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4章4話 遠き思い出に焦がれて


 煙の匂いが鼻をくすぐった。


 どれくらい、眠っていただろう。意識が徐々に覚醒を始める。


 朧気な記憶が戻ってくる。


 確か、猿飛が来るまで、犬飼の傍で眠ってたよね。


 眠る前、変なこと言われた気がしたけど。


 煙の匂いが強くなっていく。


 頭が回り始める。


 次に身体がうまく動かせないことに気がつく。


 あれ……なに。今どうなってるの?


 意識が覚醒するにつれて、体の感覚が鋭くなっていく。


 暑い?


 ───────いや、熱い!


 ジリジリと燃えるような、この感覚は何!?


 なんで、体動かないの!?


 私は瞳を開けた。


 ぼやけた視界が捉えたのは、真っ赤な炎。


 混乱が加速した。


 「───────え」


 息が漏れた。困惑の意味で。


 目の前の光景に理解が及ばなかった。


 どこ?なにこれ。


 「ああ、ようやく起きました?お疲れだったのですね。ぐっすりでしたよ。」


 視界を声の方向へ向けた。


 燃える炎は私を囲っており、私の視線は僅かに高い位置にあった。


 見下ろす形で目線を送る。


 そこには普段通り穏やかに微笑む雉木さんがいた。


 瞳の奥は相変わらず笑っていない。


 でもそれ以上に怖かった。


 こんな状況で普段通りなのが、恐ろしかった。


 私は体をバタつかせるが、ミシミシ、という木が軋むような音がして目線を送る。


 「なっ……!?」


 私は目を見開いた。腕が木の板に拘束されている。

 

 よく見ると、足もだ。


 「なにこれ!?外して!?ふざけないでよ!」


 「ふざけてませんよ?至って真面目です。私の正体気づいたのでしょう?目的がわからなくても、やろうとしていることは、もう知っていますよね?」


 「正体って……」


 その言葉に脳が急速にフル回転した。


 雉木さんはアキラの記憶を取り戻させようとしていた。


 ムジナを使い、たくさんの嘘をついて。


 計画的に。


 そして、もう一つ。


 私を殺そうとしていた。


 そのことを再確認したとき、背筋が冷えた。差し迫る炎の熱よりも明確に冷や汗が流れた。


 「い、意味わかんない!!私を殺すつもり!?いつでも出来たでしょ!そんなこと!」


 混乱が止まらない。いつでも殺せたはずだ。未知。恐怖。困惑。色んな感情が全身を支配する。


 「いいえ。今じゃないとダメでしたよ。あなたは鍵だ。アキラ様の記憶を呼び起こす、鍵。そして、大切な贄。」


 「贄……?なんの話を……」


 雉木さんの言葉は酷く落ち着いていた。普段の日常会話のように。私を殺そうとしているのに、殺意をまるで感じない。当たり前の作業をやるみたいに、淡々と話している。


 「私の目的はただ一つ。───────あなたをアキラ様の目の前で殺すこと。七年前、私がされたように、アキラ様の大切な人を、目の前で殺す。それが私の復讐。あの方を殺し、あまつさえ、記憶を失い、のうのうと生きてきたアキラへの。」


 「は?あ、アキラが誰を殺したって言うの!?」


 私の声は震えていた。死の恐怖からじゃない。目の前の男への狂気が恐ろしかったからだ。


 この人はこんな事のために、一体どれだけの時間を費やしてきたのだろう。


 「我が主、ウララ様ですよ。」


 「え……?アキラがお姉さんを殺した……?」


 「信じられない、という顔ですね。私もそうでした。あの日、目の前で起きたことが理解できなかった。」


 私が困惑していると、同意したように雉木さんは微笑んだ。


 怖い。なんで、なんで、なんで、この人笑ってるの?意味がわからない。


 「睦美。私の記憶を天空様に見せてあげてください。あなたの幻術を使って。」


 雉木さんは手を叩く。雉木さんの足元が光り、光の中からムジナの睦美が現れる。


 見慣れた姿。白く覆われたフサフサの毛に足や目元の毛は黒い。タヌキのような愛らしい見た目。


 でも睦美ちゃんは、私を可哀想なものを見るように見つめてくる。


 「なに、何をする気!?」


 刹那、わたしの訴えも虚しく、視界は黒く染まった。


 意識が書き換えられる。そんな感覚だ。


 流れ込む。


 雉木半蔵という人間の意識が。



 俺は、土間虹花。あの人から貰ったこの名前だけが、俺の価値、意味。


 ◆◇◆



 塗りつぶされた日々。動かない感情。


 遠の昔に何もかもを殺した。いや、自分にそんな豊かな感情があるとも思っていなかった。


 知らなかった。


 無気力だった。


 そうすることが自分を守ることだった。


 知ろうとしなかった。


 何も知らない、関わりもない、『宮ノ森』という家に忠誠を誓い、命令に従う。


 それこそが俺たちシノビの役割。


 それ以外は必要ない。


 生まれた時から番号で呼ばれ、宮ノ森に従う。


 それが当たり前。


 血のにじむような訓練も当たり前。


 人を殺すことも当たり前。


 誰かを騙すことも、裏切ることも当たり前。


 何も考えず、そう在り続けた。


 それが役割だったから。

 

  意味も理解せず、当たり前にこなした。


 上手くできないものは、切り捨てられた。


 関係ない。


 力なきものは、死んだ。


 当然だ。


 反抗的なものは、口だけで何も守れなかった。


 哀れだ。


 俺は違う。


 俺は機械のようにこなし続けた。


 周りがどうなろうと、知らない。


 初めからなにも持っていないのだから、何も失わない。


 命じられたままに、役割をこなすだけ。

 

  どいつもこいつも、下手くそすぎる。




 『7番。今日から雉木半蔵と名乗れ。新たな役割を与える。宮ノ森家、長女、ウララ様を守れ。敵となるものは全て排除しろ。永遠に守り続けろ。それが貴様の意味だ。』


 命令口調な男。もう顔も覚えてない。


 だが、俺に対する命令権を持っていた奴だ。



 『承知致しました。』


 膝を折り、頭を垂れる。


 何も思わない。


 ただ、こなすだけ。


 宮ノ森家の長女を任せられる、いつの間にか、俺はそんな所まで来てしまったのか。


 でも、どうでもいい。


 ただ、仕事をこなすだけ。


 灰色の日々を塗りつぶす。それだけ。


 そう思っていた───────




 『あなたが、私の付き人?嬉しい!』



 『嬉しい……?』


 目の前に綺麗な花が咲いたのかと思った。


 世界には色があるのだと、初めて認識した。


 息を飲むような美しい女性。


 綺麗な桃色の髪をふわりと靡かせ、水色の着物を着こなす女性。


 気品があり、親しみがあり、心の底から美しいと思った。


 自分とは別世界を歩んできたであろう女性が、嬉しそうに俺の手を取り微笑んだ。


 意味がわからなかった。


 目の前の綺麗な花が穢れてしまう。

  俺みたいなものが近くにいてはいけない。


 そう思い、離れた。



 『もお!なんで離れるの!今日から付き人なんだから、近くにいないとダメなんだよ?』


 人懐っこい人だった。


 私が離れても着いてきて微笑んできた。



 『私の仕事はあなたを守ることです。必要以外の仕事は役割から逸脱しています。私に期待しないでください。……嬉しい、など、そんな言葉、私にかけるべきではないことかと。』



 『何言ってるの!守るためには近くにいないとね!それに嬉しいって言ったのはホントだよ?……だって、あなたの瞳、とっても綺麗だもの!七色に光る虹みたいなんだもん!こんな綺麗な瞳をした人に悪い人はいないよ!これでも私、人を見る目はあるんだよ?』


 純粋に真っ直ぐ、思ったことを伝えられた。



 『私の瞳が綺麗……?なにを馬鹿な……』


 言われたことがなかった。


 というより、こんなに真っ直ぐ見られたことがなかった。


 人として、認識されたことなんてなかった。


 そして、気がついた。この人は勘違いしているんだ。


 私の瞳が美しいんじゃない。


 私の瞳に映る貴方が美しいんだと。


 そう思い込むようにして、飲み込んだ。


 ウララ様の言葉の意味を、考えたくなかったかもしれない。


 それから、私とウララ様の日々が始まった。


 なぜだか、ウララ様と関わると胸が苦しかった。


 彼女は知らなかった世界を見せてくれるから。


 楽しい、嬉しい、幸せという、私の世界からかけ離れたものを見せてくれるから。


 何気ない日常も、空の色も、外の空気も。


 あらゆるものが色付いて行った。


 だからこそ、心が壊れ始めた。


 日中、ウララ様と過ごす何気ない時間。


 豊かなもので胸がいっぱいになる。


 でも、夜。


 人を殺し、誰かの日常を壊し、暗躍する。


 ウララ様のために。


 そう思っていた。


 これまで通り、当たり前のことだ。


 なのに、豊かさを覚えた胸は張り裂けそうだった。


 周りを見る目が変わった。


 俺と同じように心を殺している10番。本当は明るくて馬鹿なやつなのに。見ていられない。


 不器用で力がない3番。危なっかしくて放っておけない。


 そしてウララ様が目をかける弟。


 優しく、姉に憧れている普通な子。


 恵まれた才能を持っているのに、期待に負けそうになっている。


 姉に甘えて。甘やかされて。


 でも目が離せなかった。


 それから、睦美と契約したのも、この頃だった。


 家の近くの森に住み着いた妖怪。


 ウララ様の行きつけの花畑が近かったから、退治しに行った。


 それなのに、何故か契約を結んでしまった。


 なぜなのか、わからなかった。なんで、そんなことができてしまったのか、わからなかった。


 いや、分かりたくなかった。


 自分の心が知らないうちに、変わっていることに。


 変わったと言うより、本来持っていた何かが、顔を出し始めたことに。


 なにかに裏切られ、生きることを諦めていたムジナに心を動かされたこと。


 自分と似ている。自分もウララ様と出会わなければ、同じだったかもしれない。


 そんなふうに思ったことなんて。


 思いたくなかった。知りたくなかった。


 最初から何も知らなければ、なにも感じずに済んだのに。






 『ねえ、虹花。』



 『なんでしょうか。』



 『私、虹花が好きだよ。』



 『……え?』



 『これからも、変わらず、私とアキラを見守っていてね。』


 ウララ様のことがずっと、わからなかった。


 でも心は惹かれ、温もりを知り、大切なことを沢山教えてもらった。


 それなのに、『好き』?


 俺のことを?


 意味がわからなかった。


 なんで、血塗られた手を持つ俺を。


 俺なんかのことを、好きだと、語る?


 その意味を考えたくなかった。


 自分の中の答えも知りたくなかった。



 『私ね、今家庭教師つけてるんだよ?絶対!虹花と同じ学校行くから!待っててね!』


 知っている。


 大坪拓。ウララ様が偶然知り合った大企業の御曹司。


 恵まれた場所にいながら、目的なく生きてきた男。


 そんな男をウララ様は導いた。

 

  教師という道を与えた。


 本人に自覚があったかは分からない。


 それでも、この人は知らないうちに周りを変えていく。


 良くも悪くも。


 エネルギーが大きすぎる人だった。



 そして。あの日。


 琴上家と宮ノ森家の集まりに、俺とウララ様とアキラ様が呼ばれた。


 アキラ様は本気を出すことなく新という男に負けた。


 家のプライドをかけた戦い。


 アキラ様は恐れられる不安から、本気を出さなかった。


 昔ならただの馬鹿と吐き捨てた。でも俺の中の心はめちゃくちゃだった。


 怒り、悲しみ、同情、理解。


 こんな場面で出し惜しみしたら、どうなるかなんて、わかっていただろうに。


 なにより、ウララ様が傷つくとわかっていただろうに。


 それなのに、アキラ様の行動を感情を理解できてしまった。


 そんなこと、考える必要ないのに。




 ウララ様は懲罰を受けたアキラ様を泣きながら、寝室に運んだ。


 そして、俺に抱きついてきた。


 本当に強く、優しく、弱い人だ。




 『私ね、同じなんだよ。……虹花と。』



 『……え?』



 『アキラのこと、ずっと何も出来ない不器用なやつだって、もっと、上手くやればいいのにって。思ってた。でもあの子優しいから、私のあと着いてきて、笑うの。三年前だって、女の子助けたんでしょ?私の真似っ子して。だんだん可愛く思えてきて、アキラのためなら、なんだって、できるようになって。こころが満たされたの。こんなに家に生まれて、不幸だって、上手くやらなきゃって、思ってたけど、私の気持ちを理解してくれる虹花がそばにいて、見守ってくれる。可愛い弟のアキラがいる。……だから、力を貸して欲しいの。もっとちゃんと、頑張るから。』


 それはウララ様が奥底に抱えてきたほんの一部だったと思う。


 それでもあのウララ様が自分となにかひとつでも、分かち合えていたことに喜びが溢れた。


 ああ、この人も同じだったんだと。


 なんて愛おしいんだと。




 『あなたは、あなたのままで、充分周りを惹き付けて、変えていきます。安心してください。きっと大丈夫です。』



 『うん!……そうだよね!大丈夫だよね!』


 涙を拭いながら微笑む。


 凛としていて、美しい。


 魂から美しさが滲み出ている。


 俺の拙い表現じゃ、表せないほど、彼女は強く、美しい。



 『アキラ様が起きたら、あの花畑連れて行って差し上げましょう?きっと、よき気分転換になるはずです。』



 『それ、めっちゃいい!!!!』



 俺とウララ様が楽しく話し合っていると、背後に気配を感じた。


 海斗だ。



 『何か、ありましたか。』



 『当主がお呼びッス。一人で来い、と。おふたりの護衛はオレがやるッスよ。』



 『そうですか。わかりました。ウララ様、先に行っててください。あとで行きますから。』



 『えー!絶対だよ!!』


 海斗にウララ様とアキラ様を任せて、私は当主の元へ向かった。


 簡単に離れた。


 これが最後の別れとなることも知らずに。



 当主の話は意味がわからなかった。


 開口一番に言われた言葉。



 『半蔵、ウララを殺せ。』



 『───────は?』


 初めて命令の意味を理解できなかった。



 『何を惚けている?さっさと実行に移せ。いつも通り、何一つ証拠を残さずだ。』


 当主は机に肘をつき真顔で言っていた。


 脳内で警鐘が響く。


 自分の娘を殺せ?何が目的だ?そんなこと考える必要はない。言われた通り仕事をこなせ。ウララ様を殺す?そんなことできるわけが無い。


 シノビとして育てられてきた体が命令を聞こうとする。


 だが、俺の心はその命令を激しく拒絶した。



 『なんだ?少しの間、世話を焼いて情が湧いたか?』



 『私の……役割は、ウララ様を守ることです。その命令には従えませ───』



 『違うだろう?貴様の役割は、宮ノ森家を守ることだ。我が一族を繁栄させることだ。そのためには、ウララは邪魔だ。俺は次の当主にアキラを選ぶ。ウララはアキラの成長を阻害している。』



 『ならば、ご自身でやられては。私はウララ様を殺すことはできません。気持ち的にも、契約的にも。』



 『誰も直接、手をくだせとは言っていない。琴上家の仕業にしろ。そうすれば、アキラはもっと強くなる。あの琴上家を失脚させられる!あのフラワーガーデンの娘を娶れば、さらに宮ノ森は強くなる!素晴らしいだろう?』



 『当主……本気なんですか……』


 俺は全身から冷や汗が溢れ出た。


 アキラ様のことも、ウララ様のことも、この男にとっては、一族を繁栄させる道具でしかない。


 気持ち悪い。気持ち悪い。


 なにより、自分がずっと何も知らず、この男の命令を聞いていたことが。


 一歩、二歩と下がる。


 目の前の男は欲望に心を躍らせ笑っている。


 殺したい。心底、殺したい。


 でも契約により、宮ノ森は殺せない。


 殺したい。


 目の前の男を殺したい。


 息が荒くなる。

 

  今まで経験したことの無い憤り。 このままじゃダメだ。


 お2人を守るのが俺の仕事。


 俺の生きる意味。


 救い出さないと。



 刹那。勢いよく扉は開け放たれた。



 『は、半蔵兄さん!!!!ウララ様が、アキラ様が!!!二人のところに突然、異形が現れて!ウララ様が異形に飲まれて───────』



 『っ!!!!!!!』


 俺は全力で走り出した。



 『当主様も早くするっす!!じゃないと、ウララ様が!』



 『異形に飲まれた穢れた奴など、娘ではないわ!いいな、半蔵!アキラを助けて戻ってこい。』



 『くっ!!!黙れ!クズ野郎!!!!オレは貴様の言うことなど聞かぬ!!!我が主はウララ様だけだ!!!!』


 俺は怒りと勢いに任せて言葉を吐き捨てた。



 『半蔵兄さん!』



 『なんだ!?』


 海斗へ向ける瞳も怒りに満ちていた。俺がそばにいるべきだった。こいつに任せるんじゃなかった。



 『ウララ様はおれを逃がしてくれたっす。私の大好きな人を呼んでって、必ず助けてくれるって信じてるって』


 海斗は瞳に涙を浮かべて床に崩れ落ちた。


 あの人の言葉が、そのまま聞こえてきた。


 なんだよ、それ。


 貴方はいつも、勝手すぎる。


 俺の世界に土足で踏み込んで、掻き乱して。

 

  いつも遠くで笑って。



 絶対助ける!!!!!










 でも。




 辿り着いた思い出の花畑は血塗られていた。



 アキラ様が、ウララ様を、刀で貫いていた。






 『あぁ……ああ、』


 声が出ていた。


 視界が歪んでいた。


 理解できなかった。


 ウララ様の体から瘴気は消え、そのまま倒れ込む。血が止まらない。


 アキラが泣いている。


 花畑を血の海に変えていく。


挿絵(By みてみん)


 ウララ様が何か言ってる。聞こえない。届かない。


 ウララ様は息を引き取った。


 アキラは気絶するように倒れた。


 間に合わなかった。





 『あぁあああああああああっ!!!』


 訳もわからず叫んでいた。


 霊力が溢れ出て、体から炎が溢れ出た。


 倒れ込んだアキラを持ち上げ、殺そうとした。



 ───────でも、できなかった。


 契約のせいで。




 『くっそぉ!!!!!!』



 アキラを投げ捨て、ウララ様を抱き上げる。


 まだ温かい。


 でも、身体のどこに触れても命を感じられなかった。


 血が体にドロっとこべりつく。



 何のための、契約だ。


 何のための、付き人だ。


 何のための一族だ。



 全部、ぜんぶ。


 どうでもいい。


 壊れてしまえばいい。



 ウララ様がいない世界なんて、意味は無い。




 『オレが全部、壊しますからね。ウララ様。』


 俺がこの一族を殺せないなら、違う人に殺してもらえばいい。


 引き金を引くのは俺だ。




 ◆◇◆


 意識が急激に引き離される。


 天空鈴華の意識が戻ってくる。


 私の理解を超えた感情だったからだ。


 意識が私のモノにもどると、嘔吐が止まらなかった。


 人の意識を無理やり体験させられる感覚。


 自分とは異なる感性をダイレクトに追体験する気持ち悪さ。


 なにより、目の前の雉木さんの狂気。


 壊れた感情の受け流し。


 その過程。


 変化。


 全てが歪で、理解したくないのに、理解させられた。


 「おやおや。まだ途中でしたのに。刺激が強すぎましたか?では、ここからは私が何をしてきたのか、直接教えましょうか。」


 「誰も……求めて……ない……いまので、充分理解した……」


 「まだまだ足りませんよ。ここからが、私の復讐なのですから。」


 「アキラはウララさんを殺すような、人じゃ……ない!なにか、理由があったんだよ!」


 「理由?そんなもの、関係ありません。アキラがウララ様を殺したのは事実なんですから。……話を続けますね。あなたには聞く権利がある。アキラ様も聞いていますから。」


 「え?」


 雉木さんの言葉に顔を上げた。

 

  さっきは混乱して、周りを見れていなかった。


 炎の外に私のように気の板に固定されたアキラがいた。


 「ごめ……ん。鈴華。───────俺は、姉さんを殺した。全部、思い出した。俺が、姉さんを殺したんだ。」




 私は絶句し、アキラは悲痛に顔を歪める。


 睦美は俯いた。



 雉木さんは笑った。


 だが、次にアキラが発した言葉で雉木さんは、かつてないほど、表情を歪ませた。


 


 「だから、殺すなら、俺を殺せ。虹花。」



 「その名で呼ぶなぁああああああ!!!!」


 燃え盛る炎の中、雉木さんの憎悪に満ちた声だけが響いた。


 理解した。


 彼の過去を見たからこそ。


 この人はずっと。


 七年前から、ウララさんという思い出に取り憑かれている。


 焦がれて、思い出して、復讐でしか生きる道がない。


 それだけが彼を動かしている。



 

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