、急にお腹がすいてきた。


 私は犬飼から貰ったお弁当箱を横に置き、ひとまず朝食にすることにした。


 


 キャベツの千切りにブロッコリー、スクランブルエッグにウィンナー、バタートーストにコーンスープ、コーヒー。


 シンプルだけどオシャレで綺麗な食事に感動する。


 ほんとにこれ犬飼がつくったの?どれもとても美味しそう。


 私はまずサラダから口にする。シャキシャキとしたキャベツの瑞々しさが朝食に程よい。


 ブロッコリーも茹でたあと冷やしたのだろうか。よく締まっていて美味しい。


 玉子もウィンナーも味付けがしつこくなく食べやすい。パンと合わせることで絶妙な美味しさを表現しており、口の中が飽きない。


 コーンスープはパンのしつこさを流すように優しい味。


 コーヒーをひとくち飲むことで穏やかな気分となり、口の中がリセットされる。コーヒーは苦手なんだけど、とっても飲みやすい豆だ。こんなに変わるものなんだ。


 なんて優雅な食事なのだろう。


 「はっ!夢中で食べてた!?」


 「昨晩は何も口にしなかったですもんね。蒼白い肌で色んな話をしても、きっと頭に入らないだろうと思いご配慮致しました。」


 「あ、ありがとうございます。……雉木さんは食べないんですか?」


 「使用人が主人と食事を囲む訳にはいきませんよ。ごゆるりとお召し上がりください。」


 「あ、はい。」


 別に私は気にしないが、徹底してるな。そういうものなのか。


 「どうです?皐月の料理はお口にあいましたか。」


 食事を終えたタイミングで食器を片付けながら、雉木さんは話しかけてくる。


 「普通に美味しかったですよ。無駄に丁寧というか、配慮しすぎなぐらい。」


 「それは良かった。昨日お金持ちの食事、オシャレな食事、映える食事など沢山調べておりましたからね。」


 「あいつバカにしてんの!?」


 「人様に作る時は色んなことを考えるものですよ。口は悪いですが昔から負けず嫌いで努力家なんです。」


 「それは見てたら分かりますけど。昨日はあんなに嫌がってたのに。あいつはどういうつもりなんです?」


 「昨日のあれは、あなたのお世話はしないと言ったのですよ。使用人の仕事はするということなんでしょうね。」


 「めんどくさ。なんだアイツ。」


 「そう邪険にしてやらないであげてください。我々は主を失った身。色々心境的には複雑なんです。」


 「……別に私は、やりたくないならやらなくていいって思っただけです。おじいちゃんに命令されて嫌々お世話されるなんて御免。それだけです。主がもういないって言うなら、役割に縛られることもないんじゃないですか。」


 私はつい口走ってそのまま立ち上がる。他所様の家の事情に踏み込みすぎただろうか。でも止められなかった。


 いつまでも役割に囚われてるこの家が不愉快に思った。

 


 私と同じに思えたから。


 誤魔化しながら演じ続けて、心をすり減らしたから。


 答えは見えず、まだ探している。それでも、今は少し楽。そう思っているから。


 偉そうなことはわかっている。それでも我慢できなかった。

 


 「……そういう訳にはいきませんよ。だって……」


 「だって?」


 雉木さんは細い目をゆっくりと開けて私と目を合わせる。


 感情のない瞳。漆黒の瞳には光は灯っていない。


 「……おじい様から援助切られたら、生活難しくなってしまいますぅううううう」


 「ああ、そういう……」



 神妙な面持ちで何を言うのかと思ったら、嘘泣きをしてみせる雉木さん。この人どこまで本気か分からないな。


 援助をする代わりに私のお世話しろ、ってことなのか。あとは家の管理もこの人達にやらせているのかもしれない。元々はこの人達が守るはずだった家なんだし、当たり前なんだろうか。


 でも、何故か言い表せないもどかしさがあった。別にもうこの家出ていって好きに暮らしていいじゃない。


 おじいちゃんなら、むしろそうするはず。シノビ一族はこの家に自分から縛られている気がして、どうしても受け入れ難い。

 


 「……私シャワー入って学校行きますね。」


 嘘泣きを続ける雉木さんを他所に、わたしは考えるのをやめて学校へ行く準備を進めることにした。なんだか、無駄な気がしたからだ。


 



 「……役割に縛られなくてもいい、ですか。」


 「……?なにか言いましたか?」


 「いいえ。なんでも。」


 雉木さんは去り際小声で何か言ったように聞こえたが、いつものようにニコニコと笑って見せた。


 ───────そして一瞬、煙のような匂いがした。



 ◆◇◆




 学校へ到着すると、教室の前には犬飼と海道くんが待ち構えていた。


 まだ朝早くで、朝練の生徒ぐらいしか視界に入らない。


 「やっと来たし。」


 「おはよう。天空さん。」


 「……おはよ。」


 私は少し不機嫌になりながら挨拶を交わす。


 朝練みたいでワクワクしていたが、そういえば面倒な話の続きをするんだった。


 海道くんの顔を見たら、そのことを嫌でも思い出してテンションが露骨に下がる。


 「それじゃあ、行こうか。」


 「行くってどこに?」


 「僕たちが所属している風紀員。その拠点、生活指導室、だよ。」


 「風紀員って霊能者関連なの?」


 「まあ、そうなるかな。」


 「最近はほとんどお悩み相談室だけどね。」


 「……お悩み相談室?」


 よくはわからないが、歩き出した二人について行く事にした。


 「ところで神威さんは?」


 私は姿の見当たらない神威さんを探す。あれからずっと会えていない。


 「先にお話して、今は朝練行ってるよ。」


 「そう……その、元気なの?」


 「すこぶる元気ね、あれは。」


 「話があるって言ってるのに、朝練があるから早くして!って急かされちゃって。」


 なるほど。それでふたりは早くに家を出ていたのか。でも元気そうで安心する。


 「……良かった。」


 「呑気なものね。」


 わたしがふと零した安堵の言葉に犬飼は突っかかってくる。


 「……なにが?」


 「アンタよ。」


 「私のどこが呑気だって言うのよ。」


 「呆れた。自覚ないわけ?」


 「だからなによ。」


 「あんた昨日───────殺されかけたのよ?」


 「………っ!?」


 犬飼のその言葉に昨日の出来事がフラッシュバックする。


 忘れていた訳じゃない。まだ飲み込めていないんだ。


 昨日の出来事が現実だったなんて。


 恐ろしい姿に豹変した神威さん。


 異形と変わらない影を纏って、私を喰らおうとしていた。


 「……うっ……」


 思い出したら吐き気がしてくる。立ちくらみがして壁に手をつく。

 

  鼓動が高鳴って、発作が起きていると自覚する。


 「天空さん!?」


 海道くんが私を気遣って近づいてくるが、その姿は私を刺したストーカーに見えてきて床に膝を着く。


 「ま、待って!!!こないで!!!」


 「……え?」


 「大丈夫……だから」


 ゆっくり深呼吸をして気分を落ち着かせる。


 目の前にいるのは海道くんで、私を刺した男はもう捕まってる。


 この土地に私の知り合いは誰もいなくて、ここには大切なアキラとの思い出がある。


 犬飼が作ってくれた朝のご飯は美味しくて、私も今まで通り普通に食べることができた。


 誰も頼れる人がいない場所でもちゃんと寝て、今学校に来ている。


 大丈夫、大丈夫。


 私はちゃんとやれている。昨日のあれば神威さんの意思じゃない。何か悪い現象のひとつ。


 犬飼も心配して警戒心を煽っただけ。

 

  海道くんも心配して近づいてきただけ。


 大丈夫だから。


 「すぅー、はぁー。」


 瞳を閉じて深い深呼吸。


 現実にきちんと帰ってこれた気がする。


 鼓動も落ち着いて吐き気も消失する。


 私はゆっくりと立ち上がる。


 瞳を開けると心配そうに見つめる二人の顔があった。


 「……ごめん。収まった。……もう大丈夫。」


 「よかった。」


 すこしバツが悪そうに微笑む海道くん。悪い事をした。心配して近づいてくれたのに、怖くなって拒絶してしまった。


 「……ごめん、海道くん。……私男の人が怖いの。」


 「そ……うだよね。僕こそごめん。少し考えればわかる事だった。……気をつけるよ。」


 私のその言葉だけで察したのか海道くんはすこし私から離れる。


 胸の奥が少しだけズキッとした。


 海道くんが悪い訳じゃないのに。


 「……悪かった。考えなしの発言だった。」


 犬飼は辛そうな顔で謝ってくる。


 まるで昔に何かあったような、思い詰めた表情だった。


 「……考えないようにしてたんだと思う。現実味がなくて。……だから、覚悟は足りなかったと思う。今ので準備できた。ちゃんと何が起きているのか、教えて欲しい。何も知らないで守られるのは嫌だから。」


 「……お兄と同じこと言うんだね。」


 犬飼は小さく何かを呟いたが、私の耳には届かなかった。


 「え?」


 「なんでもない。先生待ってるから行くよ。」


 切り替えるように歩き始める犬飼。


 「だね。行こうか。」


 「……うん。」


 海道くんも優しく微笑んで前に進んでいく。私はそんなふたりにゆっくりついて行った。



 ◆◇◆


 たどり着いた生活指導室。


 扉を開けると、大きい窓から光が差し込む。


 奥のデスクには、カタカタとパソコンのキーボードを打つ拓ちゃん先生の姿があった。


 中央には長机が用意されており、右側にホワイトボード、左側に色んな書類が収められた棚がある。


 普段入ることのない部屋に新鮮さを感じる。


 「「「失礼します。」」」


 三人揃って入室すると「おっ!来たな!座ってくれ!」と先生に応対される。


 促されるがまま長机の前に置かれた椅子に座り込むと、先生はデスクに腰掛け私たちを見下ろす。目線を私に向けると先生は話し始める。


 「昨日は大変だったな。どうだ、調子は。」


 「なんとか、大丈夫です。」


 「そりゃあ、良かったな。まさか、お前が転校してきた初日に、ずっと正体を見せなかった神威が先祖返りするなんて驚きだよ。やっぱ御三家は違うねえ。」


 「は、はあ。」


 先生から飛び出す言葉の数々は、昨日の出来事を知らないと出ない言葉だ。


 改めて先生も霊能者関連の人なんだと理解する。そういえば貰った名刺にも、そんなことが書いてあった気がする。


 


 「でだ。単刀直入だが、天空、おまえ風紀員になれ。」


 「風紀員……ですか?」


 「そ、学校のお悩み相談室兼何でも屋。生徒たちの悩みを解決して風紀を正すのが仕事だ。な?簡単だろ。」


 「簡単では無いと思いますが、なんでそんなことやらないといけないんですか。話が全く見えてこないんですが。」


 「昨日の件で、天空が異形化のトリガーになることはわかった。」


 「先生!そんな言い方しなくても!!!」


 立ち上がり抗議する海道くん。


 わたしは先生の言葉の意味が分からなかった。


 「私が異形化のトリガー?」


 「そうだ。神威はずっと監視対象で見守っていたが、ずっと謎めいていた。異形化のリスクはあったが、生活態度も特に問題なく、部活に熱心だ。そんな奴がお前と会って話をしただけで異形化した。俺たちはお前を放置することはできない。」


 「私何もしてません!」


 覚えのないことを先生に言われて腹が立った。私は被害者であり加害者ではない。


 「……先生、美琴さんは天空鈴華の熱狂的なファンですよ。執着から異形化した線もあるでしょ。」


 苛立ち話が見えなくなっていたところに冷静に話す犬飼。

 

 あれ、助けてくれた?


 「へえ。犬飼が御三家を庇うのか。」


 「別に。霊能協会も嫌いだから。」


 先生と犬飼が雰囲気悪く話す。何この空気。仲間じゃないの?


 「あ、あのね、ふたりが言ってるのはあくまで憶測なんだ。どちらの可能性もあるかもしれないし、無いかもしれない。それぐらい異形化のことってわかってないんだ。でもキミが襲われる可能性があるって言うのは理解して欲しい。」


 二人の悪い空気を察してか海道くんが割って入る。ようやく少しだけ話の内容が見えてくる。


 「だから、私を近くに置いておくことで守ってくれるってこと?」


 「うん。プラスに考えるならそうだね。どちらかと言うと、現れるかもしれない異形や先祖返りに対抗するのが目的かな。」


 「話はわかったけど、別に風紀員になる必要はないんじゃないですか?」


 「海道も言った通り、異形化のことはほとんどよくわかっていない。お前はどこまで話を聞いてる?」


 「妖怪の血や霊能者の血がそれを引き起こすって。それぐらいしか。」


 「そう、今まではそれで済んでいた。だが、神威みたいなやつが現れてその理論じゃ当てはまらない事象も増えてきたんだ。」


 「妖怪の血や霊能者の血がなくても異形化する……ですか。」


 「そうだ。それによって新たに考えられた異形化の条件が『御三家の関わり』と『思春期における霊能覚醒現象』だ。」


 「なんですか、それ。」


 「そもそも、人ヤ妖怪が異形になったのは、日本が初めてなんだ。それまでは原因もわからず別次元から現れる悪の存在として、1000年もの間、霊能者や妖怪が戦ってきた。」


 おとぎ話でもそうだった。


 突如、世界に現れた異形は世界を侵食し始め、文明を滅ぼし始めた。


 誰もが滅びるのを受け入れたその時、力に目覚めた霊能者、進化した動物や花、つまり、妖怪が異形に対抗する力を得て悪を滅ぼして行った。


 平和を勝ち取った世界。妖怪と人は手を取り合い生きていくことになる。


 そして残された人々は進みすぎた文明から一気に旧世紀の生活を送ることになった。


 これが私たちの世界に起きたこととして長く語り継がれ、31世紀になった今、ようやく21世紀の文明を取り戻したとされている。


 研究者の中にはこれを『文明のリセット』と定義し、生み出された多くの革命的な技術が世界を歪め異形を作り出したと提唱した。


 「だが、7年前のことだ。突然御三家の少女が異形化し、人や妖怪が異形化する事がわかった。それに付随するように世界各地で異形化が目撃された。どれも10代の少年少女だったという。」


 「っ……」


 先生の話を聞いていると険しい顔になるほど犬飼。そういえば、昨日海道くんが言っていたシノビ一族が守護していた御三家は7年前に滅んだと。


 それが異形による被害だったということなのだろうか。


 「古い文献にも霊能力が突如覚醒するパターンとして、思春期の心身的なストレスってのがあって、それが異形化に関連してると考えてるわけだ。」


 「だから、お悩み相談……」


 「そうだ。……それに御三家であるお前にはどちらの可能性も秘めているし、強い味方として欲しいってわけだ。」


 「私は御三家じゃないです。」


 「お前はそのつもりでも御三家は1000年の間に混ざり続けている。知らないだけで御三家の可能性があるんだよ。海外で活躍してるエクソシスト『フラワーガーデン』もそうなんじゃないかって言われてるしな。なにより天空は御三家特有の強すぎる霊能力を秘めている。霊能者であれば誰でもお前を御三家だと思うだろう。」


 話はわかった。それでも納得いかないことは多い。そもそも私は御三家じゃないし、異形化のトリガーでもない。


 全部知らないしって感じ。でも同時にもう他人事じゃ居られないのも確かだった。


 誰かが私の力を必要としているのに断るのもなんだか違う気がする。


 それに私みたいに困っている人がいるなら、助けたいとも思ったし、知ってしまったらもう見て見ぬふりはできない。


 きっとアキラも同じように戦っているはずだから。


 誰かのために戦う。


 誰かの光になる。


 消えかけた夢。忘れそうな熱。


 消えない記憶。


 今の私は空っぽで借り物の言葉に縋って進むことしか出来ない。


 全部自分の気持ちだと信じて進むしかないだろう。



 なによりできることがあるのに、やらなかったら、絶対に後悔する。


 アイドルをやって後半は辛くて今も苦しんでいるけど、あの日々に後悔なんてないんだから。


 アキラになりたいと、誰かの光になりたいと進み出した足は、私自身が進んだ最初の一歩だから。


 ───────仕方ない。やってやるか。


 


 「いいです。わかりました。やりますよ。やればいいんでしょ。自分で証明して見せます。私は御三家でもないし、異形化のトリガーでもありませんから。」


 「ふっ、その意気だな。頼むぞ。」


 先生は偉そうに笑ってみせる。


 「言っておきますけど、先生の株大暴落ですからね。」


 私は先生を睨みつけて言い放つ。


 「俺は正しいことしか言ってないぞ。最初からな。変に誤魔化してあとで知るよりきちんと伝えることに意味があるはずだ。」


 「正論を言うことだけが正しいとは思いませんけどね。」


 「ふっ、言うじゃないか。期待してるぞ。」


 先生は目を瞑り、パソコンの前に戻る。どうやら話は終わりらしい。


 「でも条件があります。私は戦いませんから。力なんてありませんし、ちゃんと守ってください。」


 早く帰れという雰囲気の中、私は気にすることなく続けた。すると、海道くんは嬉しそうに手を差し出してくる。


 「それは任せてよ。僕が君を守る。改めてよろしくね、天空さん。そして───────ようこそ、風紀員へ」


 「はいはい。ありがとう。」


 私は握手に応じる。その手は思ったよりもゴツゴツしていて男子の手だった。


 そういえば、アキラも昔手を繋いでくれたっけ。頼もしい手だったな。


 「いつまで手繋いでんのよ!早く教室行きなさいよ!私たちはまだ話あるから!」


 犬飼に強引に手を離される。まったく心が狭いわね。


 私はドアノブに触れ、振り返る。


 「……犬飼もよろしく。ご飯、美味しかった。」


 「……ふん。」


 犬飼は少し頬を赤くしてそっぽを向く。


 私は心の中で、たくさん助けてくれてありがとう、と呟いた。


 これはさすがに言えないよね。


 わたしは生活指導室を後にした。


 ◆◇◆


  部屋から出ると、壁に寄りかかる神威さんが視界に入った。


 朝練が終わったのだろうか。昨日の恐ろしい姿とは異なり、髪の色も元に戻っていて、彼女が放つ楽しげな雰囲気が溢れている。


 「え、神威……さん…」


 会えたら明るく声をかけようと思ってたけど、鼓動が早くなり、全身に寒気が走る。


 足はすくんで、一歩下がってしまう。


 昨日のことは神威さんの意思じゃないとわかっていても、対面するとすこし緊張が走った。


 「あっ!やっほー!鈴華にゃん!」


 「お、はようございます。」


 「あー、大丈夫大丈夫。近づいたりしないからさ!えっへへ!」


 悲しそうに微笑む神威さん。罪悪感が凄い。せっかく私のことを見てくれて応援していた人なのに。


 こんな風に接したくないのに、怖い。


 「……昨日のことまだちゃんと謝れてないなって思って。」


 「……え?」


 「すみませんでした。怖い思いさせちゃって。」


 深々と頭を下げる神威さん。


 「ちょ、や、やめてください!神威さんのせいじゃ!」


 「止まって!」


 「え?」


 駆け寄ろうとした私を神威さんは止める。


 「そのまま聞いて欲しい。」


 頭を下げたまま神威さんは続ける。よく見ると肩が震えて、声も涙声だ。言いたくないことを言おうとしているのがわかった。


 「伝えさせて欲しい。キモイかもしれないけど、昨日の言葉は嘘なんかじゃない。ずっと応援してて再会できて、本当に嬉しかった。」


 「……再会……?」


 「10年前、初めて君を見た時に胸が高鳴って昨日みたいに暴走したの。私はそれがわかっていたのに近づいたの。」


 「10年前って……」


 アキラと出会った時だ。まさか───────あの時の異形は神威さん?


 「森の中で一人で輝いて踊る君、一人で泣いてしまう君。どれも私の胸を打った。手に入れたい助けたいって思った。……そのあとテレビで見た君は夢を叶えて輝いていた。私にとってキミは光だったんだよ。……孤独だった私を助けてくれてありがとう。」


 「………。」


 その言葉は求めていた言葉で、目指していた姿のはずだ。でも、私はなんて言っていいのか分からずに沈黙する。少しだけ気味が悪いと思ってしまったからだ。執着が歪で怖かった。それにこの言葉は、私に拒絶されようとしている言葉だ。


 

 「でも再会したら、また暴走して……本当はお礼を言いたかっただけなのに。怖い思いをさせてごめん。」


 「……い、いえ。」


 「ごめんね、キモイ話しちゃって!……もう、近づかないから!安心して!それじゃ!……それとお願い。絶対に私に近づいたらダメだよ。……次は多分殺しちゃうと思う。」





挿絵(By みてみん)





 

 


 神威さんは明るく微笑んだが、涙が弾けた。そのまま神威さんは走り去っていく。私に追うことはできない。


 その時痛感した。


 ───────私は神威さんをこの理不尽から助けられなかったんだ、と。


 何か一つでも違ったら、共に歩むことができたかもしれないのに。


 どんな想いで私と接していたんだろう。どれだけの想いで今立っていたのだろう。


 私には分からない。


 


 私が進んだ道は、こういう世界だと痛いほど理解した。


 分かり合うこと、寄り添うことができなかったんだ。



 異形が与える被害は残酷だ。



 

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